三人の転生者と三人の神
紀元前611年。
神の争いがあった。神といっても万能ではない。この世に降りた時点で寿命もあるし殺されれば死ぬ。この国には神が生んだ子も神であり、八百万の神がいると言われている。子を産む度に神の力は衰えいずれただの人が産まれるようになっていった。
死んだ神は肉体はなくなり精神体となるが、人々の信仰がないと無に帰してしまう。その為、神、神の子孫は神社を作りその子孫にお参りさせるようにした。信仰により神が得るエネルギーは子孫による物のほうが大きい。
出雲の国譲りという出来事があった。天津神 と呼ばれる天に住む神が、国津神 と呼ばれる地に降りて生活している神に出雲国を譲れと言ってきた。天津神 は建御雷神 だった。出雲を治めていた国津神 大国主命 は息子が良ければいいよっと答えたので、建御雷神 は息子の事代主神 に問いただすといいよ、と言って姿をくらませてしまった。
それを大国主命 に言うと、もう一人の息子の建御名方神 がいいって言ったらいいよ、と答えた。
何だこいつらと思いつつ建御名方神 に会いに行くと、巨大な石を持ってきて、俺は千人力だ、と自信ありげに力比べを要求してきた。
力比べの場所は広場の真ん中に作られたしめ縄で作られた円形の、そう土俵だった。この戦いが相撲の起源となったと言われている。
建御名方神 が正面から突っ込んでいったが、建御雷神 は建御名方神 の手を掴み投げ飛ばした。一本背負いである。
投げ飛ばされた建御名方神 は、こいつつえー、と思いそのまま逃げ出した。頭にきた建御雷神 は追いかけた。
逃げに逃げ諏訪湖畔で追いついた。建御名方神は二度と諏訪から動かない事を約束して、和解し許してもらった。
諏訪に居ついた建御名方神 は土地神の八坂刀売神 と夫婦になり多くの子孫を残した。死後は精神体となっていた。
その子孫は諏訪家を名乗り、諏訪大社を作り、諏訪大明神と讃え信仰を続けていた。上社に建御名方 が、下社に八坂刀売神 が祀られた。
諏訪家の子孫に武田勝頼、馬場美濃守、転生前のお市、山内恵がいた。
諏訪湖という神秘的な湖の効果もあり、諏訪は盛えた。そして、武田信玄により諏訪は攻められ、強者武田と諏訪に縁が生まれ、勝頼が誕生した。勝頼が天下を取れば諏訪はさらに栄えるだろうと思ったが、織田徳川連合軍に亡ぼされてしまった。
1610年、建御雷神 の精神体が諏訪に現れた。建御雷神 を祀っている神社は春日大社である。春日大社は藤原家の氏神であり、建御雷神 の子孫が藤原氏になる。
豊臣秀吉と名乗った男、素性ははっきりせず権力で藤原氏の養子となり関白になったと言われているが、実は遠く遡ると藤原氏に繋がる。だがその事実は誰も知らない。秀吉は先祖を知らずに育った。そして偶然藤原姓を得て関白となり一時期天下を取ったように見えたが死後、豊臣家は瞬く間に転落した。その後藤原氏の権威は無くなってしまった。
「建御名方神 久しぶりだな。もうこの世にいる神もほとんど居なくなった。このままでは我らもいずれ消え行くであろう。藤原氏の栄華があれば我の存在も輝いたものを、まさか家康に攫われるとはな」
「建御雷神 よ。我はその昔、そなたに諏訪に追いやられた事を良かったと思っている。ここの民は例え主人が誰であろうと信仰を忘れない。諏訪の子孫は天下を取れなかったが我の身は安泰そうだ。嫁も居るしな。ただ今の我の力では諏訪の湖が凍らないと嫁に会いに行けん」
春日大社も立派な神社である。諏訪に劣る訳ではないが建御雷神 は負けず嫌いである。嫁だと、ふざけおって(羨ましい)。このまま消えてなくなるのも癪だ。ならばこいつを利用して栄華を手に入れられないか。その時、ふと閃いた。
「そうだ。勝負しないか。退屈しのぎだ。ただ力は使うのでしんどいかもしれんが」
「何をするのだ。あまり余計な力は使いたくないのだが」
「我らの子孫を転生させどちらが天下を取るか競うと言うのはどうだ?」
