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明らかにおかしい。
【奥菜 和徒】の所有するスマホにダウンロードされた不思議なアプリ、【ゲッター】。そのアプリの機能、ガチャから手に入れた『契約書』によって召喚された【ケイリシュオン】。愛称【シオン】は困惑と同時に気味の悪さを感じていた。
【奥菜 和徒】と言う人物は二月と少ししか一緒に過ごしていないシオンにとっては、まだまだ分からない部分が多い人物ではあった。
しかし、自分が一生を捧げても良いと思える事を成してくれた人物である。その出来事は二人が出会って間もないときであったが、その時点である程度の善性は伺うことが出来た。邪な想いがなかった訳ではないかもしれないが、それだけではない何かをシオンは感じた。
更に【ゲッター】で手に入れた奇っ怪な力を使って金銭を得ることで一生を楽に過ごしたいと言う怠惰な事を言いつつも、人々を救う事で金銭を得る自分に疑問を抱き、不快感を感じていた。酷く真っ当な人物とは言いづらい人ではあるが、ある程度は真っ当な人間であったと言える。
忠誠を誓ってから分かり始めた主人である和徒の性格的に悪い部分を「仕方ない人」だと笑いつつ、善い部分を知る度に「正しい判断だった」と、「間違ってなかった」と心地よい気分になっていたシオン。
そしてつい1月前。
今となっては去年の話。
いよいよこれから様々な人を治療することで救いをもたらし、その見返りに金銭を得られる地盤が出来上がったその日を境に、主人である和徒は変わってしまった。
当初はようやく軌道に乗った事への安堵から来る気の緩みのようなものだと自分を言い聞かせていたのだが、状況は―――――いや、症状は悪化の一途を辿っていた。
潔癖症とまでは言わないが、それでも普通とは言えない程度には自身の身体の汚れを気にしていた筈の和徒は、その日を境に普通の人レベルまで気にしなくなり、一月経った今では無頓着と言えるまでになってしまっていた。
定期的に治療を行い、金銭を得ること事態はやっているが、その他の事。食事や風呂などはどんどんとずぼらになっていき、シオンが準備しても無駄になることも増えてきた。
暇があれば握っていた、最新の家庭用ゲーム機さえもコントローラーには、シオンが掃除していなければうっすらとホコリが付いてしまっていただろうくらいには触りもしていない。
シオンが進言や注意の類いを行っても生返事を返すだけで、果たして本当に聞いているのかもわからない状態になっており、定位置を変える。と言ったことはなかったが、逆に寝るのもその場となり、本当に文字通りの定位置となってしまっている。
普段は何をするでもなく、だらりとソファーに寝そべりながらタバコを吹かすだけであった。
そんな和徒の様子に異常事態を確信したシオンは無理矢理にでも和徒の意識を此方へと向けるべく和徒の視界の前へと立った。全裸で。
「久しぶりに此方に意識をキチンと向けてくださいましたね」
「・・・・う?・・・は?いや、え?な、なに?」
シオンに意識を向けた。と、言うよりはシオンの裸に反応したと言った方が正しいのだろうが、本当に久しぶりに感じる対面に喜びを感じたシオン。自分の中での和徒の存在は自分が思っていたよりも大きいようで、その事に驚きと共に喜びがあった。
「和徒様。少しよろしいですか?」
「い、いやいやいや!良くない!良くないよ!?服着て!?」
◇◆◇◆◇◆
「いや、正直に言うと自覚はあったんだ。俺が変になってるってことは・・・・・」
無事(?)に何時ものメイド服に身を包んだシオンは最近の和徒の様子をシオン視点で語った。そうして、本日、先程行った奇行の理由も話す。
和徒としては「もっと他に方法があっただろう」と思わなくもないが、心配や迷惑をかけている手前強くは言い出せずにいた。
