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幸せを願って  作者: 宮原叶映
22/24

祝い

今回は、いつもよりも長いです。

 みやに、プロポーズをしてからマジックアワーが終わり、空には、満点の空が輝いてた頃だった。

 

ヴィーヴィーヴィー

 

 みやのスマホが鳴った。

 

「ごめんね。隼」

 

「大丈夫だ。誰からだ?」

 

「お姉さんからだ。なんだろう?」

 

 みやは、スマホのディスプレイに表示された名前を見て、首をかしげた。

 

「お姉さん?」

 

「うちのお兄ちゃんの奥さんだよ」

 

「そうなんだ。緊急かもしれないから早く出ろよ」

 

「うん。そうだね」

 

「あぁ」

 

ピッ

 

「もしもし、お姉さん。どうしたの?」

 

「ごめんね。みやこちゃん。今、彼氏さんといるでしょ?」

 

「はい、そうですが。大丈夫ですよ。今、前に話したとこでいます」

 

「よかった。あのね、今すぐ喫茶店に来てもらえない?」

 

「喫茶店って?()()()ですよね」

 

「そうだよ。お願いね。じゃあ、あとでね!」

 

「えっ?お姉さん?」

 

プップープー…。

 

「みや?大丈夫か?」

 

「ごめん。隼」

 

「うん?」

 

「お姉さんから、今すぐ喫茶店に来てって」

 

「喫茶店って、あそこのことか?」

 

「そうみたい。安全運転で行くからね」

 

「あぁ」

 

 みやは、安全運転で行きと同じように運転する。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫だよ」

 

 さっき、お姉さんからかかったなぞの電話で不安になっているのかと思ったけど。いつもと様子は、変わらなかった。

 そして、昔ながらの喫茶店に着いた。みやは、車を駐車場に止めるとすぐに、俺のいる助手席側に来てドアを開けてくれた。

 

「はい!お手をどうぞ」

 

 そう言って、みやは、手を差し出してくれたが。

 

「なんだよ。そのセリフ…それは、男の子セリフだろ?」

 

 みやのセリフに、少しツボに入ってしまった。みやが、説明してくれた。

 

「前に、読んだ小説の王子様のセリフだよ。一度、言ってみたかったんだ」

 

 と、みやのセリフに、本当は少しカッコよく見えた。差し出された手を今度こそ手に取る。

 そして、車から降りた。駐車場から、少しだけ店が離れている。二人で手を繋ぎなら店の入り口のとこまで行く。

 

「あれ?お店電気ついてないね」

 

「そうだな。とりあえず、ドアの鍵がかかってないかみているか?」

 

「うん。うち、裏口の方見てくるから。隼は、ここから入れるか見てくれる?」

 

「あ、あぁ…?」

 

 みやの言葉に、少し疑問に思う。俺が、ドアを開けるようと取って口をさわる。鍵が、かかってる感じがしない。そっと、ドア開く。

 

 カランコロン

 

 ドアの方に取り付けられた人の出入りを教えてくれるベルが鳴り響いた。

 

「おい。誰か、いるのか?」

 

 そして、電気が着いた途端。

 

 パッン!パッン!

 

「隼、誕生日おめでとう!」

 

 さっき、裏口に行ったみやが俺の目の前にいた。

 そして、お父さんとお母さん、さな達と、電話で呼び出した張本人のお姉さん達親子と共にクラッカーを鳴らしていた。

 

 バタン。

 

「えっ。隼!」

 

 情けないことに、俺は腰を抜かしてしまった。

 

「ごめん。驚いて…」

 

「大丈夫だよ。お兄ちゃん、手かして」

 

「みやこちゃん、任せて!」

 

