大阪城は黒光り
近衞前久は続けた。
「おかしいんや。何であんなに信長排除の空気になったのか、今から考えると分からんのや。何とか信長を殺す事に必死になっていた。そして明智光秀をそそのかし、光秀が行動に出た。得したのは誰や?」
興奮したのか関西弁になった。
「秀吉です」
「そうだ、そうなんや。全てはあやつが仕組んだ事よ。秀吉は最初から天下を狙っていた。信長をいつかどこかで排除する、その機会が本能寺だったんや。余は秀吉に乗せられてしもうた。光秀が事に及ぶよう誘導した。そういう意味では余が黒幕なのかも知れん。だがそれもこれもあやつの策略だったのだ。公方よ、あの男をこれ以上のさばらせてはいかん。武田の力であやつを討ち倒してくれ」
「太閤様は武田にお味方下さると。そう考えて宜しいのですか?」
「そうや、頼れるのは武田しかおらん。今回の武田領のごたごたも秀吉の仕業であろう。大御所にもよろしく伝えてくれ。ただ帝は秀吉になびいておる。そこは余が上手くやるよって朝廷は任せてくれ」
「これから大阪城へ向かいます。今回の件は間違いなく殿下の策略。ただ証拠がありません。盛信は逃げ、室賀は死にました。殿下が何と言ってくるか?ただ、武田の進む道は決まっております。太閤様、今後とも宜しくお願い致します」
信勝は大阪城へむかった。
信勝一行は大阪城の外堀の外にいた。同行してきた井伊直政がつぶやいた。
「黒い城だ。黒いのに金ピカだ」
大阪城は黒金の城だった。鉄甲船のように表面が黒い鉄で覆われていて、縁取りが金色に輝いている。見た目はきらびやかに見えるが言葉にできない不気味さだ。以前建築中の城を見たお市が魔王城と呼んでいたが、見て意味がわかった。
天守閣は物凄い高さだ。100mはあるように見える。その下部には小山城にあったような砲門が東西南北に突き出している。その下には対空防御だろうか、機銃が見える。まるで戦艦のような城だった。
「慶次郎。お主ならどう攻める?」
「逃げますな」
「真面目に答えてくれ」
桃が口を挟んだ。
「上様、前田様は真面目に答えていますよ。この城を攻めるのは無理です。逃げて敵が城から出たところ、城の外で戦を行うと言ってます。前田様、上様相手に言葉が足らなすぎますよ」
「そういう事ですな。敵が待ち構えているところに突っ込む事はありません。ここを攻める時が来るとすれば、何かが欠けた時ですな」
そうか。信勝は上洛前に勝頼が言っていた事を思い出した。
『大阪城は普通に攻めても無理だ。ならば普通にしなければいいのさ』
「皆の者。これより大阪城へ入る。いずれここを攻める時が来るだろう。どう攻めるか、皆、粗を探せ。どこかに弱点があるはずだ」
信勝、慶次郎、直政の3人が大阪城に入った。他のものは城外で待機させられた。城の周囲には見張りがいて所々に忍びの者らしいのもいる。潜入は難しそうだ。戦国飛行隊の4人は城下の見物という名の調査へ出かけた。
広間で待っていると、石田三成が現れた。
「公方様。遠路はるばる起こし頂き恐悦至極にございます。殿下は半刻後には戻られますので少しお待ちを」
「出かけておられるのか。お忙しいのでしょう。いつまでも待ちましょう。ところで、石田殿はどう思われる?この西と東に政治が別れた状況を」
「恐れながら申し上げます。この日ノ本は関白殿下の物、殿下の指示の元に国が動くのがあるべき形だと思っております」
「そうか。石田殿はもう少し先を見る目があると思っていたが勘違いだったのかも知れんな」
「何と仰せられる!」
「いや、すまん。大御所にも余が人を見る目がないと言われるのだ。いつまでも子供扱いよ。石田殿が駿府、江戸へ来られた際に余は貴殿をできる男だと思った。さすが殿下だ、いい部下をお持ちだとな。ところが大御所の意見は違った」
「勝頼様はなんと?」
「あの男は殿下が亡くなった後に本性が出ると。できる男ではない、天下を狙う野心を持つ男だと。石田殿、殿下があと10年後にお亡くなりになるとしよう。跡を継がれるのは秀頼様だ。秀頼様に従う大名がどれだけいるだろうか?毛利は?島津は?長宗我部は?どうだ、どう思う?」
「考えた事もありませぬ。天下は殿下が治めるもの。その後は秀頼様に皆が忠誠を誓い国の政治を行なっていくのです」
「甘いな。まあ良い。10年、20年、100年後の世がどうなっているかは誰にもわからん。だがそれを作っていくのは殿下でも大御所でもない。我ら、そして我らの子供達だ。よく考えてもらいたい、お主とは仲良くしていきたいものだ」
石田三成は下がっていった。信勝はいわゆるジャブを入れたのである。三成は忠臣だ。頭もいい。混乱させるにはもってこいの相手である。
戦国飛行隊の4人は堺の武田商店を訪れていた。この4人には尾行が付いている。今まで色々と戦功を上げていることもあり面が割れていて、甲賀の忍びに目をつけられている。4人は1刻程武田商店で過ごし大阪城へ戻った。そう、この4人は囮だ。
高城寅松、そう高さん弟は武田商店から1km程離れた民家にいた。ここは武田の秘密基地の一つだ。敵地では武田商店は監視されているので別の場所に基地を設けている。
「あー、あー、寅です」
「寅さんかい、熊ですじゃ」
寅は寅松、熊は勝頼である。通信機、愛話勝久々の登場だ。大崩にあったのをここに移設していたのだ。
「予定通り着きました。途中寄った京都はいいところでしたよ」
「それは良かった。ゆっくりしていきなされ」
「そうします。大阪の見どころはどこですかね?」
「そりゃお城ですよ。お気をつけて」
念のため誰かに聞かれてもいいように普通の会話だが、事前に取り決めた暗号である。京都では予定通り進んだ。太閤も味方だ。大阪城をよく見てこいと言っている。
武田商店の店員は大阪城築城の時に工事人として紛れ込み、ある程度の情報は持っていた。桃達は直接話しを聞き大阪城を眺めながら寅松を待っていた。
「あ、来た来た」
「寅、大御所何だって?」
「大阪城よく見てこいって。例のやつの使いどころを考えてるようです」
「あー、あれね。あれ何なの?」
「大阪城で使うんだって」
「答えになってない」
勝頼はいずれ大阪城攻めが起きると想定し、また何か作っているようだ。
秀吉が戻った。信勝、慶次郎、直政の3人は謁見の間へ向かった。