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第11話 三枚の書置き

『サラ様へ 

 東の山にモンスターが居着き、近隣の民が困っているとのことで早急に討伐してまいります。日没までに必ず宿に戻ります。我が儘をお許しください。 

                              ジェイク 』 

     

『サラちゃんへ

 今朝ね。寝汗がすっごいの。ジェイクいないみたいだし、入浴してくるね! ついでにとっても気になってることを調べてくるからちょっと帰るの遅くなるかも。ジェイクよりは早く帰ってくると思う!

                              アイリス 』

 

『サラ 

 ごめんなさい。二人がいないなら今日も旅には出られないわよね。あたしもとても大事な用事があるから少しだけ出掛けてくるわ。昼すぎには戻れると思う。あたし、最高の魔法使いになるから。

                               レーネ 』





 読みおわった三枚の書き置きを膝の上でトントンと揃えてから、冷静になって考えようとした。でもダメだった。


「ええ――――!?」


 え!? ジェイクさんとアイリスさんとレーネちゃんが出掛けていない――!? なんで!? 今日は馬車に乗るんじゃなかったの? それにみんなってサラ王女(私)の側にいてくれるんじゃないの? 一気に三人もいなくなることってある!? あ、わかった!


「ミリー、これはドッキリね?」

「え? ドッキリってなんですか?」

「ご、ごめんなさい、今のは忘れてちょうだい……」


 この世界にドッキリないっぽい。サプライズがあるからドッキリもあるんじゃないかと思ったんだけどな。


「すみません……私が起きたときにはもう三人ともいなくて……」

 

 そう言ってミリーちゃんはしょんぼり肩を落とした。


「ミリーが謝ることはなにもないわ」

「……はい」


 慌てて言った私の言葉にミリーちゃんは頷く。

 せっかくこんなに晴れたのに、ちょっと馬車に乗るの楽しみにしてたのに。朝起きたら、三人もいないなんて。昨日そんな素振り全然見せてなかった――――いや、見せてた! 


 ジェイクさんは竜狩りギルドの報告に来たときなにか言おうとしてたし、アイリスさんは夕食のとき考え事してたし、レーネちゃんはお風呂から帰ってくるとき立ち止まってどこか見てた。

 思い返すと今朝の外出に繋がる素振りが三人ともあった。書き置きを一枚ずつ読みなおす。


 ジェイクさんは人の命を守るために戦ってそう。アイリスさんはお風呂のことは置いておいて、なにか調べてくれるみたい。レーネちゃんはよくわからないけど、大事な用事があるみたい。三人とも大事な用事があるみたいだから、無断欠勤はダメだけど、仕方がないのかな。

 ジェイクさんとアイリスさんは夕方、レーネちゃんはお昼に帰ってくる予定か……。


 よし。帰ってきたら、忘れずに私用で外出したいときは前日までに相談してくださいってしっかり言っておこう。朝起きて四人ともいなかったら心細すぎる。今日はミリーちゃんがいてくれてよかった。

 ちらっと見るとミリーちゃんはテンポよく体を動かしていた。


「いちっ、にいっ、さんっ、しいっ」


 なんか見たことがある動き――ラジオ体操!? いやちょっと違う。でもほぼラジオ体操。ちょこちょこ違うのが気になる……!


「サラさん、とても険しい顔をしていらっしゃいますが、やはりお怒りでいらっしゃいますか……?」


 ラジオ体操をやめてミリーちゃんが恐るおそる聞いてきた。私は首を横に振って、


「怒っていないわ、別のことを考えていたの」

「そうなんですね。よかったです!」


 ほっとした顔で言ってラジオ体操を再開するミリーちゃん。

 気持ちの切り替えが早い……。ミリーちゃんをみならって私も切り替えよう。お腹ぺこぺこだし、おいしいもの食べよう。


「考えていても仕方がないわね。その運動が終わったら朝食をとりましょう」

「はい!」



「ホットソーソージパンとアボアボサラダとコーヒーを二人分お願いします!」 

「二人分ですね、わかりました~、少々お待ちくださ~い」


 ミリーちゃんと私は、気分転換に宿の四軒先にあるパン屋さんで朝食をとることにした。

 ホットソーソージパンとアボアボサラダはミリーちゃんのオススメ。たぶんソーソージはソーセージで、アボアボはアボカド。こういうのに早く慣れて、ミリーちゃんに頼らずに一人で注文を選べるようになりたい。