 俺は、二人係で起こしてもらい椅子に移動した。今年は、誕生日会ないと思った。俺が、ボイコットをしたから。

 でも、今年も誕生日会を開いてくれていた。みやのお姉さんから連絡しが来たのは、理由がある。

お姉さん達の娘の玲ちゃんと俺の甥の叶翔が、パーティーを楽しみにしていた。

 だか、俺のせいでパーティーが出来ない。二人は、駄々をこねまくった。みんなは、必死に相手をしたが、限界がくるのは、目に見えていた。

 なので、お姉さんから連絡が来たというわけだ。

 

「隼、落ち着いた?」

 

 と、コップにオレンジジュースが入っているのを入れてくれた。

 

「ありがとう」

 

 このオレンジジュースは、誕生日会の定番になっている。誰も、お酒は、飲まない。ケーキやアイスと唐揚げやオムライスなどがある。

 玲ちゃんと叶翔がすねたのは、それが楽しみだったからだろう。玲ちゃん達が、俺の誕生日に来たのにも、理由がある。

 さなが、みやのお兄ちゃんに、いつもお世話になってるのご迷惑をかけたから来てくださいと頼んだらしい。

 やっぱり、俺はたくさんの人に迷惑をかけた。謝罪は、しない。それは、祝ってくれる人達が望まないと思う。

 めいっぱい祝ってもらって、楽しむことが、今回の謝罪になると思うんだ。ケーキの上にろうそくは、立てているが。

 まだ、火を着けてない。腰を抜かした俺が、落ち着くのを待ってもらった。玲ちゃんと叶翔は、早く!!と俺をチラチラと見てくる。

 

「みや」

 

「どうしたの?」

 

「もう、大丈夫だ」

 

「分かった!」

 

 俺の言葉の意図をすぐに理解して、みやは、みんなに合図をする。店内が少し、暗くなる。

 俺の目の前に、皿の上に盛り付けられたケーキ。その上には、ろうそくの小さな光がユラユラとしている。そして、みんなでハッピーバースデートゥユーと、歌い出す。


「隼、誕生日おめでとう」

 

「みや、ありがとう!みんな、ありがとう!」

 

「いえいえ!」

 

 そのあとは、誕生日会がスタートした。とても、みんなが楽しそうだった。

 お父さんとみやのお兄ちゃんは、話があったのかすごく盛り上がっている。お母さんとお姉さんも、乙女トークをして、盛り上がっている。

 おじいちゃんは、叶翔と玲をニコニコしながら相手をしている。さなが、いないとキョロキョロと探す。

 フッと、カウンター席を見ると遼の写真が置かれていた。とても、楽しそうな表情をしていた。遼は、写真を撮られる方じゃなくて撮る方だった。

 遼のことだから、写真を見て遺された俺達が悲しまないようにと、思ったのかもしれない。大きなお世話だ。

 遼に会えないから、写真を見てここに遼がいると俺は、思いたいのにな。

 写真を眺めていると、探していたさなが写真が置いてあるカウンター席に座って、懐かしそうに写真を見ていた。

 その様子を見ていると、一瞬幻覚と幻聴が起こった。そこに、遼が立っていて、俺の方を見てこう言った気がした。 

 

『隼。俺ばかり見てなくて灰崎さんを見なよ。そして、誕生日おめでとう!』

 

「えっ?遼?ありがとう」

 

 写真の中の遼は、ニッコリと笑った気がした。

 

「隼?ありがとうって?」

 

 料理を取りに、席を外していたみやが戻ってきて俺に聞く。

 

「大丈夫だ」

 

「そう?なんだか、嬉しそうな顔をしているね」

 

「あぁ!」

 

「そうなんだね」

 

 みやはそう言って、俺がさっき見ていたカウンター席を見る。

 そこには、もう遼はいない。誰もいない。

 さなは、叶翔の方に行った。そこにあるのは、さなが遼の写真の前に置いたオレンジジュースの入ったコップとケーキ一切れと小さな皿に盛り付けたオムライス、それとアイスクリーム。

