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関白と二代将軍

3人揃って控えていると秀吉が偉そうに金ピカの服を着て現れ、座るなり声を出した。


「公方よ、よくぞ参った。久しぶりだな」


おお、秀吉め結構老けたな。こりゃ父上の言う通り本当に10年経ったら死んでるな。顔に出さない、顔に出さない、と。


「殿下。二代将軍、武田信勝。お申し付けにより参上仕りました」


秀吉は信勝の顔を見つめた。この自信に溢れた顔、どうしてくれようか。


「この度の不祥事。どう責任を取るのか直接公方の口から聞かせてもらいたい」


「何の事でございましょう?」


「帝ならびにこの関白が戦を禁じたのに、武田領地で戦があったではないか。どういう事かと聞いておる」


「恐れながら申し上げます。九州では関白様の手の者が戦をしていると聞いておりますが」


九州では関白の言うことを聞かない大友宗麟に島津義久、加藤清正が仕掛けている。武田家は大友へは陰ながら支援している。船で武器弾薬を供給し、真田信尹が先頭に立って一歩も引かず踏ん張っていた。


「話をすり替えるな。武田領地の揉め事をどう責任を取るのかと聞いておる」


「確かに争いはありましたが戦ではございません。反乱分子が暴れたので抑えただけでございます。すでに収まっております。殿下、前田利家殿がその反乱分子を匿っているようなのですがご存知ですか?」


「利家が?そのような事はあるまい。もしそうであったとしたらその反乱分子は生きてはいないだろうよ。利家は戦を収めるために出陣したと聞いておる。その利家に武田軍が仕掛け兵が大勢死んだそうだ」


「武田の領地内の話なのですが。勝手に侵入して仕掛けてきたのは利家殿です」


「人の親切を素直に取れないとは将軍の器ではないな。そなたの口ぶりからすると責任を取る気はなさそうだな」


「御意。戦をするのが目的ではありません。民が安心して暮らせるよう、政治をしただけでございます。その反乱分子もどこかの誰かに良からぬ事を吹き込まれたようで、困った物です」


「ほう、どこかの誰かとな。誰の事かはわからんが、武田には日ノ本を治めるのは無理があるのではないか?将軍職を返上すべきだと思うが」


「いえ、武田はすでに日ノ本の半分を治めております。あとは関白様がこの武家の棟梁に全てをお任せくだされば戦のない民百姓が安心して暮らせる国になりましょう。ところで殿下、キリシタンについてはどうお考えでしょうか?」


「また話をすり替えようとする。公方はそんなにしたたかだったかの?まるでそなたのお父上を見ているようだ」


全く言う事を聞かぬ信勝に腹を立てつつ、信勝の成長ぶりに恐れおののいていた。秀頼の時代にこんな奴が将軍でいたらひとたまりもない、何としても目の黒いうちに武田を滅ぼさねばならぬと改めて感じた秀吉だった。


さらにキリシタンとは痛いところを突いてきおって。官兵衛を敵に回す事はできん。

秀吉は武田にタイとの貿易を抑えられてしまい、武器弾薬をキリシタンを通じてスペインから購入していた。帝はキリシタン排除派だ。天皇崇拝こそが日ノ本には望ましいと言っており、秀吉には頭痛のタネだった。


「武田と仲のいい大友宗麟もキリシタンではないか。そなたはどう思うのだ?」


「先に聞いたのはこちらですが、いいでしょう。お答え致します。この日ノ本は神の国であり、神の子孫であられる帝を中心に政治を行うべきと考えます。ただし、すでにキリシタンはあちこちで布教活動を行っており頭ごなしに抑えつけるのは危険です。ご存知の通り大名にもキリシタンがおりますが、今のところ宗教戦争にはなっていません。これ以上広まらないようにする事が大事かと」


「大御所に聞いたのだな。この時代しか知らんそなたから宗教戦争という言葉が出るとは思えん。悔しいが、大御所と同意見だ。そこは意見があったな。だが、それとこれとは別だ。今回の戦の不始末、越中と長浜、美濃を返してもらおう」


「お断り申す。余りにも理不尽。殿下のお言葉とも思えませぬ」


「言う事を聞けぬと?」


「御意」


「あくまでも従わぬと言うのだな。この関白に逆らうと言う事は帝に逆らう事と同じぞ。それをわかっておるのだろうな」


「例え殿下であろうと間違っていれば正すのがこの将軍の役目と存じます」


「ええい、わからぬ奴め。将軍か。その征夷大将軍だが、近々剥奪される事になるであろう。将軍には秀頼がなる」


「何と仰せられる?そのような事、許されるはずがありません」


「帝の仰せだ。秀頼は前田利家の孫にあたる。前田家の祖先は佐々木源氏だと、官兵衛が言っておった。官兵衛は元は佐々木姓だしの。官兵衛が言うのだから間違いないであろう。豊臣の名の元にこの国は治められるのだ。帰って良いぞ。勝頼殿によろしくな」


護衛として控えている井伊直政は頭から湯気が出そうなくらい怒っていた。秀吉を見たのは初めてだ。話には聞いていたがこんな猿みたいな男が偉いのか?話に筋が通っていない。今にも斬りかかるような殺気を出していたのを見て慶次郎が目で抑えるよう訴えてから話し始めた。


「殿下。相変わらずやる事が無茶苦茶ですな。よくそれで関白になれたものです」


「ほう、誰かと思えばまたお主か。余にそんな口の聞き方をしてただで済むと思っておるのか?」


「何を焦っておられるのです。あの信長公の元で手柄を立てまくっていた切れ者の殿下はどこへ行ってしまったのかと。ここのところの殿下の采配は余りにも性急。それがしも前田、正式にいえば利家殿よりも本家筋ですが、元々尾張荒子の国衆に過ぎず、源氏などと聞いた事もありません。藤原姓に無理やりになった殿下なら何でも出来るのでしょうが、そんなに寿命が怖いので?」


慶次郎の言う事は嫌味だったがもっともだった。秀吉は焦っていた。もう1人の秀吉から自分の寿命を知った時、死後が怖くなった。歴史ではこの後朝鮮に戦争を仕掛けて国が消耗し、死後は徳川家康に滅ぼされたそうだ。

よくわからないが東西で戦になり、徳川に味方するものが多くて東が勝ったらしい。


徳川家康がいないこの世界で豊臣が安泰かと思えば、東半分を武田幕府が治めている。このまま同じように東西で戦になって負けるのか?戦が起きなかったらどうなるかは見えている。勝頼だけではない、この信勝も相当のやり手だ。


一代の成り上がり者と由緒正しい歴史のある家柄では勝負にならない。余の死後は武田にいいようにされてしまうだろう。勝負になる土俵を作らねば、それは余が生きている時にしかできん。




秀吉が黙ってしまった。隣の部屋で聞き耳を立てていた本多正信が、まあこうなるか、と謁見の間の外に控えて、


「殿下。お薬のお時間でございます」


「おお、もうそんな時間か。公方よ。武田家の考えはよくわかった。意見は噛み合わなかったが共に戦のない世の中を目指している、方向は同じだ。将軍職については追って沙汰があろう。道中気をつけて帰るが良い」







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