一目散に本陣へ
夜が明けた。明るくなるとほぼ同時に毛利軍から太鼓が鳴り響いた。陣形が大幅に変わっている。今までは大阪城を中心に弧を描くような、つまり北の信勝軍、北東の信豊軍、東の真田軍、南東の信平軍、そして北の上杉軍に備えるような陣形だったが、東側に備えの兵を置き残りは北を攻める陣形になっていた。火事騒ぎで城が慌てている中、黒田官兵衛、本多正信は兵が慌てているように見せつつ陣形を変えさせていたのだ。
物見の報告が武田各陣営に届けられた。信勝は、
「そう来たか。これは持ち堪えねばならぬな」
と、冷静に陣形を蜂矢の陣(防御特化バージョン)に組み替えた。信勝軍を攻めてくるといっても前線で持ち堪えていれば他からの側面攻撃が間に合うという読みだ。
信豊は、
「そう来たか。城はどうでもいいって事?」
軍監として来ている井伊直政が答えた。
「大阪城は魔王城とお市様が申しておりました。どうでもいいのではなく、放っておいても安心という事ではないでしょうか?」
「なんかムカつくなそういうの。まあお猿さん退治は勝っちゃんに任せてこっちをやりますか。直政、殲滅の絶好機とも思えるが」
「敵には秀吉を関白まで押しあげた黒田官兵衛と本願寺の軍師と言われている本多正信がおります。絶好機に見せかけて何か手を打ってくると思われます」
「とはいえ、上様が攻められるのを黙って見ている訳にもいくまい。難しい事は真田に任せて敵に突っ込むぞ。北条、佐竹、それに小山田を先陣に。後詰に成田、里見、織田。忠勝は念のため上様の陣へ向わせよ」
「お願いがございます」
「だめだ!」
「まだ何も申し上げておりませぬ」
「戦に出たいのであろう。お主は大御所からの預かりもの、というより軍監であろう。此度のお役目の意味を考えよ」
「ですが、この戦に負けてしまっては」
「馬鹿者。この程度の戦で武田は負けぬは。余の側に居れ。それにまだ何が起きるかわからんぞ」
直政の軍勢は千名。山県昌景の許可を得て赤備えになっている。この戦で活躍せねばいつ、と焦っていた。直政は真っ赤な、そう赤鬼のような顔で信豊の護衛を務めた。
そうこうしているうちに毛利軍が法螺貝の合図とともにまず徒士の兵が走り出した。それとともに大砲が三発発射され信勝陣の先頭にいる兵をふっ飛ばした。信勝軍も大砲を発射しながら、前衛にマシンガン雨嵐乱連を並べ近づく兵を打ち倒した。毛利軍はそのまま鶴翼の陣に陣形を変えた。よく見ると毛利軍だけではない、宇喜多、加藤、福島の軍もいる。信勝軍2万に対し6万の兵で包み込もうとしていた。そうはさせじと信豊軍が横から突っ込み、翼の前と横から攻めて片翼を捥いだ形になった。
鶴翼で横に広がった兵はマシンガン雨嵐乱連の餌食になっていった。と、思いきやいつに間にか先頭の兵が鉄の盾を持っており発射した弾の割には犠牲者がでていない。盾を持ち、1人が倒れれば次の者が盾を持ちとゆっくりながら信勝軍に向かって前進してきている。その上、時折大砲が発射され信勝軍の兵の命を奪って行く。信勝軍はジリ貧になりつつあった。
その時、鶴翼の西側の兵に向かって海からの砲撃が始まった。勝頼が連れてきた戦艦 我威亜零の主砲と怒露駿技愛11、12、13、14号艦に設置された芽駕超牙飛弾だ。西側の兵は翼を広げることが出来なくなり鶴翼の陣は両翼をもがれてしまった。西側の兵は中央後ろに移動していった。
押し寄せる圧力が減った信勝軍は今がチャンスと小竜王30機を毛利軍足元に走らせた。敵のあちこちで原油がばら撒かれる。そこに向かった火矢、そして銃弾が飛んで行く。銃弾は敵の盾にあたり火花を出し、その火は原油に燃え移り毛利軍前衛を焼き尽くした。毛利軍は前へ前へと進んでいたが前方が燃えているのを見て止まったところに後ろから押され、将棋倒しのように大勢の兵が転んでしまった。そこに真田軍が後方から迫ってきた。
真田軍を率いるのは真田昌幸だ。信綱は怪我で動けない。真田軍には伊達小次郎率いる東北軍も加わっている。2万の兵が背後から襲いかかり信勝軍と挟み撃ち、とそんなに上手くいくはずもなく真田、東北軍を黒田官兵衛が出迎えた。黒田官兵衛が後方を抑えている間に毛利軍の前衛は立て直し、また信勝軍に向かって前進を始めた。
黒田官兵衛は横にいる本多正信に話しかけた。
「ここまでは想定通り。あとはこのまま毛利、宇喜多が信勝を討て敵の士気は崩れる」
「その折には佐竹、里見、相馬、岩城はこちらに寝返る手筈はついております。戦は最後に勝った方に利があるものです。そうなれば、一気に武田は総崩れになりましょう」
「信豊は加藤清正が抑えている。このまま真田を抑えれば我等の勝ちぞ」
戦は黒田官兵衛、本多正信の想い通りに進んでいた。何の事はない、敵本陣へ一目散に突っ込み、邪魔者は抑えておく。実にシンプルな作戦だ。