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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

恋する双眼鏡〜いけ好かない先輩がどうにも気になり始めたので追っかけてみることにします〜

作者: のきぎ


人を好きになるということは素敵なことだ。反対に、人を嫌いになるということはすこし苦しくて。


「ほんとあの生徒会長、苦手だ……」


私、鞍月くらつきめいこは我慢していた感情を吐き出した。

あの、生徒会長というのは今みんなに囲まれ質問攻めにあっている先輩、浅沼あさぬまみなとのこと。

頼りになるだかクールだか知らないけど少しだけ私にはいけすかない。でも仕事があるためその感情を出すわけにもいかず、我慢するのが日常になっていた。普段は表面上の会話だけで済ますのだけど会議となったらそうもいかず、疲れてしまう。


「はぁ、早く帰ろう……」


ストレスとまではいかないが余計な感情をためすぎて疲れ切った体を一刻も早く労わりたい。そんな気持ちで私は急いで生徒会室をあとにした。


「悪い人じゃないのに。悪い人じゃないのは分かってるのになんで苦しいかなぁ」


会長はまだ右も左も分からなかった私を積極的に助けてくれたわけじゃない。だけど、質問をすれば私に分かるまで説明してくれた。そんなところもあり会長は後輩から同級生からも大人気でよく人に囲まれている。

そんな会長のことを私はなぜか苦手になってしまった。


「はぁ、私って性格 悪いかなぁ」


あんなに優しい先輩を苦手になってしまえば罪悪感を感じずにはいられないもので。私はまたゆっくりとため息を吐いた。仕方ない、水筒に入れたオレンジジュースに癒されよう。好きなジュースをお茶飲んでますって感じで飲めるのいいよね。


「ん、あれ……?」


カバンに手を入れるけど、想像していたものが掴めない。一回置いて探ってみるとカバンの中に目的のものはなくて。


「忘れた‥‥」


今 飲みたい気分だったのになぁ。というか、学校に忘れちゃったのかな。

もしもあの水筒が落ちでもして中身がこぼれたら大変だ。ジュースだってバレたときの反応も怖い。


「仕方ない、取りに行きますか」


たぶんまだ誰かいるはずだから。私はそう考えて学校へと引き返した。



☆☆



教室を探してみたけど水筒はなく、嫌だとは思ったがどうやら忘れた場所はすこし前にいた場所のようで。


「生徒会室、最上階だから行くの疲れるんだよなぁ」


生徒会室なら別に焦って取りに行かなくてもいいかなぁとも思ったけど、ここまで来たしちょうどいい運動になるかもしれない。重たい足を持ち上げて、最上階までの階段を登る。


「おや、めいこじゃないか。生徒会室に何か用?」

「会、長……」


最上階まであと半分といった頃、自分の行動に後悔してしまう。会長から離れたくて早く帰ったのに戻ってくるなんて無意味じゃないか。


「ちょっと忘れ物を」

「そうか、良ければ取ってくるけど」


「いえ、悪いですし」


早く会話を終わらせたいですし。なんて心の中で思ってしまう私はつくづく性格が良くないらしい。

そっぽを向いて上を目指そうとしたら、少し会長の持ちものに目がいってしまった。


「双眼鏡?」

「あぁ、いや……何もないよ」


慌てて隠しだすけどもう遅い。


「会長は今まで何してたんですか?」

「別に、なにも」


いや、絶対なにかあるでしょそれ。

会議が終わってけっこう経つと思うんだけど仕事を残さないで有名な会長が今まで残って仕事をするなんて考えづらい。それになんだかんだ人気のある会長だ。一人で仕事をしようものなら後輩や同級生が放っておかない。それなのに。

まさか、覗き?

いやでも生徒会室の窓から見えるのは校門くらいでなにも覗くようなものはないはず。ますます分からない。


「めいこも暗くなる前に帰りなよ、じゃあね」


まるで逃げるかのように会長は去っていった。怪しい。というか、怪しすぎる。

あの会長のあたふたする姿に何かあるとしか考えられなくなった私は。


「ちょっと追いかけてみますか」


不思議な好奇心のもと、会長を追っかけてみることにした。


☆☆


昨日の私の好奇心とは裏腹に、真相はあっさりと分かってしまった。


「恋をする二人が好きで見てたぁ?」

「まぁ、二人じゃなくても。片想いも好きだよ」


いやそういうことじゃないわ。

朝に来ていきなり会長に生徒会室へ呼び出されたと思ったらこれだ。上手く消化できない。


「恋をする人の表情というものは素敵なんだ。それだけで世界が照らされる」

「う、うーん」


そんなうっとりした目で言われましても。人の趣味にどうこう言うつもりはないけどやっぱり変態なんじゃないかなんて思ってしまう。


「言えない気持ちを抱きしめたり、あふれだしてしまったり。一筋縄でいかない恋ほど素敵で輝かしい」

「そう、ですね」


まず双眼鏡を置いてから話しませんか?会長の視線を追ってみればそこには一組のカップルが歩いていた。好きなのは分かるけど話しているときくらいこっち見なさいよ。

でもこれで会長が変態だってのは確証したし別に深入りするつもりもないからもういいかな。


「分かりました、ではもう邪魔しませんので」

「邪魔なんかじゃないよ。私はただ恋というものの美しさを語りたかっただけ」


「はぁ」

「恋は素敵だ。恋する二人は私の心を満たしてくれる」


「それはさすがに言い過ぎ、じゃ……」


ないですか?と聞こうとした口は上手く動かせなかった。

窓から見える恋人同士を幸せそうに見つめる会長の顔に、思わず目が奪われた。


「私は学園中、いや街中の恋する人が幸せになってくれることを夢に見てるんだ。もちろん、難しいだろうけど恋が実ることだけが幸せじゃないから」


何か熱心に力説してくれてる気がするけど何も聞こえない。

心臓がドキドキ、うるさい。


「ーーーー?!」

「どうした?めいこ」


私、どうしちゃったの?

会長相手に、どうしちゃったの?!

自分で自分が分からなくなる感覚。世界が先輩で埋もれちゃったような。


「違う!絶対に違うから!」

「な、なにが?」


私がそんなのありえない。

会長相手に絶対ないし、なんかいけすかないし!


何が違うんだと聞き続ける会長をよそに、私は必死に私へと言い聞かせていた。



「先輩、飛び蹴りかましていいですか」

「なんで?!」



私が自分の気持ちを認める日はまだまだ先の話。


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