お市脱出の巻
風魔小太郎は爆風でコントロールを失った大凧が地面にぶつかる少し前に飛び降りた。そこは信平軍の中央部で、兵が密集しておりちょうど兵がクッションになった。突然上から落ちてきた大凧に何人かの兵が下敷きになるすぐ横で、元々真田兵の格好をしていたこともあり武田兵の中に紛れることができた。
小太郎は顔、脇腹、足に怪我をしていたが、勝頼を殺すまでは死ねんと気力を振り絞って必死にこの場を凌ごうとしていた。
その頃勝頼は新型戦艦 我威亜零に乗り、大型輸送艦 怒露駿技愛を引き連れて大阪湾に入った。もうじきお市のいる1号艦の近くまで行けるだろう。
「愛話勝は使えんしなあ。誰がどうなっているのか?」
愛話勝を使うと敵にも聞こえてしまう可能性がある。勝頼は大阪城の通信機が壊滅した事を知らない。1号艦の愛話勝がどうなっているかも知らない。敵に情報が伝わるデメリットの方が大きいのだ、あー困った。勝頼のつぶやきに山県昌景が答えた。そう、山県昌景は兵五千の赤備えと共に船上にいたのである。
「大御所。それがしの軍は途中で陸地へ参ります。大御所はお市様の元へ」
そうしたいところだが全く状況がわからん。勝頼はこの大阪城攻めを秀吉との、いや武田が天下を取るための最終決戦と考えていた。転生し、最初は知ってる歴史だったのであの時あーすれば良かったとか、こうやって失敗したとかの知識があった。ただ、実際にぶち当たってみると武田信玄の行動はほぼベストな選択をしていた。信玄て本当に凄い。歴史を大きく変えたのは家康を三方ヶ原で殺してからだ。そこからは先読みはほとんど聞かない。想定外の事も起きた、が、勝頼はその時その時の状況でどうする事が一番いいのかを考えて行動してきたつもりだ。情報だ、情報が欲しい。今、どうなってんの?
勝頼は山県に返答せず黙り込んでいた。その間、船は陸地に近いところを航行していた。その時、桃が半蔵を見つけた。
「大御所、半蔵様が海岸に」
「よっしゃー!山県隊を陸地へ。指示は後ほど半蔵を向かわせる。先ずは陸地で身体を慣らせ。半蔵を船に。お幸、桃達は準備だ」
勝頼は情報が欲しかった。何がどうなってる?
山県隊は陸地で少し身体を慣らしてから大阪城へ向かっていった。服部半蔵は勝頼の元へ到着するなり状況説明を始めた。
「大御所。どこから説明するべきか判断できませぬ。勝昌様の件、風魔小太郎の件、真田信綱様の件、お市様の件、伝説龍王軍団の件………」
「そんなにか。まずはお市だ、無事なのか?」
半蔵はお市の状況について説明を始めた。
島左近と生き残った風魔8名は、1号艦の艦底にあった駿河茶畑2隻を盗み船外へ脱出しようとしていた。お市は両手両足を縛られた状態で島左近に担がれている。駿河茶畑はガソリンエンジン駆動だ。初めて見る駆動方式に風魔が手こずっていた時、船に侵入した武田海軍兵50名が追いついた。
「いたぞ、あそこだ」
「お市様もいるぞ」
すでに風魔は飛び道具を使いきっていたため、5人の風魔が忍び刀を抜き前に出た。
「食い止めますゆえ左近様は脱出を」
そう言って武田兵に向かっていった。武田兵が50人いるといっても駿河茶々(シズオカチャ)への通路はそんなに広くない。そう、武田兵が戦闘に参加できる人数は限られていた。風魔は善戦し武田兵を倒すが、後から後から武田兵が出てきてついに全滅した、が、かなりの時間を稼いだ。
その時間を利用し、なんとか駿河茶々(シズオカチャ)を起動した左近達は1号艦の外に出た。
「は、速い。なんだこの船は!」
操縦を試みていた風魔が叫んだ。コントロールがきかないまま海上に出たお市を乗せた駿河茶々(シズオカチャ)。船は偶然にも陸地方向へ向かった、が、そこには走行可能となった楓マーク2が5隻いる海域だった。楓マーク2は陸地の浅野長吉隊の方を向き、陸地の牽制を兼ねて砲撃をしていた。浅野隊は海岸から距離を取らざるを得なかった。陸地には伝説龍王3号機が仮修理を終えて立ち上るところだ。
その楓マーク2の間をモーターボート駿河茶々(シズオカチャ)が走り抜けた。この頃には風魔がおおまかに操縦をできるようになっていた。エンジンさえかかってしまえばあとは加速、減速、舵を取るだけでさほど難しいものではない。まあただ走る事が出来ている程度だったがこの場では十分だった。
「左近様。敵の船の間を通り抜けました。このまま陸地へ向かいます。え、あ、あれは?まさか龍?」
風魔はちょうど立ち上がった伝説龍王3号機を見て船を減速させた。それを見た楓マーク2は砲弾を駿河茶々(シズオカチャ)手前の海に向かって一斉に発射した。
『ズドーーン』
水柱が連続でいくつも上がり、海上に大波が発生した。駿河茶々(シズオカチャ)を続け様に大波が襲った。その瞬間左近に担がれていたお市が暴れた。
「ウォ、危ない」
左近は足元がぐらつきお市を海に落としてしまった。
「しまった」
島左近は叫び、風魔が後を追って海に飛び込もうとした時、海中から何かが浮かび始めた。もがくお市を乗せた状態で海中から船が現れた。そう、潜水艦 水龍召喚だ。お市は海中から覗いている潜望鏡に気づいていた。楓マーク2の砲撃があった瞬間に作戦を理解して行動に移したのだ。楓マーク2、水龍召喚、お市とも連絡を取っていたわけではない。海軍の厳しい訓練で構築された阿吽の呼吸というか、皆がこうすればこう動くだろうという各自の思い込みが噛み合ったのだ。
浮上した潜水艦の上で寝転がりゴホゴホ言っているお市を再び捕らえようと風魔が海中に飛び込んだ。風魔が潜水艦によじ登った時、潜水艦の乗務員が鉄砲を持ち待ち構えていた。そして島左近の乗る駿河茶々(シズオカチャ)は楓マーク2に囲まれていた。
浅野長吉隊に石田三成が合流した。そこには国友村の右近もいた。右近は三成に、
「左近様は失敗したようです。ですが、かなり戦力を消耗させています。ここで一気にたたみこめば、あの大きな船も手に入れられるでしょう」
「そう思うか?」
「石田様はどうお考えで?」
三成はここに来る間どう攻めるべきか考えていた。敵の龍は残り一匹だ。どうやら海龍もいるようだがそれよりもあの楓という船だ。砲撃が厄介で迂闊には近寄れん。いい加減弾切れにならないものか?右近はかなり消耗させたと言った。だが我が兵も消耗激しい。この一万の兵が海に入れるわけではない。
「石田様。あの楓という船の事でしょう。この状況なら我らの船でも勝てます。毛利の作った楓改が大阪城に隠してあります」