夜襲
大阪城に戻った石田三成は、右近に相談した。
「右近。武田の船をだいぶ沈めたのだが、補給を終え海に出ようとしたら海への出口が敵の増援に塞がれていて船を出す事ができん。何か策はないか?」
「出口を塞いでいるのはどんな船ですか?」
「例の我らの船に似たあれだ」
その時どこからか沙沙貴彩が現れた。怒露駿技愛から戦闘に紛れて脱出していたのだ。
「石田様。お市様を一度捕らえましたが奪回され、島様も敵に捕まってしまいました。それと大御所が見たことのない大型の戦闘船で現れました」
「大御所が海に、右近、絶好機だ。船をみな沈めれば勝てる、勝てるぞ」
右近は考えた。毛利の船は強力だが敵も同じような船を持っている。数では負けるだろう。それに大型の戦闘船とは恐らく最新式の船だ、勝てるのか?
「石田様。新型の大型船となると今の船では勝てますまい。また、陸戦でも浅野様の軍が敗れたとか。敵の龍を倒しただけで十分では?海よりも陸の兵を相手にすべきだと考えます。敵の船が近づかないよう牽制にとどめた方が得策かと」
「敵の大将が船にいるのだぞ。見過ごせと言うのか?」
「もう少し時間を下さい。今それがしの部下が敵の長距離砲弾を回収して調査をしております。必ずや反撃致しましょう。今は我慢です」
三成はしばらく抵抗していたが、右近の意見に折れた。大砲を用意させた別働隊に船の牽制を任せ、自分は城に戻った。右近は場内の国友村にこもって長距離砲の開発に取り組み始めた。武田の砲弾の残骸をみると表面に螺旋状の模様があったそうだ。ここに絶対秘密があると信じ実験に没頭した。
両軍の将達が軍議を行なっている頃、急に城が騒がしくなった。上空に何かがいる?気球の夜襲だ。
「わしだけ生き残ってしまった。こんな城、全て燃やしてやる。皆、すぐにいくぞ」
真・鬼神七兄弟の唯一の生き残りの段の独断で気球を操縦し闇の大阪城上空から爆撃を試みたのだ。
実際の大阪城は夜なのに明るい。松明の他に明らかに電球による灯も灯されていた。段は目印に丁度いいと上空から城へ近づいていった。その様子を勝頼達は観察していた。
「お幸、あれを操縦しているのは龍の生き残りなんだな?」
「はい、参号機の段と申す者です。自分だけ生き残った事を悔いていたので発破をかけたのですが、まさかこの様な」
「過ぎた事は仕方がない。元々気球は見せ球に使うつもりだった。この攻撃がどこまで通じるか、いい実験と思えば何でもないよ。とはいえだ」
勝頼は大阪城の対空防御を警戒していた。空からの攻撃は知られているし敵もかなりの高レベルで使ってきている、つまり防御方法も検討されているだろう。
それと心配なのは国友村の存在だ。こっちより10年は遅れている様だが真似する方が簡単だし、職人のスキルも上がりやすい。前世の某国みたいにバッタもんばかり作っていたと思えばいつの間にやら抜かれてたってやつになりかねない。
そうこう考えているうちに気球は大阪城上空に近づいていった。外堀を越えた辺りで城から上空に向けて何かが打ち上げられた。
『ヒュルヒュルヒュルヒュル〜〜パン!』
何と花火だった。勝頼が小山田攻めに威嚇に使った音だけの花火ではなく、現代風の花火だ。夜空が急に明るくなり気球が浮かび上がった。
「あそこだ、物見の言う通りだ。空中に敵の乗り物がいるぞ!」
段は何が起きたかわからなかった。急に空が明るくなり下にいる兵が騒ぎ始めた。不味い、と思った時には気球は城に近づき過ぎていた。
「このままでは、いや、戻る事も出来まい。ならば」
段は覚悟を決めた。大阪城から気球に向かって銃撃が始まった。段は気球を大阪城真上まで持っていくのは不可能と判断し、気球の空気を抜き城に向かって落下させた。そう、体当たりだ。いわゆる特攻を仕掛けたのである。
城からはマシンガンや火縄銃が打ちまくられる。気球にはいくつもの銃弾が当たったが城直撃コースは変えられなかった。段はこの気球の下の部分、そうこの気球は二重底になっていて下の部分は爆弾倉庫になっている。アルミでできた大型のケースのような物だ。段はその中に入り火炎瓶に火を付けた
「これで皆の元へ」
気球は大阪城六階部分にぶつかり炎上、爆発した。そのまま地面に落下し火の手が広まった。大阪城の兵は慌てて消火活動に追われ、その後の警戒も余儀なくされほとんど睡眠が取れなかった。
秀吉は気球の夜襲を予想していて上空の警戒を指示していた。準備万端なところに気球がきたのでもっと綺麗に排除できると考えていたが、城に特攻され青くなっていた。
「勝頼め、部下に特攻させるとは鬼か」
次の攻撃にも備えなければならず秀吉も睡眠が取れなかった。
勝頼は秀吉の花火に驚いていた。上空警備をどうしているのかと考えていたのだがまさか花火とはね。まあ流石にサーチライトって訳にはいかないだろうけど、考えたものだ。だがその程度か、豊臣の科学力は?
「まあいいや、寝よっと」
勝頼は朝まで爆睡した。