和徒がわりと普通に話せる程の状態に戻ったのは、シオンによって懇願され【改善せし不浄の右手】を自身に使った結果であった。シオンも果たしてそれに効果があるのか疑問ではあったが、何もしないよりはマシだろう。と実験の意味合いもあり願ったのだった。
シオンの実験的意味合いがあった。と言うよりも実験的意味合いが強かったその行動は幸いにも良い方向へと転がり、シオンの記憶している和徒に近しい雰囲気を取り戻していた。
実際のところ和徒の感覚としては、元々面倒臭がりな部分があると自覚はしていても流石にこれは通常と言えない程度に不調であった。感覚的に凡そ通常の5割程度で、微熱があるような気だるさが体に乗し掛かっていた。
が、会話すら、コミニュケーションすらも面倒と思ってしまう程ではなく、ある程度回復できていた。
「では、何故そのまま放置されたのですか?」
「・・・・怒りたくなるだろうけど―――――『面倒だったから』が正解かな?」
「――――――」
和徒の予想正しく、纏う雰囲気を数度下げたシオンの視線に苦笑いを返すしかない和徒は続けて説明を口にする。
1つ。
まるで高熱に侵されているかのように体が重く、怠かったこと。
1つ。
思考も体と同じく重く、怠さがあり、思考の殆どが途中で放棄してしまう有り様だったこと。
1つ。
纏まらない思考でも、その状況に違和感を覚えたが、何故かすぐにどうでもよくなっていたこと。
以上3つが和徒の説明であった。
そんな状態はあの密会の最中から少しずつ起こり、決定的だったのは花村真木の弟、誠を治療してからより顕著になった事を明かした。
シオンが和徒に違和感を覚えたのも誠を治療した後であった為、彼女も納得するように頷く。
決定的だったのはその後の病院を経営する医者であった前田利伸の娘、かすみに【改善せし不浄の右手】を使ってからだった。
それからは殆どの事がどうでもよくなり、最後に残ったのは『お金は絶対に必要』だと言う金銭欲。そして、生活する上で必要になることを理解していた為に生存本能が働き、その2つが合わさった結果、数度の治療を行う事が出来ていた。
しかし、それも限界が来ていた。恐らくは後1回。多くても2回【改善せし不浄の右手】を自分にではなく他人に使っていた場合は・・・・・。
「そ、れは、改善出来るのですよね?その力で」
「いや、どうやら完全には無理みたいだ」
シオンの懇願により【改善せし不浄の右手】を自身に使ったことである程度の改善はなされた。が、もう一度使ってもそれ以上良くなることはなかった。
今後の検証次第で改善方法が判明する可能性はあるが、基本的にこの【改善せし不浄の右手】は1回で完全に治療してしまう強力なもので、それを要いたにも関わらず完全には改善されないのならば・・・・つまりはそう言うことだろう。
更に、状況から考えるにこの和徒の身に起きた異常事態は【改善せし不浄の右手】が原因である可能性が極めて高い。なんなら断定しても良いほどだ。
ならばと、瞬時にシオンは結論を出した。
己の主人を害する者や物は、例え誰にとっても有用で必要なものでも、排除するべき。
しかし
「俺はこのまま続けようと思うんだ」
「!?」
『息を飲む』の見本とも言える表情を浮かべたシオンの瞳は、これでもかと見開かれ、和徒を凝視する。
自分の不利益となりえる道だと分かっていながら『進む』、と、言葉を口にする主人の真意を知ろうとした。
「怠惰に過ごすことは夢だった。だったら・・・・別にいいかな?って思ってね。しかも、対価は貰っているにしてもさ、『誰かを救った』その『結果』なら、受け入れるのも悪い気分じゃないし――――――」
シオンは口を閉ざした。
主人があまりにも―――――慈悲深かった。
訳ではなく。
「お逃げになるのですか?」
「っ!?」
数分前にも見せた少し冷たい雰囲気で、問うた。
「失礼ながら、その慈悲深さは建前ですよね?本当は――――――本当はただ、和徒様御自身が感じている『後ろめたさ』から解放されたいだけではないですか?」
「・・・・・」
