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ポンコツ生産系チーターの助手  作者: 助手の助手
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ウォーターカッター

「ハヤシ君!実験に付き合ってくれ!」


「今度は何ですか?」


「それは見てのお楽しみだよ!さあ街の外に行こう!」


「ああ。街の中では危ないやつですか。」


「そう!スパッといっちゃうからね!スパッと!」



 ミツクニは「スパッと」と言いながら手のひらを水平に振る仕草をした。「スパッと」はどうやら切断系の擬音らしい。


 街の外に出ると一番近い森に向かい、森の入り口で一本の木を選んでテスト対象とすることにした。ミツクニによれば、木がスパッと切れちゃうらしい。

 ミツクニは木から少し離れた所に水が2~3リットル入りそうな水瓶型の魔道具を設置した。そして水瓶に水を生成する魔道具を使い水を貯めた。


「さあ準備は万全だよ。行け!ウォーターカッター!!」


 叫びながら水瓶型魔道具に魔力を流すミツクニ。水瓶の中の水が浮かび上がり、空中で平らな円盤状に形を変えると気に向かって飛んでいき、木にぶつかると弾けて辺りを水で濡らした。



「失敗ですね?」


「・・・。何故だ!理論は完璧なはず!」


「水で木を切ろうとしたのですね?」


「そうだよ!ハヤシ君はどうせ水で木を切るなんて不可能だって言い出すんだろう!?」


「いえ、そんなことはありませんよ。目の付け所はよいと思います。もっと近づけて試してみたらどうですか?」



 失敗して拗ねてしまったミツクニに代わって魔道具を木の直ぐそばまで移動し、魔道具を起動した。「パシュッ」と音がして、水の円盤は木にぶつかると弾けてしまった。だが今回は薄っすらと木に傷をつけることができた。



「やっぱり失敗か。」


「そうですね。これは失敗作です。ですが、理論は悪くない。今回考えていた理論について説明してください。」


「今回は薄く圧縮した水を飛ばす武器を開発したんだ。たかが水、されど水!高圧にした水流は石だって切断できる!はずだったんだけど、何が駄目だったんだろう。」


「まあ見てください。今回の実験ですが、2回目はこの通り、薄っすらとですが木に傷をつけています。つまり、もっと強力にすれば水で木を切ることもできるということです。そういう意味では今回の実験は失敗ではないのでは無いですか?」


「確かに!確かにそうですな!ハヤシ殿!で、何をどうすればよいのでござるかな?」


「丸投げですか。まあいいでしょう。まず、今回の魔道具は元の世界のウォータージェット工法を参考にしたものですね。だとすると、対象物に当たる水を高圧にすることと、それを対象物に掛け続けることがポイントになります。」


「高圧を掛け続けるでござるか。ほうほう。」


「高圧を掛け続けるためには水を連続で放出する必要がありますね。もっと水の量が必要です。」


「もっと水の量ですか。ふむふむ。」


「また、距離が遠くなるとどうしても圧力は下がってしまいます。もっと近距離でないと効果がでません。」


「むむむ!待って下され!ウォーターカッターは攻撃魔法にしたいのでござる!近距離でないと駄目では意味がないのでござる!」


「そうですか。ウォータージェット工法は流水を使うことによる冷却効果など、物の加工に適した面が多いのですが、仕方ないですね。ここはウォータージェット工法からは離れましょう。」


「それでもいけるのでござるか?」


「はい。ミツクニ君は水を円盤状にして飛ばしましたね。水が円盤状を維持しているのは、水に全方位から圧力を掛けてその形を維持するようにしていたからだと思います。この圧力が木に衝突した後も維持されて形が崩れないならば、ぶつかった木にも圧力を与えることができます。それが2回目の傷です。ですがただ形を維持しようとするだけならば、木からの反発力で押し戻されてしまいます。そこで推進力です。強い推進力があれば木に圧力を掛け続けることになり、その強さ次第ではスパっと行くことでしょう。」


「おお~!!形の維持と推進力でござるな!」


「ですがこの攻撃方法は、単純に高い圧力を対象物に掛けるというものです。刀や剣を振るうのと何ら違いはありません。水である必要はなく、元から硬い円盤状の物であれば形を維持するための圧力が不要となり、推進力だけで済みます。敢えて水にするメリットは、水魔法が得意ということでもなければ無いでしょう。」


