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「ゔっ・・・・・」
さぁ行くぞ、と覚悟を決めて足を一歩踏み出す。しかしそのジェニファーの足が、再び止まる。それはやはり覚悟が決まらなかったとか、急に腹痛に襲われたとかそういうことではない。
物理的に、止められたのだ。
腰回りに二つの腕が回されている。恐る恐る下を見れば、そこには可愛らしいおさげの髪が見えた。それは一つだけではなく、二つ。そこまで来ればジェニファーもこの可愛らしい髪が誰のものなのか気づく。
ゆっくりとその髪に触れると、きゃっきゃと下から笑い声が聞こえた。
「お姫様」
アメリーとアニエスが喜ぶ言葉で声をかける。すると嬉しそうに顔を綻ばせてこちらを見上げる天使お二人と目が合う。
「お人形さん!」
「お人形さんごきげんよう」
「ごきげんよう、お姫様」
今日もジェニファーを魔力が込められた人形だと思っているようで、アメリーとアニエスがその名でジェニファーを呼ぶ。
少し快活な子がアメリー、そしてアメリーより控えめで、きっと年上なのだろうアニエスがきらきらとした瞳をこちらに向ける。そのあまりにも可愛らしいお二人にジェニファーは口を手で覆ってぷるぷると震える。な、なんという破壊力だろうか。
アメリーとアニエスと話しやすいように屈み込む。するとそのまま首に手を回されてぎゅう、と抱きしめられた。ああ、役得である。
そして、そんな震えるジェニファーと、アメリー、アニエスの姿に影に隠れて様子を見守る執事と使用人たちが目に涙を溜めながら震えていた。
「お人形さん、今日はおちゃかいにきたのよねっ?」
「はい、そうですよアメリー姫」
「うふふ・・・・!わたしお姫様?」
「はい、可愛らしいお姫様です」
「アニエスは?お姫様?」
「もちろんですとも、アニエス姫」
「うふふ・・・・!お人形さんだいすき!」
「(私も大好きです・・・・っ)」
ぎゅう、と抱きしめられるのでお二人を苦しませない程度に抱きしめ返す。そうしていると、アメリーがジェニファーの手を引いて歩き出す。負けじ、とアニエスもジェニファーの手を引いてぐいぐいと引っ張る。このお二人になら引っこ抜かれてもいい、と思いながらジェニファーもついて行く。
そうすると、中庭の隅に白いテーブルが置かれているのが見えた。日差しを遮るため木陰を利用しているようで、そのテーブルが日の光を点々と受けていた。
そこにティーカップを口元に運ぶ大天使が見える。今日も何をしているわけでもないのに絵になる大天使は、アメリーとアニエスに手を引かれるジェニファーに気づくとティーカップを優雅にテーブルへと置き、ゆっくりと立ち上がる。
ジェニファーは他にお茶会に参加したお嬢様がいるのではないのか、とあたりを見回すが、その姿はない。すでにお茶会が終わったというわけではないのだろうが、どういうことだろうか。
小さい天使二人に腕を引かれよたよたとしながらウィリアムへと近づく。可愛い天使と愛する者の組み合わせにウィリアムが自然と笑みを浮かべる。
その様子にジェニファーだけでなく、物陰に隠れる執事と使用人も胸を打たれた。
「お人形さん」
「ウィ、ウィリアム様・・・・」
「会いたかったよ」
両手を広げたウィリアムへ、アメリーとアニエスがジェニファーを連れて行く。そしてそのままウィリアムに抱きしめられる。アメリーとアニエスはきゃっきゃと笑いながらウィリアムとジェニファーの両方の腰に腕を回した。
な、なんと美しい光景だろうか!