和徒からの答えは出てこない。
しかし、答え合わせを態々してもらわなくとも、その沈黙が、その苦々しい表情が雄弁に物語っていた。
『辛い』っと。
シオンが和徒に出会った当初に感じた善性。それは確かに和徒の中に存在していた。
和徒自身もそれを自覚していたし、何気に誇りにも思っていた。
しかし、それよりも強い怠惰な想いがあったが故に【ゲッター】と言う力を手にしたときに真っ先に出て来たの想いが『楽が出来るかも』であり、考えたことはどう利用するかだけであり、そこに善性は存在していなかった。
あるのはただただ利己的な思いだけで、『誰かの為に』なんてご立派な想いは欠片も存在しなかった。
しかし、力を手にしたことに馴れ、自分の考えた欲が、ある程度満たされる事が分かった瞬間に忘れさられていた善性を思い出す。それらの感情すべてが『和徒』であり、彼を形付ける一部たちなのだから戻ってくるのは必然だ。
そうなったときに芽生えた。
感じた想いは『嫌悪』だった。
その嫌悪は彼を蝕み、気にするなと諭したシオンの言葉も届くことなく己自身を責めた。
『人としてどうか?』『力あるものとしてどうか?』
その答えは何度自問しても変わらずーーーーー悪であった。
そんな考えが出てしまうこと事態にも『自分が傲慢だからなのか?』等々・・・・・少々――――いや、ハッキリ言って面倒臭い性格をしていた。
その面倒な性格を面倒だと自分自身で思いながら、更にその性格故に苦しみをも抱え込むことになり、結果そこで起きた自身の異常にこれ幸いと逃げ込もうとしたのが実態であった。
「確かに和徒様ご自身の都合や身体的、精神的な疲労すべてを無視すれば、この世界のすべて――――とはいかなくとも多くの人を救えることでしょう。
しかし、です。そんな事をすれば確実に和徒様は壊れてしまいます。まず、間違いなく。これは九重重蔵を筆頭にあの密会の場に居た者の共通認識です。これは【善】【悪】の話ではありません。
和徒様と言う一個人を御守りしたいわたくしの願いであり、ラパル様を同じく御守りしたい彼ら彼女らの想いなのです。
和徒様はわたくしたちの願いと想いを聞き入れ、御自身を守るために力の使い道を制限してくださる。それが正しいと思います。
『誰かのために』とは崇高な事ではあります。ですが、まずは『自分のために』を念頭に置いて行動してください。そうすれば、自然と多くの人々を救えるはずです。
もし、あのまま症状が進んでいれば誰1人として救えなかった。そんな明らかに誤った道へと進もうとするならば、今のように何度でも、いつでも、いつまでも、わたくしが連れ戻します。
どうか、我が儘になってください。我が儘な夢を語るだけでなく。その夢へと突き進む事できっと、いろんな事が上手く行きます。
上手く行くように、その為にわたくしや、九重たちが協力するのですから」
想いを口にするシオンから次第に冷たさが消え去っていき、極自然に温かさが溢れた。
その空気に触れ、その言葉に刺され、シオンが伸ばした手から自分の手へと伝わる温かさに―――――和徒の胸は甘く締められた。
いつの間にかこんなにも真摯に自分の事を思ってくれる人が傍に居たことに嬉しさが込み上げてくる。
そうして、和徒の体は自然と動き出す。
万全ではない体であっても、不思議と面倒だ等と微塵も思う事はなかった。
体の感覚は失ったかの様な、重力を失ったかの様にふわふわとしている様。
唯一思考だけは怠惰な生活を送っていた時と対して変わらないくらいに鈍い。しかし、その鈍さには甘い痺れの様なものがあって、それが和徒の思考を覆っていた。
シオンを包むように。それでいて、シオンにすがるかの様に体を動かした。
主人が自分を求めている。
この時を、待ちに待ったこの時を―――――――万感の思いと満面の笑みで答えたのだった。
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