空爆
比叡山から飛び立ったハンググライダーは4機、甲賀忍びだ。信平襲撃に失敗した甲賀飛行隊の生き残りで名誉挽回の機会を与えられていた。
信勝の前方から風魔の凧、後方から五郎盛信の兵、周辺は甲賀忍びが襲撃をかける。敵戦力が分散し、混沌とした所をハンググライダーで空襲する作戦、もしくは凧に武田軍が気付かず信勝上空に来た時に爆薬がぶら下がっている綱を切る役目をおっていた。
空中に飛び立ち信勝の方へ向かった時、空に合図が上がった。
「あの合図は何だ?風魔の物か?」
「わからん。だが何かあったのは間違いない」
凧はまだ普通に上がっている。武田軍は凧に気付いたのか、進軍を止めている。
「どうする?」
「お前らは上空から炸裂玉を落とした後、凧に向かえ。何かあったのかもしれん。こちらは炸裂玉破裂後に急降下し信勝を討つ」
少し前の事、井伊直政は、前方の凧を見ていた。
「上様、凧が三つに増えました。何かがぶら下がっています。あれが爆薬だとすると………」
「風向きからいって不味いな。こちらに飛んできたら防げるか?」
「上様のお命は何としてもお守りしますが、どこに落ちるか予想がつきませぬ。素早く逃げれるようにご準備を」
信勝は服と靴を履き替えた。服はロングTシャツにジャージ、靴はランニング用スニーカー、両方とも勝頼特製だ。ぱっと見将軍には見えない。
後方では戦闘が始まり騒がしくなっている。信勝は戦況が気になっていて身軽になったこともあり後方へ様子を見に行った。しばらくすると元いた辺りで爆発音がした。信勝の脱いだ服は普段信勝のふりをする影武者が着ていた。そこを狙って上空から炸裂玉が落とされたのだ。爆発で兵が数人吹っ飛び、影武者と井伊直政は上空を見た。ハンググライダーが2機凧の方へ飛んでいき、2機が影武者に向けて突っ込んできた。
直政はリボルバー雪風で迎撃したが上手く当たらない。敵兵2人はハンググライダーから降りて、刀を抜き影武者に切りかけた。直政は置いてあったハンググライダーに邪魔をされて影武者に近づくのが遅れた。
影武者は必死に応戦したが、肩を斬られた。トドメを刺そうとした敵兵は背後から追いついた直政に斬られ、もう1人は護衛の味方兵に討ち取られた。
「危なかった。その者は影武者だ。手当をしてやってくれ」
「何があった?」
信勝が戻ってきて聞いた。
「上様。上空から仕掛けられました。上様の服を着ていた影武者殿が斬られ怪我をしましたが、敵は討ち取りました。ただ2機のハンググライダーが凧の方へ飛んでいきました。敵兵の仲間だと思われますが、凧へ向かった理由はわかりません。
「さっき合図が上がったであろう。あれは武田忍びの応援求むの合図だ。敵がそれを見て向かったのかもしれん」
「助かりました。4機に攻められていたら影武者殿が討たれていました。敵にはこのまま上様が怪我をした事にしておきたいのですが」
「そう上手くいくかな?」
信勝はにやけて呟いた。信勝の顔を見て直政は焦った。この人やる気だ!
「上様、いけませぬ。兵の代わりはいますが上様の代わりには誰もなれないのです。もし何かあれば武田家は………」
「大御所もいるし、信平もいる。信平は大物だぞ、あれは将来が楽しみだ」
「何をいっているのですか?大御所といい、信豊様といい、上様まで。武田家の方は血の気が多すぎます」
「お主がそれを言うのか。聞いておるぞ、赤鬼と呼ばれているそうではないか」
「それがしの事はいいので、あ!」
その時、前方から爆発音がした。近づいてきたハンググライダーに向かって空に解き放たれた凧が回転しながら突っ込んだのである。爆風でもう一機のハンググライダーはコントロールを失い山中へ落下していった。
残りの2つの凧は、同じく爆風に煽られ武田軍に向かって落ちてきた。直政は用意させていた迎撃部隊に、
「何としても空中で爆発させろ、撃って撃って撃ちまくれ。他の兵は待避だ、後方へ下がれ。そして上様をお守りしろ。上様、お逃げください。ここはそれがしが、っていないぞ」
直政が喋り終わる前に信勝は駆け出していた。腰のベルトには雪風と刀が差してある。後方の戦場へ向かって全速力で走った。
前方では凧を離した風魔が武田忍びの応援を見て、ここは十分と引いていった。武田軍には甲賀の間者を紛れ込ませていた。成果は後ほどわかるであろう。
風魔の小太郎は、この位では討てないと読んでいた。ここは相手の出方を見るのと敵戦力削減ができれば十分だ。第2、第3の策は用意してある。だが思っていたより手応えを感じていた。小太郎の狙いは勝頼だ、いつかこの手で斬り刻んでやる、その思いだけで北条を見捨て秀吉についたのだ。
「これは次でいけるやもしれん」
引き上げている途中で爆発音がして少し後に2回爆発音が続いた。どこに落ちたかはわからんが秀吉の言っていた空爆というのが効果があるのが実証できた。これで武田軍は凧を見るだけで怯え、警戒するだろう。
井伊直政はコントロールを失って落下してくる凧と爆薬を何とか空中で爆発させようとしていたが、それは間違いである。すでに陸に近くなっており空中で爆発した方が被害は大きくなるところだったが、結果として動きが不安定な凧に弾を当てる事が出来ず、直政の30m後ろに落下と同時に爆発した。
落下地点には運良く兵はいなかった、というより兵は皆走り出した信勝を追って行っていたので結果オーライだった。ただ、直政と鉄砲隊は爆風で吹っ飛ばされ怪我をしてしまった。