報告
ふたりの目線を交互に書いています!
いつもは、さなと叶翔と一緒に来ている。
だが、今日は、俺は、みやと一緒に遼の墓参りに来た。
みやの言っていた今度の日曜日は、ちょうど遼の月命日だった。あの時も遼の墓参りに行くことは、頭にはあったけど。
『今度の月命日は、私と叶翔だけで行くから』
と、さなに言われていた。なぜだろうと、思っていたが、さなも俺達がこうなるのを分かっていたのかもしれない。それで、気をきかせた。
さなと時間をずらすため、俺とみやは、お昼ご飯を食べてから墓参りに行くことにした。
「いつもなら、喫茶店でお昼はすましてたけど。たまには、ファミレスも、いいな」
「そうだね。うちも、ファミレスは、たまには良いね」
「美味しかったな」
「そうだね。また行こう!」
「あぁ、そうだな」
「うん!」
「店を出るか」
「うん」
「俺が、払うから。みや、その財布をしまえ」
「そんなの、悪いよ」
「おごらせてくれ!格好つかせてくれよ…」
「はい、はい分かりましたよ!」
店を出て車を走らせた。遼の墓まで、ここから数十分かかる。俺達は、いつものように近状を話した。
そして、遼の眠る墓があるお寺に着いた。俺は、車のロック解除せずにみやに話しかけた。
「みや」
「どうしたの?」
「俺も、遼から…」
「うん」
「手紙をもらったんだ」
「うん」
「読んで、見てくれないか?」
「えっ?いいの?」
「あぁ。みやは、手紙を見せてくれた。俺だけ、見せないのは、不公平だと思うから」
「分かった」
俺の鞄に入れてある、遼からの手紙を取り出してみやに渡した。みやは、そっと封筒を受け取り、折り畳まれている手紙を丁寧に広げた。
うちは、楠木君が書いた手紙を読んでいいると、だんだん涙が溢れてきた。隼がそっとハンカチを渡してくれた。
改めて、楠木君には、うちが隼に対する想いは、全てお見通しだと痛感した。
楠木君からの手紙は、心友に対する熱い想いを感じる。この楠木君の手紙によって、うちは、隼のところに導かれたのかもしれない。隼を支えるために。
死んだ人よりも、これからも生きていくことになる遺されたものが辛いのだ。
それを分かっている楠木君は、物語や手紙を遺した。その辛さや悲しみを和らげるために、残された命をかけて書いたのだ。心からの願いだと思う。
いつも、自分のために行動してくれる心友は、いざ、遺されたら前に進めないかもしれない。今を見れないかもしない。
そして、少し突き放すような書き方をしている箇所がいくつもある。その言葉の裏には、心友の背中をそっと押すという意味が隠されているのだろう。
この手紙をきっかけに前に今を生きて欲しい。
けっして、自分のためでなく隼自身のために生きて欲しい。そういう、心からの願いを託しているのだと感じた。
しばらくの間、車内でうちの泣き声が響きわたった。
みやの泣き声も聞こえなくなって、シーンと車内は、静まり返った。
その沈黙を、俺が破った。
「みや、ごめん」
「何が?」
「手紙を見せて。こんなに泣くと思わなくて」
「謝らなくていいの。隼、さっき言ってたじゃない。不公平だからって。それは、つまり隠し事をしたくないってことでしょ?」
「あぁ」
「お互いに、隠し事なしの状態で一緒に楠木君に会おう?」
「あぁ」
そして、車を降りた。
遼の墓は、すでに掃除をされていて綺麗だった。さなと叶翔がしたのだろう。
「遼。来たぞ!」
「楠木君。来たよ!」
「遼、手紙読んだぞ。遼は、俺のことを過保護だと言うが、遼も俺達に対して過保護だと思うぞ。遼のいう通り俺は、お前が死んでから立ち直れなかった。さな達に、迷惑をかけたくないと、思った。その行動が、さなを傷付けているとも知らずに。さなに、言われて、気づいた。俺が、していることは、間違っている。お前の手紙に励まされたよ。お前の思いを知ることができて良かった。そして、遼には、俺達のことが何でもお見通しだったんだな。今思えば、遼の思惑に、はまってしまっていたのだな…。そのおかげで、みやと再会することが出来た」
みやは、俺達と再会したときのように、遼のお墓に語りかけた。
「楠木君、久しぶり。覚えてる?三年前にも会った、灰崎みやこだよ。うちね。楠木君に、会いたかったんだ。会ってね、ゆっくり話したかったんだ。三年前は、ゆっくり話せなかったから。あのときに、無理でも喫茶店に行けば良かったね。今、言っても遅いよね。楠木君が、いないから、隼やさなえちゃんに話を聞くね。今のうちがいるのは、楠木君のおかげで、スクールカウンセラーになれたの。ありがとう。それに、再会したときに話したり、手紙を読んだりして思ったんだけど。楠木君、うち達のことお見通しだったから、びっくりしたよ。でも、これも楠木君のおかげだよ。ありがとう。これからも、隼のことを支えていくね。約束だよ。楠木君に、うち達を見守って欲しいな」
「遼。だから、俺達は報告をしに来た。俺は、みやと付き合っている。遼が俺達を再会させてくれたんだな。ありがとう。少しずつでも、みやとなら一緒に時を進めようと思う。こんな俺達だけど、応援してくれるか?」
俺達の言葉に応えるかのように、風が優しく吹いて、お墓に供えた花がゆれた。
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