意志
遼が亡くなった日から、一年たったある日のことだ。俺は、さなにアパートに来て欲しいと呼び出された。
「隼兄。私ね。遼さんと叶翔と過ごした思い出が詰まったここを出て、遼さんのあの昔ながらの喫茶店がある、実家に住むことにしたの」
「遼のおじいちゃんとおばあちゃんがいいと、言ったのか?」
「うん。はじめは、渋ってたけどね。遼さんが、亡くなる前日に言ってたことを伝えたの」
『さなえちゃん。…俺ね。俺が、死んだら。じいちゃんとばあちゃんが寂しいと思うんだ。だって、俺のお母さん、自分の娘が死んで、孫まで…。だから、俺、またあの家に住みたいんだ。もちろん、三人一緒にね。ふたりのことが、心配なんだ。俺を、育ててくれた恩があるから。じいちゃんとばあちゃんに親孝行したいんだ。そうと、決まれば、早く二人に伝えたいな。きっと、喜んでくれると思うんだ』
「でも、その思いは、叶わなかった。だから、私は、遼さんの意志を継ごうって、思ったの。そして、遼さんのおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだから。その思いを伝えると、喜んでくれたの」
「そうだったのか。迷惑をかけるなよ」
「うん。ありがとう」
「お母さん達は、このこと知ってるのか?」
「うん。ちゃんと言ったから知ってるよ」
「そういえば、叶翔は?」
「叶翔は、遼さんのおじいちゃんとおばあちゃんのところに、遊びに行ってるの」
「そうなのか。おじいちゃん達、喜んでるだろ!」
「うん。そうだね」
さなは、笑顔だった。