秀吉と秀吉
美濃流は古府中いや甲府で観光地になっている信玄ゆかりの地を回った後、諏訪に戻った。特に手掛かりはなかった。もう一度図書館とブーブルで建御雷神 と建御名方 についてとことん調べた。色々な説があったが、古事記の話が一番スッキリする気がした。
「建御名方 は出雲からここまで逃げてきたのか。それで諏訪から出ない事を約束して生き延びたと。で、八坂刀売神 と結婚して子孫を残したのか。それが諏訪家」
恵ちゃんはこの二人の子孫って事か。俺も転生したってことはどこかで繋がってるのかもだな。ただ、どうやって転生するのか。
何にせよ、この3人?の神が3人の現代人を戦国時代に転生させた。消去法で俺を転生させたのは建御名方 だ。
神って何?転生させる力なんてあれば何でもできるじゃん。でも日本の歴史で転生者っぽい人っていないんだよな。つまり誰でも転生させられるわけではない。何か特別な条件があるのだろう。
恐らく俺を戦国時代から追い出したのは建御雷神 だ。という訳でお膝元の春日大社に行ってみることにした。
「なんて立派な。比較していいものかわからないけど、諏訪大社より凄いな、ここは」
奈良まで来た甲斐があった。ただの観光みたいだけど。のーんびり広い神社内を歩いていると視線を感じた。振り返っても誰もいない、なんだかなあ、気味が悪いがこのままここまで来て逃げる訳にも行かない。
夜まで車で待った。そしてトランクから荷物を出し、敷地内に入り座禅を組んだ。昼間人がいるところでは何も起きないだろう。さて、何が起きる?
午前2時になった。何かに見られてる、あー気持ち悪い。幽霊じゃないよね?ここから出てけ!って圧を感じる。やだやだ、なんかやだ。仕方ない、美濃流は立ち上がり構え、精神統一し闇に溶けた。
「抜刀術、神滅閃」
陰流奥義 陽炎を応用した抜刀術、無の境地から一気に気配のあった空間を斬鉄剣、鬼切り丸が一閃した。
その後、圧が消えて穏やかな空気に変わった気がした。
「ふう。まさか現代で使うとは。しかも神社で。さてなんか空気が変わった気がするが俺は一体何を斬ったのか?」
美濃流はいそいそと刀を荷物の中にしまい何も無かったのように再び座禅を組んだ。そのまま何もなく朝を迎えた。荷物を車にしまい、再度境内に行きお賽銭を入れて拝んだ。
「昨夜はごめんなさい。気のせいかもしれませんが何かを斬った気がします。ただ何となくですがスッキリしました。俺は戦国へ帰ります。なんとしてでも」
そして再び諏訪へ戻った。特に何事もなく秋が来て冬になった。諏訪湖がかちんこちんに凍った。地元の人が言うにはここまで凍るのは最近では珍しく今年は何年かぶりに御神渡りが見れるのではないかと言う。
「瞬間見たいな。いつ起きるんだろう?」
毎日見張っていたら諏訪大社上社の上に霞のような物が見えた。まさか、神?その霞が諏訪湖の上に移動し下社に向かって動いているように見えた。
その時、バキバキと音がして氷が割れ始めた。
「来た、これが御神渡りか。」
美濃流は御神渡りを見た瞬間、無意識に走り出した。身体が勝手に動いた。何かに呼ばれている。例の不思議な石を持ち、諏訪湖の上を氷の割れに向かって一目散に走った。霞のような物に触れた瞬間、意識を失った。
ううーん。気付いて起き上がるとそこは諏訪大社の下社だった。景色が違う。頭がぼーっとしていた。頭痛がひどい。どうやら戻ったようだ。その時女性の声がした。
「よくぞご無事で。もう誰も転生させることはできません。ご武運を。」
「八坂刀売神 様ですか。教えてください。なぜこんな事を。」
返事はなかった。しばらく下社にいたが何も起きなかったので、今が何年なのか、世間はどうなっているのかを知るために格さんがいるはずの秘密工場へ向かった。
「格さんや、しばらく。」
「…………、お屋形様? 生きておられたか。今までどこへ。」
まずは情報だ。どうやら今は1582年4月らしい。本能寺の年か。俺は1年ほど行方不明になっていたようだ。武田家は信勝が家督を継いだが、穴山と小山田が反旗をあげ武蔵を攻めているとの事。
「マジか。せっかくうまくいってたのに。結局そうなるのか。」
穴山が裏切る歴史は変えられないという事なのか?もしかして本能寺も?こりゃ焦って動くとやばいな。今すぐ戻りたいが作戦練ってから動かないと全てが泡に帰すかもしれん。
格さんには勝頼帰還は内緒にしてもらい情報収集を頼んだ。愛話勝 を使って造船所にいたお市だけには話した。いずれ戻るが今ではないと。お市には水軍の手配と九州にいるお幸と高さんに戻るよう伝えてもらった。しつこく聞かれたが戻ったら話すと言って黙らせた。
そして以前から検討していた熱気球を完成させ京へ向かった。
「というわけで、よくわからんが戻って来れた。本能寺の変が起きるのは未来でわかったが、一番違うのは余が戻った事だ。このまま秀吉の思うようにはさせん。再び武田を大きくし天下を取る。皆の力が必要だ。頼む」
翌日6月9日、信勝は勝頼が戻った事を家臣に知らせ、早速三島に向けて出陣する事を伝えた。まずは小山田だ。
6月7日、秀吉は京へ向かう途中で信忠が生きていて光秀を相手に戦を始めた情報を得た。
「官兵衛。これはどういう事だ」
「思うようにはいかないという事です。ここは双方に消耗してもらいましょう」
「あの光秀が信忠を逃すとも思えんが。このままではわしの出番が無くなる。わしが光秀を討たねば意味がないであろう。急いで横から掻っ攫うぞ」
「殿。その前に決着がついたらどうします?備中からこんなに早く戻った事をどう釈明するのです?」
「どうしろと言うのだ?」
「どっちが勝つか見てから決めましょう」
そんな呑気な事でいいのか?秀吉はもう一人の秀吉と脳内会話した。
『どう思う。信忠は死ぬはずだろ。まさか上様も?』
『信忠を助けた者がいますね。朝廷筋か、事情を知るどこかの大名か』
『そんな者がいるとは思えんが、生きているのは間違いないようだ。ここで光秀を殺し、織田家の中の立場を上げ仕切るつもりだったが』
『信忠軍には丹羽長秀と滝川一益、それに信孝までいるそうです。一気に葬る絶好の機会ですよ。こちらは三万。楽勝です。』
『何だと。恐ろしいやつだ。同じ秀吉とは思えん』
『一つの手段です。どっちが勝つか、官兵衛の意見も入れて決めましょう』
秀吉軍は備中から急いで戻ったため疲労していた。歩みを緩め、京まで1日のところで休息する事にした。どっちが勝つか待つ事にしたのだ。
ここからは勝頼と秀吉の天下取り争いになる予定です。