「このお店のソーソージパンは王都リンドに来たら絶対に食べた方がいいと言われている名物パンなんです」

「そうなの。楽しみだわ」


 店内は小物や鉢植えが置いてあったり絵が壁に飾ってあったり、おしゃれな雰囲気。

 少しして注文の品が運ばれてきた。どう見てもソーセージパンとアボカドサラダだった。


「食べましょうか」

「はい!」


 うん。おいしい。食べてもやっぱりアボカドサラダとソーセージパンだった。おいしくて、けっこうなボリュームのサラダとパンをぺろっと食べてしまった。


「サラさん、おかわりはいかがでしょうか?」

「私はもういらないわ、ありがとう」

 

 恒例になったミリーちゃんの至れり尽くせりな質問に答えてから、コーヒーをひと口飲む。

 さてと。これから二人でどうしよう。まるっと一日、暇になっちゃったけど。いい天気だから部屋の中で一日過ごすのはもったいないっていうか、街を観てみたいっていうか。そういえば、この街――リンドは治安がいいって本に書いてあったけど実際のところどうなんだろう。夜にお風呂に出掛けてるし、アイリスさんもレーネちゃんも一人で出掛けてるし、よさそうだけど。一応聞いておこう。


「ミリー、街の治安がどうなっているか知っているかしら?」

「治安ですか? うーん。そうですね。リンドは他国の王都と比べると治安がよいと評判ですが、やはり裏路地の治安はよくないと思います。目抜き通りは兵士のみなさんが巡回されているので治安は特によいと思います!」

「わかったわ、ありがとう」


 大きな通りを歩けば大丈夫ってことだね。


「私、街を見てまわりたいわ。ミリーもなにかしたいことがあったら言ってちょうだい」

「わ、私がしたいことですか? え、えっと、あ! 久しぶりに街をあちこち歩きたいです!」


 意見を合わせてくれた感がすごくある……。

 ミリーちゃんは話を変えるように言った。


「サラさんが街をお歩きになるのは『鑑定の儀式』以来六年ぶりですね!」

「……」

 

 鑑定の? 儀式? 鑑定はわかるけど、『鑑定の儀式』は全然わからない。久しぶりにあれを言うときかもしれない……!


「ごめんなさい。記憶にないの」

「えっ! 覚えていらっしゃらないんですか? あっ! いえ、すみません!」

「いいのよ。言う必要がないと思って言っていなかったのだけれど、私、少し前に頭をぶつけて記憶が飛んでしまっているところがあるの」

「そうだったんですね……。記憶が戻るように私、お手伝いしますね!」


 言ってミリーちゃんはポンと手を叩いた。


「そういうことでしたら、六年前のことをお話ししてもいいでしょうか?」

「お願いしていいかしら」

「はい! 六年前、えっと、サラさんが十歳のときですね。大神殿で『鑑定の儀式』をお受けになられたんです。その儀式で、サラさんにはすごく強い加護がたくさん与えられていることがわかったんです! 初代国王以来のとてもめずらしいことだったので、それはもう大騒ぎだったんですよ!」


 なるほど。『鑑定の儀式』を受けると、どんな加護を持っているかわかるんだね。加護のことも初めて聞いてよくわからないけど、それはまた今度聞こう。


「……話してもらうと、そういうことがあったような気がするわ」

「これからなんでも聞いてください!」

「ありがとう。頼りにしているわ」


 満面の笑顔のミリーちゃんにお礼を言う。

 いろいろと質問しやすくなったかも。初めに頭をぶつけて、ところどころ記憶がなくなってるって言っておけばよかったかな……。


「サラさん、あの、私……」

「どうしたの?」


 なにか言いたげなミリーちゃんに首を傾げて聞くと、


「大神殿に行きたいです!」


 そう返ってきたから、


「私も大神殿に行きたいわ。行きましょう」

「嬉しいです! 街を出る前に大神殿で旅の成功を祈願できたらいいなって思ってたんです!」

「それはいいわね」


 楽しみ。大神殿って絶対観光スポットだよね。大神殿か、大か……。見てまわるのに時間がちょっとかかりそう。 


「ミリー、大神殿に行っても、レーネが戻ってくる前に宿に戻ってこられるかしら?」

「ええっと、レーネさんはお昼に宿に戻るとのことでしたから……」 


 ミリーちゃんは少し考えてから、


「ここから大神殿まで一マイルくらいですので、ゆっくり街を歩いても間に合うと思います!」

「そう……」


 レーネちゃんが戻ってくる前に戻ってこられそう。

 

「今日は二人で大神殿に行きましょう!」

「はい!」



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