 誰かの誕生日会の時も定番のメニュー。いつもさなが作っている。さなは、遼と思い出のものを作っておくことで、遼がここにいると思いたいのかもしれない。

 

「食ったな」

 

「そうだね。たくさんあった料理が、あっという間に無くなったね」

 

「あぁ。楠木家と成瀬家が、腕によりもかけて作ったからな」

 

「うん!やっぱり、おじいちゃん達の料理は、美味しいね。隼のお母さんが、作った唐揚げも今まで食べたなかで美味しかったよ」

 

「あぁ!お母さんの作る料理は、一番だ。その中で、唐揚げが一番美味しいんだ」

 

「そうなんだね」

 

 他のみんなは、それぞれの家に帰った。俺達を祝って。

 

「みやちゃん。さっきから、気になってたんやけど。それは、なんや?」

 

「お、お兄ちゃん!目が怖いよ」

 

 パッと、みやは左の薬指にはめた指輪を隠す。そして、みやの顔は、赤くなった。

 

「何で、顔が赤いん?」

 

「パパ、落ち着いて!」

 

「ママ、だって俺の可愛がってる妹同然のみやちゃんやで!落ち着くなんてむりや!」

 

 パーティーも、終盤になったときに起こった。お兄ちゃんは、みや曰くお兄ちゃんは、空気は読めるて優しいが、過保護すぎるらしい。俺と同じ過保護だ。

 

「お兄さん…。仁さん、心配かけてすみません」

 

「なんや?」

 

「俺は、みやと…みやこさんと結婚します」

 

「お兄ちゃん!うちは、隼と結婚します」

 

「ダメだ」

 

「仁君、素直をなりなさい」

 

「隼君のお父さん…」

 

 お父さんは、真剣な目で仁さんを見る。


「すみません。反対する気は、ないんです」

 

「「「えっ?」」」

 

 一同が驚く。

 

「一度、言ってみたかったんです。おじさん…みやちゃんのお父さんの代わりに。みやちゃんのお父さんは、みやちゃんのことが大好きやったから」

 

「そうなんだね」

 

 お父さんは、優しい顔をした。

 

「もう、お兄ちゃんたら!」

 

「ごめんよ。みやちゃん、隼君」

 

「大丈夫です」

 

「うん!うちも大丈夫!」

 

「イテッ」

 

 お姉さんからげんこつを仁さんはくらっていた。お姉さんも、我慢の限界が来たのかもしれない。

 

「お父さん、俺…」

 

「隼」

 

「俺、みやと結婚する」

 

「さっきの見たから、大丈夫だよ」

 

 お父さんは、優しい顔をしてみやの方を見る。

 

「みやこさん。また、隼咲が迷惑をかけるかもしれない。体のことで、苦労するかもしれない。それでも、構わないですか?」

 

「大丈夫ですよ。隼となら、どんな困難にも乗り越えますから。それに、小学校からずっと好きだったのでこれくらい大丈夫です」

 

「隼。みやこちゃんに愛されてるわね。お母さんは、みやちゃんがお嫁に来てくるのすごく嬉しいわ!娘が、二人になったですもの!さなえも、嬉しいでしょ?お姉ちゃんが、出来て」

 

「うん!嬉しいよ!みやこさん。約束してたことをやってもいいですか?」

 

「うん!いいよ!」

 

「みや姉、過保護すぎる兄ですが、よろしくお願いします!」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

パチパチパチパチ

 

 

 と、しばらく拍手が、鳴りやまなかった。おめでとう、という声とともに。俺は、というと。みやの言葉にときめきそして、照れていた。

 俺達も帰ろうとしたときに、さなが俺に自分の想いを話してくれた。

 

「隼兄。私達のことは、心配しなくて良いからね。私達親子は、遼さんがいなくなっても幸せだからね。隼兄は、みや姉と隼兄自信を心配して、愛して幸せになってくれることが私の願いなんだよ」

 