執事と使用人はそこで絶叫。思わず壁や木をばしばし叩きながら声が漏れるのを堪えた。
ウィリアムがジェニファーの首元に顔を埋める。そうされるとこそばゆくてジェニファーが困ったように眉を下げながら小さく声を漏らした。だからわざとウィリアムはさらにぎゅう、と抱きしめる。アメリーとアニエスもきゃっきゃと二人を抱きしめる。
殺す気か。と執事と使用人たちは胸を押さえた。
ウィリアムがにこにこと微笑みながらジェニファーへと視線を向ける。眠たげな瞼の下に転がる宝石のような深緑の瞳に、ジェニファーが言葉を詰まらせながらそっぽを向く。それを嫌がるように頬へ手を添えると、ウィリアムがそっと顔を近づけた。
「今日は随分と良い香りがするね、薔薇の香水かい?」
「い、いえ・・・・ケイトが何かオイルを塗りたくっていました」
「へぇ、オイル」
ぜひともやってみたい、と思うウィリアム。しかし絶対に口には出さない。言えば確実にジェニファーが黙ってしまうだろうから。
「あ、あのウィリアム様・・・・ち、近・・・・」
「うん?」
「近い・・・です・・・・」
「そうかな、もっと近づいてもいい気がするけど」
「そ、それではくっついてしまいます・・・」
「はは、何か問題でも?」
「・・・・・・・・・」
ぼぼぼ、と顔を赤らめて俯くジェニファー。その様子にアメリーとアニエスが顔を見合わせ、誰に教わったのか口元を両手で押さえて「まぁ」と呟いた。
執事と使用人がその場で悶える。どこかでトレーを落としたような音がした。
あまり虐めると帰ってしまうか、とウィリアムは思い直しご機嫌な表情でジェニファーの背に手を添えテーブルへと向かう。アメリーとアニエスも嬉しそうにウィリアムの横に座ると、ジェニファーのために紅茶の入ったポットを手に取った。
「お人形さん、おちゃを入れてあげるわっ」
「あ、アメリー姫・・・ありがとうございます」
「お人形さんはうごいちゃだめよ」
「アメリー、一人で持つと危ないよ。兄さんと一緒に運ぼう」
テーブルに身を乗り出してジェニファーの前に置かれたティーカップにお茶を注ごうとする。しかしその小さい体ではテーブルの方が大きくてティーカップまで届かない。見かねたウィリアムがアメリーを一度椅子から下ろすと、テーブルを回ってジェニファーへと歩み寄る。
ジェニファーもアメリーが注ぎやすいようにティーカップを手に持つと、アメリーの前に差し出した。
「ゆっくりだよ」
「うんっ」
とぽとぽ、とカップに紅茶が注がれる。嬉しそうにその様子を見ているアメリーにウィリアムとジェニファーが自然と微笑む。
すでに夫婦の雰囲気である。執事と使用人は一生の宝物にすべく目に焼き付けたり、絵を描くことが得意な者はメモ帳にいそいそとその様子を描き写していた。
「アメリー姫、お上手ですね」
「えへへ・・・・」
「(可愛い・・・・・)」
「ねぇお兄様!アニエスもやりたい!」
「じゃあアニエスはケーキを運んであげて」
今度はアニエスがケーキを運ぶようだ。ウィリアムがケーキを切り分け、その皿をアニエスに手渡す。受け取ったアニエスがゆっくりと歩きながらそれをジェニファーに届ける。
「ありがとうございます、アニエス姫」
「うんっ・・・・でもアメリーの方がいっぱいやってたわ」
「(いっぱいやってた・・・・?)」
どうやら、アニエスはケーキを運んだだけに対して、アメリーはお茶を注いだから仕事量が違うと言いたいらしい。アニエスが不満そうにウィリアムを見上げる。その表情に優しい笑みを向けながら、ウィリアムがテーブルの上に置かれていたフォークを手に取る。
さすがは兄。妹たちのあやし方は熟知しているらしい。
「お人形さんにケーキを食べさせてあげたら?」
「やる!」
「えーいいなぁ、アメリーもやりたい!」
「だめよ、アニエスが先だもん」
「アメリー、順番だよ」
「・・・・はぁい」
アメリーがいじけたようにウィリアムの足にしがみつく。その姿にジェニファーは内心ほろりと涙を流した。可愛すぎて目に入れても痛くないとはこういうことを言いそうだ。
アニエスがフォークを持って戻ってくる。再びケーキの乗った皿を両手で掴むと、アニエスが取りやすいように下ろす。ケーキの先端にフォークを差し込み、それをジェニファーの口元へと運ぶ。落とさないように添えているその小さな手が可愛らしい。
