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幸せを願って  作者: 宮原叶映
7/24

原点

 灰崎とは、あの日を境に何度か会うようになった。

 

 そして、連絡先を交換して、いつ喫茶店に行くかと予定を合わせている。何せ、お互い仕事をしている。そして、忙しい。

 

 灰崎は、スクールカウンセラーをしている。俺達は、会う度に学生時代の話に思いをよせ、あるときは仕事の話をする。そんな仲でいた。

 そして、一ヶ月たった。今日もそうだった。


「灰崎は、どうしてスクールカウンセラーになったんだ?」


「えっ?急にどうして?」


「気になったんだ」


「そうなんだ」


「あぁ」


「うちね。スクールカウンセラーになったきっかけは、楠木君なんだ」


「はい?」


 灰崎は、どう言おうか、少しの間考えて、話始めた。


うちね。心理学もだけど、元々勉強も好きなんだ。テストは、時々だけど一位になったことがある。

 

 成瀬君は、一位だった。成瀬君が一位なのは納得した。頭が良いのは知ってたから。

 じゃあ、二位は、誰だろうって、思ってたら、二位は、楠木君だった。すごいって、思った。

 でも、体が弱くて、よく入退院を繰り返すのに、授業ついていくことは出来ないのにって思ってた。だけど違った。そのぶん努力してた。

 なぜ、知ったかというと。うちね。委員会がある日に限って、体調をくずしたことがあった。

 放課後も保健室で寝てて、親の迎えを待ってた。そうしたら、カーテンの向こうで声が聞こえた



「楠木君。そのノートは、何度見ても、すごいと思う。この間のテストで二位とるのも分かるわ」


「先生、やっぱりそうですか…。俺が、授業を受けれない時があるからって、このノートを隼咲が書いてくたんですけど、もう参考書ですよ」


「そうね」


『これを見てやれ。テストで、高得点狙えるぞ』


「って、言って渡してくれるんです。テストで、二位取れたのは、隼咲のおかげです」


「なるほど。それでも、すごい。確かに、成瀬君のお陰かもしれないけど。それを見て、成瀬君が頑張ったからだよ。二位、おめでとう」


「ありがとうございます。先生、すみません。教室に別のノートを忘れたので行ってきます」


「どうぞ。行ってらっしゃい」


成瀬君が、ガラガラっと保健室から出ていった。それから、先生に呼ばれた。


「灰崎さん、起きてる?」


「はい。起きてます」


「具合いは、どう?」


「さっきよりは、マシになりました」


「良かった。じゃあ、熱を計ろうか」


「はい」


 そう言って、先生はカーテンをシャーと開けた。



「灰崎さん。さっき話してたノートが気になってるでしょ?」


「はい」


「こっちに、おいで。楠木君が、忘れ物を取りに行ってる間に見においで」


「いいんですか?」


「先生と灰崎さんの秘密にしたら大丈夫」


「分かりました」


「先生、これ参考書ですか?」


「そう見えるでしょ。成瀬君お手製の楠木君用の授業ノート。楠木君は、これを見て勉強してるの」


「すごいです」


 そう言ったところで、プルプルっと、電話が鳴った。


「はい。保健室です。分かりました。すぐに、そちらに行きます」


 そう言って、先生は、受話器を置いた。


「灰崎さん、お迎えが来たみたい。行きましょ」


「はい」


 先生と一緒に保健室を出た。事務室前まで先生と歩いていた。

 そこまで、話をしたところで、灰崎は、辛そうな顔した。

 廊下の向こうから走ってくる楠木君がいた。そして、すれ違った。

 

 その時の楠木君を、一瞬しか見てないけど。目に涙を浮かべていた。

 うちは、何かあったんだって、思った。苦しそうな顔をしていたから。

 最近は、学校に来れていたのに、明日から来ないかもしれないって、思った。

 でも、楠木君は一度も休まずに学校に来ていた。楠木君の表情は、どこか辛そうに見えた。

 

 成瀬君と再会したときに、話をしたことなんだけど。ノート作りは、成瀬君の手伝いをしたいってのも本当なの。


 もうひとつの理由がある。それは、他のみんなに、分からないように、悩みを聞いてあげたかった。


 楠木君との交流をもちたかった。楠木君なら、成瀬君に、知られたくないと思った。成瀬君にバレないように、考えながら相談に乗りたかった。

 そのノートに、メッセージを書きたかった。ひとりじゃないよって、伝えたかった。

 うちは、楠木君の意思を尊重したかった。


 そんなある日。


廊下で、楠木君は、すれ違いざまに、うち以外の人に聞こえないように「大丈夫」と言った。

 うちは、楠木君に「大丈夫」と言われても、ノート作りを手伝ってメッセージを送り続けた。

 

 それから、楠木君は志望していた高校を受験するのをやめて、自営業してる喫茶店で働くと進路を変更した。


 それを知って、助けれなかったと思った。楠木君は、成瀬君に心配をか来ないように無理をしている。

 自分自身を責めてしまったって、本当は高校に行きたいのにやめたんだ。色々なことを考えてた。

 

 灰崎は、懐かしむ表情をした。

 それは、卒業式の前日だった。家に帰ろうと思って下駄箱から靴を取ろうとしたら、一枚の紙が入っているのに、気が付いた。それは、楠木君からの手紙だった。


『灰崎さんへ

 灰崎さんからのメッセージに、救われることがあったよ。灰崎さんが、俺のことを思って隼咲に言わなかったんだよね。ありがとう。

 たとえ、それが隼咲のためであっても良かった。誰にも、言えなかったことを灰崎さんは、知ってくれてたから。ひとりじゃないって、思えた。

 俺は、高校に進学しないことには、後悔は、ないと言えば、嘘になるけど。隼咲から離れて、頑張って生きたいって思ったんだ。

 確かに、今の状態は、恐い。高校では、違うかもしれない。やっぱり、同級生がたくさんいるところは、恐い。それに、俺は、体が弱いから、弱いを理由にしてはいけないけど。迷惑をかけたくないんだ。そんな、俺にたくさんのメッセージを贈ってくれて、ありがとう。

 灰崎さん、誰かのためでも良い。人のために、行動することは、良いことだよ。それは、救いになるから。

 これからも、誰かのためでも良い、俺を助けたように誰かを助けて欲しい。

 俺も、誰かを助ける人になりたいと思ったんだ。

                 

                     楠木』


 今のうちがあるのは、楠木君のお陰なんだ。この手紙が原点なんだ。自分のしてきたことは、良かったんだ。こんなうちでも、人を救えたんだ。これからも、人のために何かをしたいって思ったんだ。

 

 そう言って、灰崎の話は、終えた。


 灰崎の話を聞いて感じた。遼もそうだか、灰崎も俺のことを思ってくれてたんだ。

 遼の手紙に書いている、俺のためって、どういうことだろう?心友の俺に迷惑をかからないようにしてくれたのか。

 そして、俺は、色々な感情が、浮かんだ。

 遼が、高校に行かなかったのは、自分だけじゃないという安心感。だけど、自分も悪いと思う怒り。葛藤。


 何かその言葉にもっと深い意味がある気がする。

なぜ、遼が涙の原因は、前のシリーズ『あなたに』の『人に頼れ』に書いてます!


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