馬車の作者は?
それはミツクニが開発した馬車用サスペンションを納品した帰り道のことだった。
「もしもし、あなたがあの馬車の発明者でしょうか?」
「ええと、あなたは?」
「私は今回馬車を特注いたしました者です。」
サスペンションを担いで馬車の組み立てを任せている工房に入るところを見られたのだろう。となると言い逃れはできないか。
「発明者は私ではありません。私は納品を仰せつかっただけです。」
「そうでしたか。ですが発明者を御存知ですよね?どうか紹介いただけないでしょうか。」
「それはできません。」
「紹介料もお支払いしますし、発明者の方にもお礼をしますのでどうかお願いします。」
「勝手なことをしては私が叱られますのでどうか諦めてください。」
「では勝手について行くのでしたら問題ありませんよね?」
「駄目に決まっているでしょう。つけられたら、結局私が叱られるではないですか。」
「そうですか。ご迷惑をおかけしました。発明者の方には会いたがっている者がいたとだけお伝えください。」
しつこくミツクニのことを聞いてきた男もやっと引き下がり、帰路につくことができた。だが尾行されている気がする。裏路地に入って無駄に遠回りをしてから帰ることにした。
今回のことはミツクニにも教えて注意喚起しておこう。
「今日、サスペンションを納品しに行った帰りに、生産者を教えて欲しいと声を掛けられました。」
「え?どんな人?美人だった?」
「胡散臭いおっさんですよ。」
「げ~。男に興味を持たれても嬉しくないよ。」
「目的は分かりませんがミツクニ君のことを嗅ぎまわる人がいるようですので注意してください。」
「了解!」
う~ん。ちょっと不安だ。何も無ければいいが。