ジェニファーは口を開けると、ケーキを入れる。そしてにこりと微笑む。
「人形はとても嬉しいです。とても美味しいです、アニエス姫」
「ほんとう?」
「ええ本当ですとも」
「アメリーのばんよっ」
「もう一回やりたい!」
「アニエス、順番を守らないとお人形さんが困っちゃうよ」
「はい、人形は困ってしまいます」
「・・・・わかったわ・・・」
しゅん、としてウィリアムに抱きつくアニエスの頭を大天使が優しく撫でる。その間にアメリーがアニエスから受け取ったフォークをケーキへと差し込み、ジェニファーへと運ぶ。再び口を開いて受け取ると、頬に手をおいて美味しいと仕草で伝えた。
「おいしい?お人形さんおいしい?」
「はい、とても美味しいです。人形は嬉しいです」
「うふふ・・・・私もうれしい・・・」
「(はぁっ・・・可愛すぎて心臓が痛い・・・・)」
天使の微笑みにぷるぷると震える。その様子を見ていたウィリアムも震える。どうしてこうも可愛いものしか目の前にないのだろうか、と他所で思っていた。
そして、更に中庭にいるウィリアムやジェニファー、そしてアメリーとアニエス全体に胸を打たれ悶え苦しむ執事と使用人という謎の絵面が生まれていた。
大人たちが天使に打ちのめされているとも知らず、アニエスが手に持っていたフォークを今度はウィリアムへと差し出す。妹の様子にウィリアムが片眉を上げた。
「アニエス?」
「じゅんばんよ、お兄様」
「私もやっていいのかい?」
「だってお人形さんはお兄様のお人形さんだもの」
「お兄さま、やりたくない?」
「うん、やりたい」
アメリーとアニエスのあどけない表情にウィリアムも微笑む。しかし天使と違って大天使は悪魔でもある。ジェニファーはフォークを受け取り、こちらを向いたウィリアムにゔ、と言葉を詰まらせる。
子どものおままごとと、大人のおままごとには大きな違いがあることを天使二人は知らない。
ジェニファーが手にしていた皿に乗るケーキへフォークを差し込む。そしてにっこりと微笑みながらウィリアムがそのフォークをジェニファーへと差し出す。
「・・・・・・・」
「・・・・・」
口を開かないで目を泳がせるジェニファーにウィリアムがうっとりと生温かい深緑の瞳を向ける。その様子を物陰から見守る執事と使用人が「がんばれ」と心の中で応援する。
「ほら、ジェニファー」
「じ、自分で食べられます」
「アメリーとアニエスからは受け取るのに、私からは受け取ってくれないの?」
「・・・・・・」
「お人形さん、お兄さまをこまらせちゃだめよっ」
「お兄様悲しい?」
「そうだね、兄さんはとても悲しい・・・・」
兄が悲しむ姿に、妹二人がムッとジェニファーを見つめる。妹二人を使ってジェニファーに意地悪をするとはやりおる、と執事と使用人はメモを取る。
ジェニファーは天使二人に叱られておろおろとする。このままでは天使に嫌われてしまう。それだけは避けたい。
「・・・・・・」
こほん、と咳払いをして、ジェニファーは眉を顰めながら目を瞑り口を開ける。こうしていればウィリアムの顔を見ないで済むからだ。苦肉の策ともいう。
その表情にウィリアムが少しだけ片方の口角を上げる。そしてケーキが乗ったフォークをジェニファーへと向ける。
アメリーとアニエスも兄の足にしがみつきながらじっとジェニファーを見上げる。凝視である。
「お人形さん、ちゃんとお口あけなきゃだめよ」
「は、はい・・・・」
「あーん」
「あーん」
「あ、・・・あーん・・・・」
アメリーとアニエスの掛け声に眉間の皺が増える。
恥ずかしい。恥ずかしすぎて今ならテーブルを全力で叩ける気がする。でもそんなことをすればアメリーとアニエスが驚いてしまうので必死にジェニファーは堪える。
ウィリアムがジェニファーの顎に手を添える。目を瞑っていたので突然のことにジェニファーがびく、と反応する。その時閉じかけた口にケーキが触れる。それをひょい、と食べるともぐもぐ口を動かして食べきる。
そうするとアメリーとアニエスが嬉しそうにきゃっきゃと騒ぎながらジェニファーに抱きつく。
「おいしい?おいしい?」
「はい・・・・・」
「お兄様から食べさせてもらってよかったね!」
「はい・・・・」
両頬を押さえてこくこく頷く。ほろり、と涙が落ちた気がした。