「それをして何の得がある。それに今までに例がないのではないか」
「得はある。天下を取れば信心する者も増えるであろう。我は我が子孫を秀吉に転生させる。そなたは勝頼であろう」
「勝頼しか天下を取れそうな者はおらん。だが、差がありすぎるのではないか。秀吉は一時期天下を取ったであろう。こちらが不利だ」
「秀吉の天下は一代限り、あれでは意味がない。だが、そうだな、それではそちらには補佐をつけても良い」
「どうやって転生させるのだ。そんな力は聞いたことがない」
「天から降りる時に手に入れた転生石が5つある。これに力を込めれば転生させられる。もう一人は勝頼の嫁に転生させるのか」
「そうだな。雪姫が良いであろう」
建御名方神 はよく考えてみると、そういえばこいつには負けっぱなしだった事を思い出した。まあやってみるかとその気になった。
そして約四百年が過ぎた。春日大社、諏訪大社はお参りする人もいるがだいぶ寂しくなってしまった。やっと転生に向いている子孫が現れた。転生させるにはこちら側に共鳴できる人間でなければならない。こうして、馬場美濃流が選ばれ、勝頼に転生した。転生前の美濃流はパッとしない若者だった。建御雷神 は勝ったと思ったのだが転生した勝頼は想定外の活躍で天下を取る勢いだった。
秀吉に転生したのは、野球が好きな女にだらし無い男だった。高校時代野球部で女にモテた。勉強はできないが要領が良く世渡り上手、卒業後はホームセンターに勤めた。名を藤原登、まさに藤原家が栄えるような名前だった。
転生時にトラブルが起きた。秀吉の人格と登の人格が並行で存在するようになってしまった。つまり秀吉の強運と、現代人の世渡り上手が合体した超秀吉の誕生である。
幸い登は歴史には詳しくはなかったので歴史の先読みは出来なかったが、本能寺や徳川幕府は知っていた。
藤原登は、家康が死んだ時におかしいと思った。徳川幕府はどこ行った?
その後の武田の活躍にも疑問を持った。そして浅井攻めの時、武田軍の火炎放射器をみた。ありえない、どうやったらあんな物を作れるのか?武田軍にも転生者がいるとわかった。だがそれが誰かはわからなかった。
忍びを使って武田の事をとことん調べた。昔縁のあった風魔をも使った。その結果、勝頼こそが転生者だと確信した。勝頼にできるのなら俺にも出来るのかと、もう一人の秀吉と相談しつつ織田の中で頭角を表していった。
八坂刀売神 は勝負の事を聞いていて雪姫に転生する子孫を探していたら、タイミングよく山内恵が現れた。馬場美濃流の恋人というのも偶然でそのまま転生させた。雪姫に転生させるつもりが、なぜかお市に転生してしまった。しかも記憶をなくして。ところがなぜかお市が勝頼のところへ嫁に来ることになり諏訪原城にも寄った。八坂刀売神 はこの偶然に驚き、お市に問いかけてみた。そうしたら記憶を取り戻すことができた。
勝頼の運なのかお市の運なのか、それとも転生者に与えられる何か不思議な力があるのか。
三人の転生と共に神三人も同じ時代に転生した。転生させた神もセットで転生できたのである。
勝頼の活躍に建御雷神 は焦った。これでは負けると。こっそり転生石を使い勝頼だけをこの時代から追い出した。
が、しばらくして八坂刀売神 にバレた。建御雷神 は一人対二人はおかしいと思ったので追い出したと説明した。最初からの約束の筈だと問いただすと、転生は雪姫の筈だ、記憶が戻ったのもおかしいと最初はごねていたが、ズルした事実は認めた。平に謝ってはもらったが既に勝頼はいなくなってしまった。
建御雷神はこれが最後の転生石だと言って、八坂刀売神 に渡し姿を消した。
明らかなズルだったが今更どうしようもなかった。しかも、この転生石をこの時代にいない勝頼/美濃流に使うことはできない。八坂刀売神 は美濃流に賭けるしかなかった。また、神達も力を使いすぎ当分は転生させる事は出来なくなった。
今後神は一切干渉しない事を誓い合い、遠くから見守る事にした。
そして時は本能寺へ向けて動いていた。




