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琵琶湖畔

気球は茜の操縦で坂本城へ向かっていた。そう、明智光秀の居城であったあの坂本城である。今は秀吉の城になっていて長浜城奪回の拠点のはずだ。


「確かに兵が集まっている。おお、琵琶湖畔に真田殿の兵が集結している。見事な牽制だ、これなら坂本城の兵は動けまい」


「直江様。そう上手くいきますでしょうか。もし今敵が一目散に上様へ仕掛ければ真田様の兵は間に合いません。大御所はそれを心配しておられました。真田様とて坂本城の近くまでは出ていけないだろうと」


茜が心配して話しかけた。その時、真田兵の横から蘆名の兵がぞろぞろ出てきて信勝がくる方へ進んでいった。幸村は、


「茜様。蘆名は上様のお迎えという名目で上様に合流致します。坂本城の兵が動けば叔父上の兵も動きます。それに坂本城の兵は動きますまい。もし動けばその時は」


幸村は茜が信玄公の寵愛を受けていた事を父の昌幸から聞いていて敬語を使った。その時、領内に侵入してきた蘆名勢に向かって坂本城から騎馬武者が駆けつけた。


「お尋ね申す。それがしは坂本城代、滝川雄利様の配下で加藤主水と申す者。何の目的で我が領内を進まれるのかお教え願いたい」


「ご丁寧に痛み入ります。我らは蘆名幸村様の家臣でございます。大御所の命令により上様をお迎えに伺うところでございます。ご領地を通る事をお許しください」


「それは遠路はるばるご苦労様です。どうぞお通り下さい」



主水から話を聞いた滝川雄利は、坂本城の兵を動かさなかった。仕掛ける理由がなかった。蘆名兵が侵入してきたと理由をつけ仕掛ける事も出来たが、大御所の名前を出され、さらに将軍がそこにいる以上面と向かっては仕掛けられなかった。滝川雄利、滝川一益の娘婿である。織田信雄の家老であったが、形勢が悪いと見るや早々と秀吉に下り生き残っていた。だがあまり功績は上げていない、ここで手柄を立てたいと策を練っていた。ここでは仕掛けず安心させてからが勝負だ。


蘆名勢は信勝と合流し、総勢三千の大軍となって近江を進んだ。大津を過ぎ琵琶湖畔に差し掛かった時、事件は起きた。琵琶湖には小さな釣り船が多数いて一見漁師のような格好をした者達が釣りをしていた。


信勝軍が湖畔に近づくとともに、小舟が徐々に岸に近づき始めた。ゆっくりとゆっくりと違和感がなくである。


舟に寝転んでいた敵兵が起き上がり、同時に信勝軍に向かって火縄銃により銃撃してきた。舟の数はいつのまにか五十もあった。舟には二人寝転んでいて交代で起き上がって銃を撃っている。


ところがその銃弾は信勝には届かなかった。


銃撃が始まる少し前の事。上空から見ていた茜が異常に気づいた。


「蘆名様。何か変です。あの釣り舟のような小舟ですが上様に近すぎます。あんなに舟があるのに一箇所に固まるのはおかしいと思います」


岸から見ても違和感はないが、上から見ると位置が偏っているのが一目瞭然であった。茜は鏡を使って桃へ合図を送った。勝頼が考案した光によるモールス信号もどきだ。


「え、まさか合図? 琵琶湖上の舟に注意って、あれね」


桃は直ぐに慶次郎に伝えた。高城は信勝の守りに回り、敵の襲撃に備えた。高城は武闘家である。鉄の籠手はバックラーのような形をしていて火縄銃は軽く跳ね返す。今回は大盾を持ち、信勝の全身を隠した。


慶次郎はすぐさま湖に向かって弾除けの盾を並べさせた。間一髪間に合ったが、盾の外側にいた兵はもろに銃弾を喰らい、二十名程の死傷者が出た。桃は改良型の射出筒を使いランチャーのように桜花散撃改を舟の上に向けて発射した。上空で破裂した手榴弾から無数の手裏剣が飛び出し、敵兵を攻撃した。生き残った兵は舟を岸につけ突撃したきた。それを前田慶次郎が待ち受けていた。


慶次郎の朱槍が舞うと敵兵の首が舞った。あっという間に敵は全滅した。


「合図がなかったら危なかったかも。申し訳ありません。全く気付きませんでした」


桃が信勝に詫びた。


「まあいい、茜殿に感謝だな。上は向くな、敵にあれはまだ気づかれたくはない。まあ今回のこれもただの威嚇だろう。大御所は尾張が危ないと言っていた。余は三河だと思うておるがな。とにかく油断はするな、どこで仕掛けてくるかわからんぞ。空ときて湖ときた、次は何かな?」



滝川雄利は物見から襲撃が失敗した事を聞いた。これで成功すると思っていたのだろうか、本気で悔しがり今から兵を出そうとして加藤主水に止められた。主水は昔馴染みの島左近に状況報告の文を出した。



熱気球は旧小谷城跡に降りた。幸村達は待ち構えていたから真田信綱の兵に迎えられ、そこから騎馬で長浜城へ入った。しばらくして信勝一行が長浜城へ到着した。


「上様。お待ちしておりました。大御所のご指示でお迎えに上がりました」


「源二郎か、遠路はるばる大儀である。琵琶湖畔では助かった。で、あの気球はお主らか?」


「大御所から借りてまいりました。初めて乗りましたが見事なものです。上から見ると違った見え方をするのですよ。舟の奇襲も茜様が上から見て怪しいと」


「茜殿もきておるのか。どこへ行かれた?」


「忍びゆえにこの場はと。今は桃殿と話があるとか」


「ふむ。直江殿も大儀である。景勝殿にお変わりはないか?」


「はい。新発田を制圧し越後の安定に力を入れておりまする」


「越後は米が美味いと聞く。一度行ってみたいものだが………、そうださっさと国を統一して大御所みたいに自由になればいいのだ。将軍というのも結構疲れる」


「上様!」


真田信綱に睨まれた。


「冗談だ。気にするな。さて、軍師が揃ったところで今後の話をしたいのだが」


真田信綱、蘆名幸村、直江兼続、それと岐阜城から来ていた武藤昌幸を加えた軍師軍団と密談する信勝であった。





その頃、砥石城近くの真田の庄にふらりとひとりの男が現れた。


「百田殿はどこにいらっっしゃるかご存知か?」






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