その様子にウィリアムが微笑む。そしてテーブルの縁に腰掛けると、ジェニファーへと顔を近づける。
「お人形さん」
「は、はい・・・・」
「ついてる」
「え?」
「口についてるよ、クリーム」
「あ、あら・・・・・」
慌てて唇に触れる。指にクリームがついたのでそれをハンカチで拭き取る。恥ずかしい、この歳になってクリームをつけるとは。ジェニファーはかぁぁ、と顔を隠しながら俯く。しかしウィリアムはまだ言いたげにこちらを見ている。まだついているのだろうか。
ジェニファーは今日手鏡を持ってきていない。なので確認のしようがない。ウィリアムにまだついているのかという目を向ければ、ふわりと柔らかく微笑まれる。
そして何を思ったのか、ジェニファーの顎に手を添えて顔を近づける。そしてそのまま唇を覆うように食まれた。
リップ音を残してウィリアムが顔を離す。そしてわざとらしく瑞々しい唇を舌舐めずりすると、にこりと再び微笑んだ。
執事と使用人、その場でばたばたと慌て出す。お互いの肩をバシバシ叩いて必死に口を手で覆う。しかしどうしてもくぐもった声が漏れた。
「(ウィリアム様・・・・成長されてっ・・・・!)」
眼鏡をかけた執事にいたっては顔を手で覆って悶絶した。
そんな執事と使用人たちに気づいているのかいないのか、ウィリアムはテーブルから立ち上がるとジェニファーの後ろに回ってその体の前に腕を回す。そして真上からジェニファーの顔を覗き込んだ。
「とれたよ」
「そっ・・・・そっ、そ、そうですかっ・・・・!」
「うん、甘いね」
「そうですねっ・・・・ははは・・・・!」
美しい顔に影を落としながらじっと見つめられ、ジェニファーは口から心臓が出そうになるのをなんとか堪える。体の中ではぐにゅりと『あいつ』が嬉しそうに動き回っていた。
甘いのはどちらだ。と執事と使用人は思ったそうな。
ジェニファーは顔を真っ赤にしておろおろする。その様子をウィリアムが目を細めて見つめる。天使二人も兄の大胆な行動に顔を赤くしてぽかんとしていた。
それから天使二人が中庭にブランケットを広げ、おままごとを始める。今回もジェニファーはお人形役のようで、二人にワンピースを整えられたり、髪をぐしゃぐしゃと掻き回される。それを見かねてウィリアムが丁寧に直してくれる。
すっかり日が暮れる頃には、天使二人は疲れてしまったのかジェニファーの膝にしがみつきながら眠ってしまう。その可愛らしい寝顔にジェニファーもうっとりとしながら頭を撫でる。
そうしていると、テーブルで本を読んでいたウィリアムが懐中時計を見て立ち上がる。
「ジェニファー、そろそろ戻らなくて平気かい?」
「そうですね・・・お暇します」
「妹たちもたくさん遊んでもらって嬉しかったみたいだ」
「ええ、私も楽しかったです」
「こんな時間に寝ると、あとで寝られないとぐずりそうだな・・・・」
アメリーとアニエスを抱き抱えながらため息をつくウィリアムに、ちゃんと兄業務をしているのだなとジェニファーは他所で思う。すやすや兄の腕の中で眠る天使は心底可愛い。できればウィリアムに代わりたい。
両手に天使二人を抱え、ウィリアムが立ち上がる。そしてジェニファーとともに中庭から屋敷へと戻る。
「ん・・・・・・?」
「・・・・・・」
すると、近くで使用人が再び物陰に隠れるのをちょうどジェニファーは見かける。ウィリアムにも見えたようで、困ったように眉を下げるとジェニファーへと顔を向けた。
「ああ、見に来ていたんだね」
「・・・・・・?」
「今日のお茶会、使用人がやろうと言い出したんだよ」
「え・・・・・」
「君をもてなしたいと思ったらしいよ」
「・・・・そうなんですね」
なるほど、だからあのお出迎えだったのか。何か至らぬところがあるお嬢様なのかと観察されていたのではなかったのか。ジェニファーはどこかホッと胸を撫で下ろす。
もてなしたいなんて思われていたとは。
胸に手をあて、温かいものが流れるのを感じる。その様子にウィリアムも微笑む。
ジェニファーが顔を上げる。そしてウィリアムへと視線を向ける。
「みなさんにお礼を伝えないと・・・・」
「うん、そうしてくれると私も嬉しい」
「・・・・みなさん、ウィリアム様のことを本当に大事に思っているようでした」
