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ポンコツ生産系チーターの助手  作者: 助手の助手
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ライトニング

「この世界で電気系の攻撃魔法の話はきかないよね。」


ミツクニがまた何か言い出した。


「伝説レベルですが、雷雲を呼び起こす魔法の話はありますよ。」


「雷雲はどこに落ちるか分からないから駄目だよ。もっとこう、バチバチバチっと電撃が狙った方向に進んでいくような魔法が欲しい。」


「電撃が進んでいくですか。映画や小説などでは似た様な表現がありますが、電撃にそのような表現は合いませんね。」


「どういうこと?」


「ミツクニ君は電気が人の目で追える速度で進行していくことをイメージしていませんか?電気はそんなに遅く流れることはありませんよ。電気の進行速度は光に匹敵します。雷に対して「落ちる」という表現を使いますが、雷雲の高さから物を落とした場合を想像してみてください。地表に落ちるまで数秒から数十秒も掛かります。それに対して雷は一瞬です。光ったと思ったら消えています。その進行速度は目で追える物ではありません。電撃とは、回避不能の一瞬の出来事なのです。」


「光の速さに匹敵。そんなに速いのか。恰好いい!」


 しまった。ミツクニの琴線に触れてしまったようだ。


「もし作るなら、まずはスタンガンの様な小さな物から始められてはどうですか?」


「スタンガン!!いいよいいよ!やってみよう!」



それから、ミツクニによる電撃の魔道具開発が始まった。



 数日後。


「見たまえハヤシ君!」


 ミツクニがそう言うと、取り出したのは魔法陣が描かれた500mlペットボトルサイズの円柱上の魔道具だった。


「この魔道具を起動すると。」


 ミツクニが魔道具に魔力を流すと魔法陣が光り、直ぐに円柱の前方10cmくらいの空間にバチッと電撃が迸った。


「魔法陣を起点とした相対座標位置で指定した二地点にプラスとマイナスの電荷を誘起させて、放電現象を起こさせる魔道具だよ。まるでスタンガンのようだろう。これを巨大化すれば二点間に電撃を発生させる『ライトニング』が実現できるはずだ!」


「『ライトニング』ですか。二点間の距離はどれくらいを想定しているのですか?」


「まずは5mくらいにしよう。それで隊列を組む敵の前衛をまとめて攻撃できるだろう。直線状に電撃が走り敵を一網打尽だよ!」


 5mか。失敗するな。




数日後。


「見たまえハヤシ君。『ライトニング』が完成したよ。」


ミツクニが両手で抱えているのは、酒樽くらいの大きさの魔道具だった。


「随分大きいですね。」


「前回の放電距離は5cmだったからあのサイズで済んだけれど、今回は放電距離を5mで100倍だからね。魔石も沢山必要なんだ。それでも何とか持ち運び可能なサイズにしたのだよ。」


「消費する魔力量も前回の100倍ですか?」


「その通り!そこで魔石を複数組み込めるようにして魔力を供給できるようにしたんだ!計画は完璧だよ!」


 地味に凄い技術だ。通常の魔道具は魔石一つからしか魔力を供給できないので、ミツクニの技術はノーベル賞ものの画期的な技術だったりする。



「それにしても魔石がもったいないですね。」


「ふふん。『ライトニング』格好良さにはそれくらいの価値があるのさ!知っているかい?電気は光に匹敵する速さなのだよ!」


 それ、私が教えたやつ。


「それで、試し撃ちはしたのですか?」


「危ないからやってないよ。でも理論は完璧。街の外に行って試してみよう!」


 自信満々のミツクニ。当然のように失敗するパターンだ。



 街の外に出た。


「さて、魔道具はセットした。この向きにセットして魔法陣に起動の魔力を流すと、前方10m程の横5m間隔の二点間にプラスとマイナスの電荷が誘起され、二点間に電撃が走るんだ。電気は速いから一瞬の出来事だよ。準備はいいかい?」


「その前に、ミツクニ君は隊列を組む人に対する攻撃を想定しているのですよね?」


「無論だ。座標指定は完璧だよ。」


「それでは恐らく、二点間に電撃は走りませんね。」


「そんなことないさ!大丈夫!必要な電荷量もきっちり計算してあるから、成功間違いなしだよ!それでは行くよ!」


 ミツクニが地面に設置した酒樽大の魔道具に触れて魔力を流す。魔法陣が光り、轟音と共に小さい雷が二つ地面に落ちた。


「いっ、一体何が!?」


 ミツクニが驚愕の声を上げた。


「ミツクニ君。電気は通り易い所を通るのですよ。人を攻撃することを前提にしたため、電荷を発生させる高さは地表から1~1.5m程ですね。それに対して二点間の距離は5m。二点それぞれの電荷は二点間を真っ直ぐ通るのではなく、それぞれがより近い地面に落ちたのです。だから二点間に電撃は走らないと言ったでしょう。」


「そ、そんな!それでは『ライトニング』は夢のままで終わってしまうのでござるか!」


「二点間に対極する電荷を発生させて放電させる方法では難しいでしょうね。ですが実現する方法も無くはありません。」


「そっ、それは!?」


「例えば、もっと短距離の放電を連続で発生させて繋げてやれば、地面に落ちずに横方向に長距離走る『ライトニング』が実現できるでしょう。」


「なるほど!それなら実現できるでござるな!うん!?それなら発生させるタイミングと距離を調整してやれば、電撃が目に見える速さで進んでいくかのような動作も可能ではないでござるか!?」


「可能ですね。それに何の意味があるかは分かりませんが。最初から狙った位置にピンポイントで放電させた方が効率は良いでしょう。」


「なんのためと言われれば、それはロマンのためでござるよ!ウシシシシッ!これは良いですぞぉ~。」


 またしてもミツクニの琴線に触れてしまったようだ。


「どうしてもやるなら、まずは前回の小規模な魔道具を改良して、連続で放電を発生させる魔道具を作ってみてはどうですか?」


「ふむふむ。確かに実験は必要ですな。そうと決まれば帰って研究ですぞ!」


 ハイテンションのミツクニは酒樽大の魔道具を抱えて工房に帰っていった。




 その後、連続放電する500mlペットボトルサイズの魔道具が完成した。その性能は正にスタンガン。もう少し小型化出来れば護身用具として大ヒットの芽がある。治安を守る騎士団に配備される可能性もあり利権の匂いがプンプンする代物だ。

 更にミツクニは『ライトニング』の魔道具も完成させた。位置とタイミングをずらしながら連続で短距離放電を起こさせることで、あたかも放電が移動しているように見せる魔道具だ。無駄に連続放電させるため1回使用するだけで大量の魔石を消費する燃費の悪さと、酒樽大という大きさによる使い勝手の悪さで売り物にはならないだろう。いくら格好良くても失敗作感は否めない。だがミツクニは大満足だった。


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