手紙
さなが、立ちあがり、棚に何かを取り出して、それを机においた。
「隼兄、遼さんの遺品を整理してたらね。これを見つけたの」
そう言って、さなが、俺にこれを渡した。
「『過保護の心友へ』?」
「うん。遼さんが、隼兄に宛てた手紙だよ」
「えっ?」
「読んで見て」
「さなは、中身を見たのか?」
「見てないよ。遼さんは、私に物語を遺してくれた。立ち直れるようにって。遼さんは、分かってたんじゃないかな。遼さんが、亡くなったら、隼兄が立ち直れてないことを。笑顔が、作られてるのを。遼さんは、隼兄が、過保護って知ってるから。私を心配して、無理して平気なフリをしているんじゃないかって…」
「そんなこと、してないぞ!」
「してるよ!私だって、分かるよ!だから、私と同じように遺してくれたんだよ。立ち直れるようにって。いいから、この手紙を読んで!」
さなは、俺に手紙を無理やり押し付けるようにして、
「買い物してくる…」
と、言って部屋を出ていった。その瞳には、涙を浮かべていた。
そのときの俺は、どんな顔をしていたのだろうか。
俺は、封筒から手紙を取り出した。
『過保護の心友へ
隼咲が、これを読んでいる時、俺が死んでいるってことだね。隼咲は、過保護で、いつも俺のことを気遣ってくれる心友だ。
でも、俺は、隼咲のことを、縛り付けて知るかもしれない。いや、俺は、隼咲の足枷だと思うんだ。隼咲は、必ず俺のことを優先するんだ。そう感じる度に、俺は、隼咲自身を労って、欲しいって、思うよ。
隼咲は、モテるのに、損をしてるよ。隼咲のことを、好きな人は、絶対にいるよ。隼咲のことを理解してくれる人は必ずいるから。隼咲には、見えてなくても、見てくれている人はいるから。それに、結婚して、家族をもつのは、いいよ。とても、暖かいんだ。
俺が、死んだら、俺のことを忘れて、前に進んでいいんだよ。本当は、忘れて欲しくないけど。隼咲には、それぐらいがちょうどいいかもしれない。
だから、心配なんだ。
今の隼咲は、立ち直れてないと、思うんだ。
偽りの笑顔で、さなえちゃんに気遣って、無理をしてるんじゃないかな?
こんなこと、いきなり、言われて困るかもしれないけど。
隼咲は、隼咲自身の人生を歩んでいいんだよ。
隼咲の人生は、隼咲はだけのものだからね。
だから、言うよ。
俺は、もう過去の人間だ。
だから、過去に縛られずに今を生きろ!
過去に、いてはいけないんだ!
過去じゃなく今、ないんだ!
人生は、今しかないんだ!
人生は、一度きりなんだよ!
だから、聞くよ。
今の隼咲は、幸せなのか?
お願いだ。
隼咲、今を自分のために生きてくれないか。
遼』
その手紙は、何度も書き直された跡とがあった。
そして、インクが何ヵ所も、にじんでいた。