兄弟再会
池田恒興はなんとか清須城へ逃げ込んだ。武田の兵が追いかけたが、清須城から矢が雨のように撃たれ、合図とともに引いていった。池田恒興は3割程の兵を失い途方に暮れつつも気を取直し、織田信雄の前へ向かった。
「信雄様。信忠の軍は恐ろしい兵器を繰り出してきています。龍に似た、何なのかあれは。腕が飛び火を吐き、とにかく兵が怯えております。ここは籠城し、城を盾にして戦うべきです」
先程まで余に出陣しろと言っておきながら、何だこいつは。最初から出る気などないわ。
「池田殿。筒井殿はどうした?」
「筒井殿は逃げ出しました。恐らく坂本城へ向かったものと」
池田恒興の元に入った情報では坂本城に兵が集まっているらしい。秀吉の策略のようだが何を考えているのか?筒井は信雄様を捨てたのか、つまり秀吉もか、となると俺はどうなる、んー?
ここにいては危ないという事か。
城の物見櫓に登り、武田軍の動きを見た。龍が動きを止めている。台車に乗せられ運ばれて行くのが見えた。やはりあれは武器なのか?だがあの女の声は何なのだ?なんとかビームと言っていたな?意味がわからん。
お幸の乗った伝説龍王 は回収され勝頼の陣へ戻された。兵が搭乗口の蓋を開けると、汗だくのお幸が、
「疲れた〜、思ったよりキツかった。それにあの合言葉意味わかんないんだけど、ねえ大殿、何の意味があるのよ?」
「あれか?あれが秀吉に伝わるとな、どうなるか楽しみなのだよ。お幸、大儀であった。見事だ。桃、直ぐに今回の資料を元に弐号機の製作にかかれ。船が用意してある」
お幸は、桃に汗を拭いてもらいながら下がっていった。弐号機って何???
清須城は籠城に入った。近づけば城から攻撃を食らう。一気に行くことも考えたが、信忠が信雄と話がしたいと言い出した。甘いんだよ、お前。ただここは尾張、織田の本拠地だ。ここで兄弟で話をしたいと言われ、尾張にきてから信忠に下った尾張の兵達の気持ちを考えると、邪険には出来なかった。
信忠は城に使者を出した。信雄は拒否しようとしたが、池田恒興が時間稼ぎの為に会うよう説得した。近くの寺にお互いに30人だけ護衛を連れて会見が持たれた。寺の周囲は両陣営とも誰も近づかない、紳士協定だ。
「兄上。ご無事であられましたか。お元気そうでなによりです」
「信雄。しばらくであった。ここで会えて良かった。余がお主と話しをしたいと勝頼殿に願い出たのだ」
「何故でございますか?」
「ここで兄弟で争うことに意味があろうか?秀吉の思うツボだぞ」
「では、兄上がお引き下され。そうすれば兄弟争わなくてもすみます」
「余が引いた後はどうするのだ?秀吉の下に付くのか?」
「何を馬鹿な事を。秀吉は余の家臣、何であんな猿の下につかねばならぬのです」
「わからぬのか?余は秀吉に殺されるところを勝頼殿に助けられたのだ。秀吉は天下を狙っている。直ぐに寝首をかかれるぞ」
「兄上こそ、武田に味方してこの織田宗家の信雄に逆らうおつもりか?兄上はもう死んだのです。のこのこ出て来なければ良い物を。」
信雄の護衛の甲賀者、そう秀吉の配下の者が信忠に飛びかかろうとした。そこを信忠警護の伊賀者が防いだ。警護の中には服部半蔵がいて指揮を取っていた。
「信忠様、お逃げ下され。ここは我々が食い止めます」
「ええい、信雄。目を覚ませ。お主は騙されておるのだ」
逃げながら叫ぶ信忠であった。信雄は清須城へ引きながら、
「もう引けぬのです。今更出て来ないで欲しかった。しかしあの状況で兄上に仕掛けるとは何処の者だ?知らぬ顔であったが。まあいい、ここで兄上に家督を返すなど、それこそあり得ぬ事だ。」
と呟いた。信雄は再び籠城に入った。この隙に、池田恒興が城から出て坂本城へ向かっていったのだが、誰も気付かなかった。
その頃、秀吉は坂本城へ向かっていた。坂本城へは足利義昭、顕如が来ている。また、細川、宇喜多も兵を連れて来ていた。ここに大軍が集結していた。そこに筒井順慶の使者が現れた。
「羽柴様。筒井軍は坂本城へ向かっております。清須城で敵の砲撃を受けましてございます。その一部始終をお伝えするよう言われて参りました。敵の大筒は射程距離が半里に及びます。砲弾が撃たれる前に砲撃手が、エネルギー充填120% 発射! と言っておりました」
「何だと! (◯動砲かよ) 勝頼め、また何を作ったのだ。おい、発射の度にそう言ったのか?」
「はい。必ずと言っていいくらい」
秀吉は悩んだ。ただの大筒ではないのか?この時代になんて物を作るんだ、あの野郎。
「わかった。下がれ、筒井軍は坂本城で待機だ。」
次に池田恒興の軍に紛れ込ませていた間者が報告に来た。
「申し上げます。武田軍には龍がいました」
また出して来たのか。あのおもちゃを。
「龍か。それは浅井攻めの時に見た。口から火を噴いたであろう。ただの置物みたいな物だ」
「いえ、その龍は二足歩行で歩きました。そして腕を真っ直ぐに上げると、その腕が飛び出し、馬防柵を吹っ飛ばしました」
「何だと、歩いたというのか!それに◯ケットパンチだと」
「流石は秀吉様、ご存知で。ゴーリーパーンチという女の声がして腕が飛んでいきました。銃弾や矢が無数に当たりましたが歩みが止まらず、口から火を噴き池田様の軍は城へ撤退しました」
秀吉は考えた。有人型ロボットか、まさかな。間者からさらに詳しく聞き、石田佐吉を呼んだ。
「佐吉。国友村の右近の元へ行け。敵の情報を事細かに伝えて来い」