眼鏡をかけた執事の横顔は、ウィリアムを心から大事にしているのだと物語っていた。その表情を見たから、ジェニファーも安心して中庭に迎えたと思っている。
ぜひともお礼を伝えたい。そう思ってウィリアムを見上げれば、こくんと頷かれた。
「見送るよ。執事たちと一緒に」
「はい、ありがとうございます」
それからウィリアムが後ろを振り返って、物陰に隠れていた眼鏡の執事へと視線を向ける。執事も気づかれたと分かって隠れるのを止めたらしく、こちらへと歩み寄る。すると、執事に釣られてわらわらと他の面々も顔を出した。
その量にウィリアムは驚く。屋敷の大半が隠れていた。
「ウィリアム様、申し訳ありません。皆お二人のご様子を見たいばかりに業務を放り出して・・・・」
「私にはあれほど外出を控えろと言うのにね」
「ゔ・・・・明日より通常業務に戻ります」
「はは、いいよ別に。たまには羽を伸ばしたらいい」
「ウィリアム様・・・・・!」
うるうると目に涙を溜める執事にウィリアムとジェニファーが微笑む。貴族として、いつも世話をしてくれる執事や使用人の大切さをよく分かっているから。
エントランスまでぞろぞろと大人数で移動する。そして用意されていた馬車にジェニファーが乗り込む。
「またおいで、お茶会がなくても歓迎するよ」
「はい・・・・ぜひ次の機会では執事や使用人のみなさんともお話をさせていただきたく」
「もちろん。だろう?」
「はい、ジェニファー様に私どもも最大限のおもてなしをさせていただきたいです」
「ありがとうございます」
にこり、と花が咲くようにジェニファーが微笑む。眼鏡の執事だけでなく、後ろに控えていた面々も嬉しそうに顔を綻ばせた。
ジェニファーを乗せた馬車が屋敷から去っていく。その様子をウィリアムと眼鏡の執事がじっと眺める。そして馬車が見えなくなると、ウィリアムは天使二人を抱え直し、屋敷へと入る。それから眼鏡の執事へと声をかける。
「それで、ジェニファーはどうだった?」
「それはもう、大変可愛らしいお嬢様でした」
「ああ、そうだね」
「(ジェニファー様を褒めたのに自分のことのように喜んでいる・・・・)」
「また呼ぼう。私も会いたいし」
「そうですね、本日のお礼のお手紙と一緒に、ご予定を確認させていただきます」
「うん、そうして」
嬉しそうにウィリアムが天使二人を抱えながら廊下を進む。その様子を執事たちが見送り、その姿が見えなくなったところで眼鏡の執事がくい、とそれを上げる。
「集合!」
「はい!」
「はいっ」
総勢三十名あまりが廊下に所狭しと集まる。皆今日の出来事を記したメモを手にしており、その目は真剣そのものである。
「次回のジェニファー様へのおもてなしだが、何をする?」
「ジェニファー様とお話をしたいので、談話室をお借りするのはいかがでしょうか!」
「きっとジェニファー様のことだから、驚いて萎縮してしまうんじゃないかしら」
「そうですね・・・・でもウィリアム様がいるとジェニファー様を独占されるわ」
「我々はジェニファー様と話したい!そしてあわよくばウィリアム様の蕩けた表情を見たい!」
「そうだ!」
「そうだー!」
「・・・・・いいことを思いついた」
きらり、と眼鏡の執事のそれが光る。他の面々がごくり、と唾を飲み込んだ。
そして皆で身を寄せ合って、こそこそと会話をする。眼鏡の執事の提案にある者は喜び、ある者は危険だと声を上げる。しかし、あの二人を婚約させるならどんな手を使ってもいいとも思っている。
そして、皆は胸の前で拳を握ると、その日のために準備を始めることにした。
「・・・・・・」
「・・・・・」
執事と使用人の画策を知らないウィリアムとジェニファーは、それぞれ自室で今日のことを振り返る。思うところに多少の差はあったとしても、天使二人と過ごした時間はとても有意義だったと感じる。
そして、お互い触れた唇にそっと指を乗せ、ウィリアムは微笑み、ジェニファーは頭を抱えるのだった。
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これにて完結です。別話で今後の展開を投稿します。
今後も本編外の小話を載せていきます。よろしければ本編『どうにも性別を間違えて生まれたとしか思えないので嫁ぐのはやめます』もご覧ください。