「分かった!ありがとう、さなえ」

 

 そう言って、右手でさなの頭をおもいっきりよしよしした。俺の方が、さなより背は高い。だか、前より上がらない腕。さなは、俺がしやすいように頭を下げてくれている。

 

「もう、隼兄やめてよ!髪が、ぐしゃぐしゃになるよ!」

 

「子供の頃は、喜んでたくせに」

 

「もう、忘れた!」

 

 さなは、少し幼い表情をした。

 

「隼兄。そろそろ、早く帰って寝ないと!明日病院でしょ?」

 

「あぁ。だけど、お父さん達に置いてかれた…。荷物を置いて…」

 

「忘れてた。お母さんから、伝言預かってるよ」

 

 さなは、そう言ってなぜかみやの方を一瞬見る。

 

「えっ?」

 

『みやちゃんの家に泊まってね』

 

「えっ?!」

 

『その方が、病院から近いのと明日は、お父さんとお母さんも忙しいから。みやこちゃんに頼んだら大丈夫みたいのよ!客室が、あるらしいからそこに泊まるのよ』

 

 さなは、たんたんと少しお母さんのマネをしながら伝言を伝えてくれた。俺は、少し笑った。

 

「みや…」

 

「うちの家は、今一人で住んでるから部屋が余ってるから大丈夫だよ」

 

「そうか…。じゃあ、お世話になります」

 

「うん!」

 

 みやは、少しだけ天然なのかもしれない。

 

「みや姉。兄をよろしくお願いします。そして、すみません。お母さんが、少し強引で…」

 

「さなえちゃん、大丈夫だよ。もし、隼が行きたくないって言ったら。無理矢理でも、連れていくからね。それに、もう車は大丈夫みたいだよ」

 

「そうですか。良かったです」

 

「隼兄!みや姉に、迷惑をかけすぎないんだよ」

 

 さなは、今まで以上にみやに懐いているようだ。

 

「さなもさなで、俺に対して過保護だな」

 

「もう!」

 

 俺達は、子供のときしたみたいに、ケンカのようでケンカじゃないことをした。

 

「さなえちゃん。そろそろ帰るね。おやすみなさい!」

 

 みやは、終わりがみえないと思ったのだろうか、俺の手を引っ張って帰ると(うなが)す。

 

「みや姉、おやすみなさい!気を付けてくださいね!」

 

「ありがとう!」

 

「さな!今日は、ありがとうな!おやすみ」

 

「うん!隼兄、おやすみ!」

 

 そして、みやの家に着いた。みやは、家の中を案内してくれた。

 

「一階が、隼が泊まる客室があるよ。先に、荷物置いて行く?」

 

「あぁ」

 

 客室の後、トイレ、風呂などの場所を教えてもらった。最後に案内してもらったのは、みやのご両親のお仏壇がある座敷だ。それは、みやのご両親に挨拶をするため。

 

チーン…。

 

「みやの…みやこさんのお父さんとお母さん。お…僕、成瀬隼咲は、みやこさんと結婚します。みやこさんに、今までも迷惑をかけてしまいました。これからも、体のことで迷惑をかけるかもしれません。それでも、僕はみやこさんのことを愛してます。だから、僕は、みやこさんを幸せにします。みやこと結婚させてください」


 俺は、仏壇の前で、みやのご両親に挨拶をした。

 

「お父さん、お母さん。うちね。隼と結婚して幸せになるからね」

 

 どこからか分からないが、穏やかな風が吹き供えていたお花が答えるかのように、揺れた。

 

「みや、これって良いってことだよな?」

 

 俺は、下を向いてみやに問いかけた。

 

「そうだと思うよ」

 

 俺は、そう言われてとても嬉しくなった。

 

「隼?」

 

 ポタポタと、涙が俺のズボンや畳を濡らす。みやは、黙って鞄からハンカチを取り出して渡してくれた。俺が、泣き止むまで、みやは、背中を優しくさすってくれていた。

 

