表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏色の魔導士  作者: 雨森 千佳
第三章 日没の矢
109/133

26 紛れこんだもの

「この状況が、あと何日保てる?」

「何事もなければ、四日ほどです」


 フェル団長の問いにそう答えながら、レツは少し自分が情けなくなった。

 トセウィスの町に七日夜と同じ魔法を使っているが、国全体を覆った七日夜と比べると明らかに力不足だった。


(町一つなのに、七日も保てないなんて)


 だが、今それを嘆いてもどうにもならないことだった。

 騎士団のトセウィス支部も、町と同様に闇の中に沈んでいた。あまり広くない部屋の中には、レツとルイ、魔導士隊北方中隊長の二人、セタンから駆けつけた騎士団長のフェル、そして魔導士隊の隊長であるヴァフの魔法の鳥がいた。


『町の様子はどうなっている?』


 ヴァフ隊長の魔法の鳥に、中隊長が答えた。


「闇の魔法の中にいる精獣ガダは、全て捕縛しました。国境付近から新たに侵入してくる気配は今のところありませんが、念のため魔導士隊を配置しています。回収し損ねていた春彩石はひととおり破裂したようです」


 セタンの研究所のように大量の春彩石があったわけではないが、それでもトセウィスでは回収できていなかった多数の石が破裂した。

 春彩石の中には、多種多様な薬品が含まれていた。一つ一つは害がない。だが、それらが合わさった時に一つの危険な薬になる。それが精獣を狂わせていた。夏の暑さで薬の効能が増すらしく、それも被害が大きくなった原因の一つだった。

 精獣を狂わせる薬の存在は知っていた。だからこの国の精獣ステュルは、その薬の影響を受けないように魔法道具を身につけている。レツも以前、セイの兄と共にいたステュルの首元に、それが光っているのを見たことがある。

 だが、ガーデザルグ王国の精獣ガダは、当然そのようなものは持っていなかった。


「セタンはどうだ?」

『今のところ、私の張った結界が破られる気配はない。研究所にある春彩石も全て破壊した。最初に破裂した時、直前に精霊が一斉に散っていったという報告が気になるが……』


 ヴァフ隊長の言葉に、フェル団長は小さく唸った。


「研究所は死傷者が多数出ている。調査も思うようにはいかないだろう」

『ああ。研究員は全員避難させたので、どうしても人手が足りない。だが、レータ所長と、魔導士隊から派遣した何名かが調査にあたっている』


 フィーナはどうしているのだろうか。レツはそれが気になって仕方がなかった。

 彼女は研究員になりたいと言っていた。建国祭の後は全く接触していないので試験の合否は聞いていなかったが、彼女なら恐らく目標を達成しているだろう。

 許されるなら、今すぐセタンへ行って無事を確かめたかった。


(今更僕が行ったって、どうにもならない。それよりは、これ以上国境を越えてガダが侵入してこないようにする方がずっと重要だ)


 分かっているはずなのに、気持ちは中々割り切れなかった。


『ガダに関しては、当面問題はないだろう。薬が完全に抜けるまでに数日かかるが、ステュルに渡しているのと同様の魔法道具を使えば再発も防げる』

「闇の魔法はあと四日らしいが、その後はどうする?」

『人手がいるが、魔導士十数名ほどで結界を張れば侵入を防ぐことはできるはずだ。問題はガーデザルグ王国だろう』

「ガーデザルグ王国?」


 レツとルイは、思わず声を揃えて尋ねてしまった。


『ガダはガーデザルグ王国の精獣だ。この国に多数入りこんだことによって、向こうは土地が崩れ始めているだろう。我々がガダを拘束したのは向こうも把握しているはず。ガダの拘束を理由に、恐らくエドヴァルド王子が乗り込んでくる。彼は二国の会談で、何度も自身の入国を求めていたからな。……彼はガーデザルグの初代国王、エンゼント王に瓜二つの容姿だと言われている。彼がこの国に入るのは危険だ』


 ヴァフ隊長の言わんとしていることを察して、レツは体を強張らせた。

 七日夜の時、エリク王に酷似した人間がきっかけで日没の矢が暴走した。エリク王の兄であるエンゼント王に似た人物が現れれば、あの時と同じことが起こる可能性が高いのだ。


「それが目的で、ガーデザルグ王国が今回のことを計画したと思うか?」


 フェル団長の問いに、ヴァフ隊長はしばらく考え込んでいるようだった。だが、少しの間を置いて『いや』と否定した。


『彼らは魔導士を見下していても、神獣や精獣に対する信仰は持ち合わせている。このようなことをしでかせば、神獣の怒りを買うのは分かっているはずだ。だが彼らが首謀者であろうがなかろうが、この機を逃すとは思えない』

「国境付近でガーデザルグ王国と衝突することになるな。中隊長、この後魔導士隊の小隊長達を集合させてくれ。翼導士隊はこちらで集めよう。君達二人は下がって待機していてくれ。第六班からは一時的に除名して、私の下についてもらう」

「分かりました」


 ルイはすぐに返事をしたが、レツは口を開くのを躊躇った。自分のかけている魔法が新たな侵入者を捕らえたからだ。そちらに気を取られてしまい、今いるこの場から意識が逸れてしまった。

 闇に絡めとられて、侵入者は町の外れでぐるぐると回っている。


「どうした?」


 暗闇の中で、ルイと目が合った。


「侵入者が……ガダと、その背に女性が乗っています。春彩石の手引きをしたシュラルのようです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