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ポンコツ生産系チーターの助手  作者: 助手の助手
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サスペンション

「ミツクニさん。今回は随分と大きな物を生産していますね。」


「そう!今回は見ての通り、馬車の生産に着手したのだよ。異世界と言えば馬車が付きものだからね!」


「この世界の交通手段が徒歩か馬車であることは確かですね。ところで、何故工房の中で組み上げているのですか?」


「何故って、工房は生産のための場所だから当然だろう?」


「ですが、完成しても扉が通れず外に出せないと思いますよ。」


「はっ!孔明の罠か!」


「ただのドジでしょう。」



 ミツクニは組み上げかけていた馬車をばらして外に持っていき、再度組み上げを開始した。馬車は素人が作れるような簡単な代物ではないが、ミツクニは元の世界で馬車の設計図をネットで調べて暗記しているそうだ。そんなものを覚えようとした奇特さと、実際に覚えている記憶力はミツクニの優れた面だろう。そして、材料さえあれば思い通りに生産できてしまう神様から貰ったチートスキルまである。ミツクニが希望している生産系チートを実現できるだけの素養はあるのだ。思慮不足さえなければ。


「それで、この馬車はどこが特別なのですか?まさか普通の馬車を作っている訳ではないでしょう。」


「ふっふっふ。よく聞いてくれたねハヤシ君。さあ、これを見たまえ!」


 ミツクニがそう言って指さしたのは、金属製の大きなバネだった。


「サスペンションですか?」


「そう!サスペンションだよ!これを付ければ馬車の揺れを大幅に低減できること間違いなしさ!これで馬車での長距離移動も苦にならない!これはもはや産業革命というべき発明だよ!」


 サスペンションはあった方が良いだろう。だが、産業革命は言い過ぎだ。まあ、だが。


「上手くいくといいですね。」


 とりあえず激励の言葉を送っておいた。



 翌日。


「ついに完成したよ、ハヤシ君!名付けて、低振動馬車14号改だ!」


「1号から13号はどうしたのですか?」


「これが初号機だが、14号と名付けたのは気分だよ、気分。それよりも早速試してみようではないか!」


 そう言うと馬車に乗り込むミツクニ。それを馬車の外で見守っていた。


「・・・。」


「・・・。はっ!馬が居ない!」


「気付きましたかミツクニ君。馬が居ないと馬車は動きませんよ。」


「しまったぁ~!機構部の組み立てに一生懸命で馬のことを忘れていたぁ!ハヤシ君!馬ってどこで捕まえるの!?」


「はぁ~。今から野生の馬を捕まえて調教する気ですか?調教済の馬を買ってくる方が早いでしょう。私が手配しますから、明日まで待ってください。」



 翌日。


「やはり馬車には馬が必要ですな。これこそ馬車の完成形。素晴らしい!」


「馬との連結部分の構造は、手伝ってくれた馬屋の人も褒めてくれていましたね。」


「それはもちろん、前世で覚えた最新の構造を再現したからね。それでは試乗といこう。」


 そう言うと馬車に乗り込むミツクニ。それを馬車の外で見守っていた。



「・・・。」


「・・・。はっ!動かし方が分からない!」


「仕方ないですね。御者は私がやりましょう。」


 この展開を読んでいた私は、昨日のうちに御者のやり方を教わってあった。ミツクニ作の馬車に乗り込むと手綱を握り馬車を動かした。



「ついに低振動馬車14号改が動き始めましたな!サスペンションの効果を実感するにはスピードを出す必要があるのでござる!さあハヤシ殿!スピードを!」


「街中では危険なのでスピードを出せませんよ。街の外に出てみますか?」


「もちろんでござる!」



馬車で街の外に出て、街道で馬を走らせた。


「なんとっ!揺れがっ!酷いでござる!お尻がやられるでござる!スピードを!緩めて!くだされ!ハヤシ殿~!」


「はいはい。少し待ってください。」


「何故直ぐに遅くしてくれんのですか!?」


馬に曳かれる馬車は簡単にスピードを落とすことができない。徐々に緩めさせる必要がある。ミツクニの叫びは無視して時間を掛けて馬車のスピードを落としていった。




「おかしいでござる。サスペンションが全く機能していないでござる。」


「ミツクニ君は普通の馬車に乗ったことはありますか?」


「無いでござる。」


「実はあれでも普通の馬車よりマシなんですよ。」


「なんと!あの尻を破壊し、三半規管を揺さぶり、吐き気を催すような揺れがマシですと!?この世界の人はあれで我慢しているのですか!?」


「普段は馬車のスピードを上げたりしませんよ。」


「ええ!?人間が走った方が速いではないですか!?馬車に乗る意味が無いのでは!?」


「人が馬車に乗るのは、自動車のように速いからではありません。重い荷物を持って歩くよりは楽だからです。馬車と徒歩ではスピードにそれほどの差は無いのですよ。」


「そうなの?いや、そう言えばそのような話を読んだことがあるような、無いような。いや、しかし、それとサスペンションの効果とは話が別。自動車の様にもっと快適になると思ったのですが。」


「ミツクニ君は前世の自動車をイメージしていたのですね。あれとは色々と条件が違いますよ。一つはシート。気の板に座っているのでどうしてもお尻が痛くなります。自動車のシートと比べてクッション性が低いことは否めません。」


「シートは確かにそうですな。改良の余地あり。」


「次に、タイヤの差があります。ゴム製空気入りのタイヤと木製のタイヤでは衝撃吸収能力に格段の差があります。」


「タイヤですか。確かにそうですな。これまた改良の余地ありと。」


「そして最も大きな違いが、道路です。元の世界の自動車でも、道なき荒野を走る姿を想像してください。揺れが激しくて大変でしょう?」


「確かに確かに。芸能人が罰ゲームでスタントマンの運転する車に乗せられてフラフラになるのを見たことがありますな。ですが、ここは道路では?」


「この世界の街道は荒野とそう変わりませんよ。起伏は自然のまま。舗装もされていませんし、石なども落ちています。人や馬車が何度も通ったため草が剥げて道の様になっているだけです。」


「そんな!いくら僕でも道路は改良できませんぞ!?」


「そんなことはありませんよ。道を整備するために便利な魔道具なら作れるのではないですか?それを提供して道が整備されるのを待つのです。何十年か後には快適な道路を走れるようになるでしょう。」


「待てませんぞ!快適なドライブの夢が!」


「試しにシートとタイヤだけでも改良してみてはどうですか?」


「そうでござるな。出来ることを試してみるでござる。」



その後、クッション性の高いシートとタイヤを開発して試乗してみたが、ミツクニの思い描いた乗り心地は再現されなかった。それでも普通の馬車よりは格段に揺れが少ない。


「ミツクニ君は馬車に向かないのかもしれませんね。」


「うぅぅ。残念、無念。」


「それでもこの馬車は従来の物より十分快適ですよ。高級品として売り出してはどうですか?」


「ハヤシ君に任せる。」


「そうですか。では任せてください。サスペンションとシートは設計図さえ渡せば他の人にも作れそうですね。タイヤはミツクニ君でないと作れないので追加で製作をお願いすると思います。その時はよろしくお願いしますね。」




低振動馬車14号改は街の有力者に高値で売り払い、サスペンションとシートの設計図は馬車工房に技術提供し、技術の使用料を貰えることとなった。高級品のため出荷台数は多くは無いが、一件当たりの金額が高く、莫大な収益が定期的にハヤシの懐に収まることになった。ミツクニはこの一件で馬車嫌いになったのでそんなことに興味はない。



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