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信玄の遺産

「戻ったか、兼続」


直江兼続は戦況を報告した。金沢城周辺の出城は全て制圧、金沢城に残るは前田利長率いる約四千。


「こっちは佐々殿の活躍で前田利家殿を人質にした」


「なんと!それは城の明け渡しに使えますな」


「利家殿をそのような事には使わん。それは上杉の戦ではない。よいか兼続、この戦は勝頼殿、いや武田家の戦だが上杉の戦でもある。上杉には上杉のやり方がある。義だ、義を重んじるのが上杉の戦ぞ、忘れてはならん!」


「申し訳ありませぬ。利家様はどうされるのですか?」


「成り行きで預かったが余では判断できん。信平殿にお任せしようと思うておる。この軍勢の大将は信平殿ゆえ」







その信平だが、利家が捕らえられた時、上杉本陣から三里のところまで来ていた。軍勢の先頭には古参お三方がいてすでに二里のところまで迫っていた。そこに物見からの報告があった。前田利家が上杉軍に捕らえられた、別働隊が信平を狙っていると。


秋山は上杉軍にも武田の間者を紛れ込ませていた、というか信玄公時代から越後に住まわせた者達だ。信玄亡き後、この事を知っているのは山県、内藤、馬場、秋山、そして茜だ。もう馬場はこの世にいないが。普段は連絡を取っていない。有事の時にこちらから連絡をしない限り向こうからは動かない事になっている。今回秋山は独断で連絡を取った。この戦のために信玄公が残してくれた遺産だと信じて。


連絡を受けた間者は2代目だった。名を権太という。父親が信玄に言われ越後に住んだ。川中島では上杉軍として武田と戦ったそうだ。その時川の上で活躍し川上の姓を貰った。15歳になった時、父親からお役目を知らされた。いつお役に立てるかわからないが武田家ある限り自分の子にもその役目を引き継がせろと言われた。父親が亡くなって自分も父となった。


いつ連絡があるかはわからない、黙々と越後で日々を過ごした。突然この戦の前に使者が現れ、合図を聞かされた。戦場でこの合図を言う者が現れたら従えと。


川上権太は直江兼続の兵の一員としてこの戦に参戦していた。金沢城を囲む作戦の時、合図を聞かされた。


「城の動きを探れ。俺は近づく事が出来ない、動きがあったら知らせろ、俺は寺にいる」


合図を伝えてきた武田の間者はそう言って消えた。権太は兼続の作戦で金沢城を囲み、城の様子を伺っていた。城の裏手から前田軍が突撃してきて、その兵を円陣で囲む指示が来た時、陣を離れ城を見張った。


前田利家が兵を多数引き連れ景勝軍に向かっていくその隙に30人程の怪しげな集団が南へ向かっていった。権太は寺にいる武田の間者にその事を伝えた。


「良くやった。そのまま上杉軍に戻れ、また会おう」


権太はそのままさりげなく軍勢に戻った。





武田の間者は秋山、内藤、跡部にこの事を報告し、また山中に消えていった。


「どう思う、修理殿」


「信平様を狙っていると考えるべき」


内藤は上野から連れてきた忍びを呼び信平の護衛を命じた。跡部は信平のところへ戻っていった。不安じゃ、と言い残して。




少し後のこと、信平一行を遠目に見ている者達がいた。利家の命令を受けた者達だ。信平軍は道を縦長に進んでいる。軍列は長く、警戒されていて田や山に潜む事も難しそうだ。迂闊に近づく事も出来ない。不本意だが利家から預かった新兵器を使うしかなかった。この一行は加賀忍びだ。本来なら暗殺や奇襲に長けている加賀忍びだが、今回はその力を発揮できそうもなかった。


大阪城の国友村で技術屋の右近が開発した新兵器、そう、武田軍の長距離砲をヒントに作った狙撃用ロングライフル、その名も豊秀丸。


射程距離は200m、命中精度はそこそこだ。前田家に一丁だけ回ってきた貴重品だ。加賀忍びは利家の命令で何度か試射をし感覚は掴んでいた。弾は三発、だが初弾が外れれば警戒されるだろう。


信平は背が小さいが馬に乗っているので十分狙撃できる高さだが、周囲を騎馬隊が囲んでいてうまく狙えない。狙撃者は慎重に機会を待っていた。


何度か場所を移動したが、機会は訪れない。作戦を変更し、陽動部隊がけしかけ、その隙を射撃する事にした。加賀忍びは三手に別れ信平周辺を攻撃した。苦無を投げ護衛に切りかかった。突然現れた曲者に護衛がざわめいた。


「敵襲だ、殿をお守りしろ!」


信平を守っていた騎馬隊は陣形を崩し、迫りくる曲者に備えた。


「今だ!」


狙撃者は豊秀丸の引き鉄を引いた。ダーンという音とともに発射された銃弾は信平へ向かっていった。その銃弾と信平の間に飛び込んだ者がいた。跡部勝資だ。銃弾は跡部の肩を撃ち抜き信平には当たらなかった。


「銃が殿を狙っているぞ、お守りしろ!」


だが襲いかかってきた敵も強者、なかなか手強く思うように信平を庇えない。そこを二発目の銃弾が襲った。その寸前、信平は馬を降りた。自らが戦うためである。そのおかげで弾に当たらずにすんだのは強運ゆえか?信平は真田の庄で助さんに徹底的に鍛えられた。左手に小刀、右手に新型拳銃雪風改を持ち敵に立ち向かった。


新型拳銃雪風改、形はリボルバーから弾を9発装填できる拳銃タイプに変更されている。弾倉を替えることにより簡単に弾の補充ができる。信平は雪風改を撃ちまくった。敵が徐々に減っていき護衛隊も息を吹き返した。曲者を鎮圧する頃、内藤の忍びは狙撃隊を捉えた。


跡部勝資はうずくまっていた。この傷ではもう戦えまい、最後にいい仕事したなあと痛みに耐えながら自画自賛し微笑んでいて、周りの兵が気味悪がって近づけずにいたが、信平が声をかけた。


「跡部殿、助かった。礼を言う、傷の手当てをして下され」


「ありがたきお言葉。お役に立てて何よりでござる」


結局跡部はこの傷がたたり戦場には二度と出られなかった。


そして信平は上杉軍に合流した。










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