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幸せを願って  作者: 宮原叶映
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隣で

 ここまでの話を軽く説明すると。

みやに、どこまで吉滝先生が話したかは、分からないけど。

 きっと、俺の記憶が戻ったこと。検査入院について、みやを含めた家族に話したのだろう。

 それを聞いたみやは、嬉しくて俺に飛び付いた。みやは、俺を押し倒したということだ。

 でも、事故の後遺症が少し痛かったので、みやに、起き上がってもらった。そして、現在に至る。。俺の上から離れたみや。今度は、優しく俺の手を包む。右の手を。

 

「また、灰崎って、言われたらって…」

 

 みやは、前のことを思い出したようで、辛そうな顔をした。


「うん」

 

「でもね、先生が大丈夫って、言ってくれて」

 

 みやは、辛そうな顔からだんだん笑顔になって言った。


「あぁ」

 

「安心した」

 

 みやは、俺の目を見て笑顔で少し涙を流しながら言った。


「あぁ」

 

「確認だけど、うちのこと分かる?」

 

 みやは、安心したと言っても不安が残っていたみたいだ。


「もちろんだ!灰崎みやこ。みやと小学校から高校まで一緒で、俺達を支えてくれた人だ。そして、俺の最初で最後の恋人だ!」

 

「良かった…!信じていいよね?」

 

 みやは、嬉しいけど、少し不安が残ってるという顔をした。

 

「あぁ!信じていいぞ!これからも、ずっと」

 

「うん!」

 

 今度のみやの表情は、すごくキラキラと眩しいぐらいの笑顔になった。


「よし。行くぞ!」

 

 俺は、みやが笑顔になったことをいいことに、勝手に話を進めた。


「えっ?どこに?」

 

 当然、みやは、不思議に思う。


「言わなくても、分かるだろ?」


「うん!」

 

 もう、俺達にとったら暗黙の了解にちかいものだった。そうと決まれば、みやに、手を貸してもらいながら起きあがった。

 

「お父さん達にのせてもらうか、タクシーを捕まえるかだな」

 

 行くっと、いっても俺達には、行くための交通手段がない。そう思って、みやに聞くと驚くことを言ってきた。

 

「大丈夫!二人で行けるよ」

 

「うん?」

 

 どういうことだ?と、俺は、疑問に思う。俺には、歩く体力がもうない。


「うちの車があるから。大丈夫。実は、お兄ちゃんが、乗ってきてくれたの。救急車が来たときに、うちを隼の付き添いにして、車の鍵を貸せって。後ろから、付いていくからってね」

 

「そ、そうなのか?」

 

「うん。行こう!」

 

 駐車場に行き、車を見つける。そして、二人で乗り込み、車を発進させる。いつも以上に安全運転をする。

 事故の後、俺は、車に乗るのを嫌がっていた。先生によると無意識に、思い出すのをぐように脳から指令があった可能性があるらしい。

 でも、今回は違った。自ら車に乗ったのだ。

 

「隼、大丈夫?調子悪くなったら、すぐに言ってね」

 

 みやは、そのことを知ってるから、不安そうな顔をして聞く。


「あぁ。今のところは、大丈夫だ。何かあったらすぐに言うからな」

 

 少しの沈黙。

 

「それにしても、驚いた。みやが車を持っていたなんて。なぜ、黙ってたんだ?別に。怒ってる訳じゃないからな」

 

「うん。分かってるよ。なぜ、黙ってたて言うとね」


 と、みやは、辛そうな顔をして話し出す。


「言ってしまったら、隼と長くいれないって思ったの。本当は、喫茶店に行った帰りやお墓参りの後でも長く隼の隣でいれられない。お互い車だったら、用がすんだらすぐに別れるじゃない。車を持ってないってことにしたら隼は、車に乗せてもらえるって。そうしたら長く隣でいれられるって考えたの。ずるいでしょ?」

 