「うぐぐっ。円盤を飛ばす方が効率的でござるか。何だか拙者の思い描いたウォーターカッターとは違うでござる。」


「ですが考え方によっては色々な応用が考えられる技術です。形状維持で水を剣のようにすることもできるでしょう。そして推進力は自らの手で振るうことで得れば完全に剣です。これは水に限らず、空気でも同じことができるかもしれません。空気の剣は見え難いため、視覚に頼って戦う相手には有効かもしれませんね。」


「ぬおお!俄然格好良くなりますな!空気の剣とはハヤシ殿もなかなか!ですがネーミングセンスはまだまだでござる。空気の剣、空気の剣、空気の剣、・・・」


「空気の剣はミツクニ君が好みそうなので例として言いましたが、魔法で圧力を自在に操ることができるならば恐ろしく効率の良い攻撃手段になるかもしれません。魔法を使って物理で殴るとったところでしょうか。ってもう聞いていませんね。」


「・・・、エアリアルブレード!エアリアルブレードがいいぞ!流石は僕!はっはっはっ!さあ帰って研究だ!エアリアルブレードを完成させるぞ!」





「ハヤシ君!エアリアルブレードが出来たのだが、問題があるんだ!」


「問題ですか?いやその前に、出来たんですか!?」


「何だその出来たのが意外みたいな反応は!生産系チートの僕なら出来て当たり前だろう!」


「いえ、提案しておいて何ですが、後から少し無理があるかなと考えていたので。それで問題とは何ですか?」


「まずはこれを見てくれ。刃の無い剣の柄に魔法陣を書き込んだんだ。極小領域に超難解魔法陣を刻み込む必要があって、チート全開で素材もミスリル使ったりして自重無しにやってみたんだ。柄からの相対座標で固定位置に空気を超高圧圧縮した刃を形成して出来たのがこの「エアリアルブレード試38」なんだけど、例えばこの木の棒を切ろうとすると。えいっ、うわっ!っと、この通りなんだよ。」



 ミツクニが振ったエアリアルブレードは試し切り用に固定された木の棒に浅い傷を付けたが、直ぐに剣が棒と反発するかのように飛び跳ねた。


「威力が低く木の棒に傷がつく程度。それから、反動が強いということですね。」


「その通り。これじゃあ使い辛いよね。」


「私はこれはこれで有りだとは思いますが、威力が低いのはエアリアルブレードがとてつもなく軽いからだと思います。超高圧とは言え素材は空気ですからね。その分、軽いから楽に振り回せるというメリットがあります。」


「重さかぁ。エアリアルブレードのコンセプトだと仕方ないのかなぁ。」


「もう一つの反動については、形状固定が甘いため弾性を持ってしまったのだと思います。切りつけた際に剣身領域に対象が入り込みますが、直ぐに剣身の復元力が働き超高圧の反動が来るのでしょう。無くすなら形状固定をもっと強くする必要があります。ですが、慣れれば剣を戻す動作の速度を上げる効果が期待できますから、このままでも剣の軽さと合わせて手数勝負するスタイルに最適かもしれませんよ。」


「ぬおぉ!やるなハヤシ殿!武器の問題を逆手にとって戦闘スタイルまで提案するとは!」


「ところで、「エアリアルブレード試38」とはどういうことですか?」


「ん?試作品38号。そのままの意味だよ。」


「今回は本当に38号何ですね。それはつまり、38本も高価なミスリルを使った失敗作を作ったということですか?」


「いや、最初の9本はミスリル使ってないし、38号は失敗作ではないから、無駄にしたのは28本だけでござるよ。」


「十分無駄にしてますよ。ちゃんと回収出来るんでしょうね。」


「えーと、加工済みの物を素材に戻すのは地味に大変。やります!やらせていただきます!ハヤシ殿が珍しく怒っておられるので、直ちにやらせていただきます!」


「直ちにお願いします。」


「はいぃぃ!」



 ミツクニがゴミ箱を漁り始めた。まさかのゴミ箱行きだったとは。

 魔道具に描く魔法陣は刻む対象の素材によって必要な魔法陣の大きさが変わり、高度な魔法陣を小さく描くにはミスリルの様な高価な素材が必要なのだそうだ。ミスリルは高いだけではなく入手も難しいのだから大切に使って貰わないと困る。


 それにしても魔道具は思いの外、圧力を自在に操ることができるようだ。アイデア次第では凶悪な魔道具も作れてしまうかもしれない。低圧空間で窒息とか。

 圧力操作は世に出してはならない技術な気がしてきた。生産系チートの恐ろしさを垣間見たな。


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