日の本一の勇者軍団
8号艦から出航した小型船、そう勝頼が以前、小武沙威という名前にこだわった小型船の改良版である。その名は、駿河茶畑。お市が静岡と言ったらお茶でしょ、茶々もいるしって単純につけた名前だ。ただこの時代には遠江の一部でお茶が栽培されていたがそれほど有名ではなかった。静岡茶が有名になるのは江戸時代に入ってからである。
ちなみに潜水艦となんも関係ないじゃん、と勝頼が言っていたがお市は全く気にしていなかった。金谷のおばあちゃんを思い出していたのかもしれない。
駿河茶畑 は海上を高速で移動し、1号艦の周りを疾走しつつ、マシンガン嵐乱連を撃ちまくった。1号艦の敵兵は大砲を打つが全く当たらない。
島左近はもう一度、愛話勝を使い話し始めた。
「ここにお市様がいらっしゃる事を知らないと思われる兵が攻撃を仕掛けてきておる。これよりお市様を再び甲板に出す。直ちに攻撃を止めるように」
返事はなかった。左近は自らがお市を連れて甲板へ上がった。
弾を撃ち尽くした8号艦の駿河茶畑は補給の為、船に戻った。入れ替わりに7号艦の駿河茶畑が攻撃を始めたが、甲板のお市を見て船を遠ざけた。その時、一隻が泳いでくる光太郎と弦を見つけた。周りに合図をした後、船に回収して6号艦へ向かった。
海上で駿河茶畑が走り回っていた時、海中でも動きがあった。潜水艦、水龍召喚と魔法回転海凛が1号艦に狙いをつけて待機していた。
水龍召喚は2人乗りで、魚雷発射係と操縦士に分かれている。魔法回転海凛は船首にドリルミサイルを装備し、マジックハンドも付いている。しかも8人乗りだ。1号艦のスクリューの鎖は敵によって外されていたが、改めてマジックハンドでスクリューが回らないように固定した。
「恐らく今頃は海上に敵の目が集中しているだろう。仕掛けるぞ!」
まず、魔法回転海凛が艦底近くを狙ってドリルミサイルを発射した。続けて同じ位置にドリルミサイルをぶち当てた。装甲が厚い怒露駿技愛だが、弱い部分を狙った効果で穴が空き、船に海水が入り始めた。そこをさらに水龍召喚の通常魚雷が炸裂し船の穴が広がった。水龍召喚は役目を終えて浮上し、駿河茶畑に状況を報告した。魔法回転海凛はその穴に船首を突っ込み、マジックハンドで穴を広げ、怒露駿技愛に海中から侵入した。
2隻の魔法回転海凛から16人の乗組員が飛び出した。皆、リボルバー雪風と刀を持っている。海軍兵は皆お市からあらゆる場面を想定しての訓練を受けている。白兵戦も想定内だ。
島左近は船の底の方から爆発音を聞き、
「しまった、海上は囮か!皆の者、ここは任せる。風魔よ、付いて来い」
甲板にお市と甲賀者5名を残し、爆発音の方へ向かった。
海中から侵入した海軍兵はまっすぐに艦橋へ向かった。勝手知ったる怒露駿技愛である。時間が経てばこの船は沈む、それだけの穴を開けたのだ。早くお市を救出して脱出しなければ。その前に島左近が立ち塞がった。
その時、外で爆発音がして一瞬気を取られた隙に、海軍兵の雪風が火を吹いた。島左近は肩を撃ち抜かれ、風魔は前側にいた者を盾にしたが5人が死んだ。残った風魔は苦無と桜花散撃もどきを海軍に向かって投げた。
「え、これって」
「急げ、組立鉄板盾だ」
慌てて小山城攻めで使った盾を組み立てたが量が足らず10名が死傷した。生き残った者で風魔を仕留めようとしたが、誰もいない。島左近を連れて引いたらしい。
「あれが風魔か?恐ろしい奴等だ。見事な引き際だ。このまま突っ込んでもやられるだけだな。支援を待つか」
「いや、そんな時間はあるまい。先程の爆発音、もしかしたら海凛龍王ではないか?」
「あれは真・鬼神七兄弟しか操縦できんぞ」
「誰か戻ったのではないか?だとすれば船の外と中、両側から攻めるべきだ。仮に違ったとして我らが死んでも誰かがお市様を助けるだろう。我らは武田海軍、日の本一の勇者軍団だ」
「そういえばお市様が言ってたな、この訓練の先にあるもの。それが武田海軍、日の本一の勇者軍団だと」
「行くぞ!」
「おう!」
先程の爆発音は何だったのであろうか?そう、海軍兵の予想通り海凛龍王だ。操縦しているのは光太郎と弦だった。彼らは駿河茶畑に拾われそのまま6号艦の倉庫に連れていかれた。移動中に状況を聞かされそしてそのまま出撃した。海凛龍王は両足の後ろにスクリューが付いている水中用モビルアーじゃない、水中用兵器だ。スクリューは格納可能で格納すると二本足で歩く事が出来る。両腕は手のひら部分からバルカン砲が発射でき、指の代わりに斬鉄で作られた刀が五本付いている。
海凛龍王には専用の乗り物がある。水上台車だ。形は二等辺三角形をしていて底辺部分に三連スクリューが付いている。一度動き出すと止まる事が出来ない、簡単に言うと乗り物兼爆弾だ。
光太郎と弦は海凛龍王を水上台車に乗せ、全速力で1号艦に向かった。そして途中で海中に飛び込んだ。そのままの勢いで水上台車は1号艦に突っ込み爆発した。
そして、海凛龍王は指を船にめりこませながら、よじ登り始めた。
大阪城からは浅野長吉率いる一万の軍勢が海岸に向かって進み始めていた。大阪城の堀からは多数の小舟が現れ同じように海を目指していた。秀吉はそれを大阪城から見ていてふと空に浮かぶ2つの物を見つけた。
「あ、あれは気球か?勝頼め、あんな物まで作っておったのか」
兵に気球が動いたら教えるように見張らせた。あんな物、近づいて来たら撃ち落としてくれる。だが、それ以上に気になるのが海上の動きだった。遠目には何か煙が上がっているように見える。急げ、急げよ長吉。
大阪城東側では大軍が入り乱れていた。その中を信勝本陣へ向かう小集団がいた。