「ずるくないぞ!お互い好き同士なら、そう思って当たり前だ。気をつかわなくていいんだぞ。俺の隣でいたいならそう言ってくれ。言ってくれた方が俺は、嬉しい」


「そう言ってくれて、ありがとう」

 

「俺は、もう運転することが出来ない。これから、俺が、みやの運転する車に隣でいるから。だから、みやと逆になるっていうことだ。前は、俺が運転して、今度は、みやが運転する」

 

「…うん」

 

「これで、おあいこだな」

 

「そうだね!」

 

 二人で笑う。いつものように。

 

「みや」

 

「どうしたの?」

 

「俺、あのときのことを思い出した…」

 

「えっ?」

 

 車が、停車した。目的地に着いた。まだ、あの時間になっていなかった。でも、もうすぐだ。

 

「どういうこと?」

 

 みやは、驚きと訳がわからないという表情をしていた。

 

「俺が、事故にあったときに…」

 

「うん」

 

 俺は、事故のことを話した。

 


俺は、早くみやに会いたいと思って、待ち合わせ時間より早く着くっていうのに家を出た。あるものを持って、車で公園に向かった。

 前日ドライブするところを調べて計画をした。計画が、成功するか入念に確認をした。みやが喜んでくれるかと必死に考えて考えた計画だ。

 必ず、喜んでくれると期待した。家を出て十分後大きな交差点。信号は、赤なので止まる。信号は、青になったのを確認して車を前進。

 突然、すごい勢いで車が突っ込んでくる。避けようとしたが、間に合わなかった…。

 そして、全身に激しい痛みが走った。みやに、会えなくなる。大切な日なのに。俺は、まだ生きたい。みやが待っている。早く行かないと。

 そう思っても体が重い。動けない。遠くで、声が聞こえる。

 

『だいじょうぶですか?だい……じょ…ぶで…だ…じ…』 

 

『まだ、きゅうきゅうしゃはこないのか?はやく…』

 

『きゅうきゅうしゃ…きまし…』

 

 俺は、もうダメなのか。全身の痛みや死への恐怖と絶望。そして、目の前が暗闇になった。今日は、大切な日なのにみやの誕生日なのに、死ぬのかって恐かったんだ。

 

 少しの間の沈黙。それを破ったのはみやだった。俺の目を真っ直ぐに見た。俺の右手の上にそっと自分の手をのせて。

 

「…うん。でも、大丈夫。隼は、生きてるから」

 

「あぁ」

 

「誕生日、覚えててくれたんだね。うちは、自分の誕生日を忘れていたの。この間、お兄ちゃんが、教えてくれたんだ。お兄ちゃんが、あの公園にいた本当の理由をね。うちの誕生日を祝うつもりだったんだって。だけど、初デートがあったからやめたんだって。さっき、病院でね。さなえちゃんに、あるものを預かったの。もし、隼兄の記憶が戻ったら渡してほしいって」

 

「あるものって?」

 

「うちは、何か知らないよ。さなえちゃんが、袋に入れてくれたの。中身を見たら、ダメだって」

 

「そうなのか?」

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 みやから渡された袋の中を覗いた。そこには、小さな箱が入っていた。それを取り出す。

 これは、俺があのときにみやに渡そうと思っていたものだった。みやに、その箱を差し出し、パカッと蓋をあける。

 

「みや。待たせてごめん」


 みやは、頷く。この言葉で、みやは何を言われるか分かっているのだろう。すでにその瞳には、涙でいっぱいになっていた。


「これかも、俺と一緒にどんな困難にも乗り越えてくれないか?俺は、みやと一緒に、もっと時をすすめたいだ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 みやの頬には、たくさんの涙が夕日の光でキラキラと輝いていた。


「これからも、隣でいるからね」

 

「あぁ!これかも、よろしくな!」


「うん!」

 

 みやの笑顔とその後ろでマジックアワーが広がり、みやの左薬指にはめた指輪がキラキラと輝いた。

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