「じゃあ、お先にお風呂入るね。」

 

「あぁ、しっかり温もれよ」

 

 俺が、泣き止んだあと。それぞれ順番に風呂に入った。お互いが譲り合ったので、入る順番は、じゃんけんで決めた。

 みやが、先に入り俺は、そのあとに入る。みやがお風呂に入ってる間に俺は、最初に案内された客室に行った。着替えを持ってリビングに戻った。

 そして、ソファに座り、呆然と考えた。みやのご両親が亡くなって、広なくなったリビング。

 かつて、ダイニングテーブルとセットになっている椅子では、みや達親子が食卓を囲んでいた。ソファとこたつにもなる机の前には、台の上に置かれたテレビがある。


 きっと、家族で団らんをしながら、時には、リモコンの取り合いをしながらテレビを見ていたのだろう。そのすべては、現在みやだけが使っている。

 みやは、ずっと独りでこの広い家に住んでいて、いつもどんな気持ちでいたんだろう。早く、俺がみやに気づいたら、みやの心を救うことが出来たのかもしれない。

 大切な人を亡くした悲しみを。俺は、その悲しみを知っている。心友の遼を亡くしたから。遼が言ったように、結婚するからには、遼よりもみやをみないと行けない。過去よりも今を。

 

「隼?おーい、隼」

 

 肩をとんとんされる。

 

「あっ、みや。どうした?」

 

「どうしたじゃないよ。さっきから、読んでいるのに。隼、お風呂に入って。もう、こんな時間だから」

 

 お風呂上がりのみやは、タオルを肩にかけている。


「ごめん。考え事をしてて」

 

「考え事?」

 

 そう言って、首を傾げるみや。

 

「あぁ、みやをみるってことだ」

 

「うちを見る?」

 

「そうだ」

 

 誕生日会の時に、起こったことをみやに話した。

 

「そうなんだね。きっと、楠木君は、隼のことが心配なのと誕生日を祝いに来たのかもしれないね」

 

「そうだといいな」

 

「はい!もう、話は終わり」


 パッンと、みやは、手を叩く。


「隼、お風呂に入って!隼のタオルは、準備してるからね」

 

「ありがとう。じゃあ入るな」

 

「うん!」

 

 みやは、俺が風呂から出るのを待ってくれていた。二人で、俺が泊まる客室に行った。


「ごめんね。うちとしたことが、お布団の準備してなくて…」

 

「大丈夫だ。二人でやろう」

 

「うん!」

 

 二人で、布団を仕舞っている押し入れから出して、畳の上に広げる。


「よし、出来たな」

 

「うん、そうだね」

 

「みや」

 

「隼、どうしたの?」

 

「言いたいことが、あるんだ」

 

「うん」

 

 みやは、まっすぐ俺を見る。

 

「俺は、みやと結婚して。この家に、住みたいんだ」

 

「えっ?!」

 

「もう、みやを一人にしたくない。結婚して、子供が生まれて、育てて、またこの家に家族の歴史を刻みたいんだ。ダメか?」

 

 みやは、下を向いていてその表情がわからない。

 

「みや?」

 

「隼、ありがとう。うちね、すごく嬉しいよ!」

 

 みやは、下を向いたまま、俺と同じように涙を流した。今度は俺が、さっきみやがしてくれたように、彼女の背中をさする。みやは、肩にかけていたタオルで涙を拭う。

 しばらくすると、みやからは、涙をすする声はしなくなった。

 

「みや?」

 

 耳を澄ますと寝息が聞こえた。色々あって、疲れたのだろ。

 

「みや、こんなところで寝たら風邪をひくぞ」

 

 起きる気配のないみやは、俺の左側でもたれて寝ている。運ぶにしても今の俺には、無理だ。

 仕方ないと、みやを起こさないように布団に寝かす。俺は、リビングにあるソファで寝ようと思った。

 押し入れにあったタオルケットを持って、豆電球にしてから部屋を出ようとした。

 

「…隼…」

 

「えっ?」


「…いかないで…」


 みやは、寝言で俺を呼び止めていた。たぶん、俺が事故にあったときの夢を見ているのだろう。その目元には、少し涙を浮かべていた。

 俺は、みやの側に座り、彼女がしてくれたように優しく手を包むようにして握る。

 

「みや、大丈夫だ」


 そう言って、みやの涙を指で優しく拭う。みやを一人にすることが出来ない。起こさないように、そっと手を離した。

 俺は、出来る限りの素早く押し入れにあったもうひとつの布団を出して、寝れるように準備をした。

 布団を出すのは、二回目の方がやり易かった。寝過ごさないように、アラームをしてから横になった。みやがしてくれたように優しく手を包むにして握る。

 

「みや、大丈夫だ」

 

 もう一度そう言って、みやがしてくれたように手を握った。みやは、静かに寝息をたてていた。

 もう、その目元には、涙を浮かべることはなかった。俺も、疲れたのかすごい睡魔におそわれ眠った。

 

ピピピピピピピピピ


「…もう、朝か?」

 

 隣の布団を見たが、もぬけの殻だった。先に起きたのだろうか。着替えてから、客室の戸を開ける。

 

 朝御飯のいい臭いがする。その臭いつられ、リビングに向かう。リビングの戸を開け、キッチンにいるみやに話しかけた。

 

「みや、おはよう!」

 

「し隼、おはよう…!」

 

 みやは、後ろを向いて俺の方を見ない。


「みや、何で顔を隠すんだ?」

 

「だって…」

 

「昨晩のことだけど。みやは、俺が使うはずの布団で寝たから代わりの布団を出して一緒に寝ただけた。結婚して、この家を住んだら一緒に寝ような」


「もう!」

 

 顔を見せてくれたみやは、恥ずかしそうに頬を真っ赤にしていた。なんとか、平常心になった彼女と朝御飯を食べ、身支度を整えてから病院にみやの車で向かう。

 車内では、昨日の出来事について、話が盛り上がったが。目的地に着いてしまった。俺の家よりもみやの家の方が近いから余計に楽しい時間もあっという間なんだと思った。

 

「病院に着いたね」

 

「あぁ」

 

「うん…」

 

 みやは、病院に着いて、駐車場に車を止めた。あのときのように、助手席に回りドアを開けて手を差し出してくれた。

 もちろん、あのセリフは、言わずに。

 

「はい、どうぞ!」

 

「ありがとう」

 

「荷物、持つね。今の隼には、無理でしょ?」

 

「俺は、そんなにやわじゃない!」

 

 そして、俺達は笑う。

 

「隼咲。ちゃんと来て、偉いね!」

 

「先生、やめろ!」

 

 来てそうそう、先生に頭を撫でられる。俺が、さなを撫でたように、先生に頭を撫でられる。さなが、いやがるのも無理もないと思った。

 

「奥さんも、隼咲を連れてきてくれてありがとうございます」

 

「…は、はい」

 

 みやは、恥ずかしさと照れで顔を手で覆い隠す。


「えっ?」

 

 先生は、まずいこと言っちゃった?と俺を見る。

 

「先生、まだ結婚はしてません」

 

「もしかして…」

 

「プロポーズはしました」

 

「隼!」

 

 みやは、顔を真っ赤にしているのが指と指の間から見えた。

 でも、彼女はツッコミみたいな感じに俺の名を呼ぶ。


「それは、おめでとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

 診査室は温かく賑やかになった。

 しばらくしてから、検査の結果が知らされた。俺のどこにも、異状はなかった。それを含めて俺は、また祝われた。


 数ヶ月後に、俺達はたくさんの人に祝われたのは、また別の話。

読んでいただき、ありがとうございます。

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