足が向いた先
俺は、事故でみやの記憶を無くした。
そんな中で、俺の誕生日がやって来てしまった。遼がいなくなっても、必ずすることがある。
それは、誕生日会だ。家族の誰かの誕生日は、必ずその日にやる。遼の、おかげで誕生日という大切さを再確認したからだ。
今回も、そうなるはずだった。俺は、遼と同い年なのにまた二つ年をとった。誕生日を迎えることは、嬉しい。
でも、そこに心友の遼がいないことが寂しかった。これからも、遼より年上になるのは、嫌だ。
本当は、今年の誕生日会をしてほしくない。だって、みやのことが解決をしてないから。
なので、ボイコットをしようと思っている。皆が、俺の誕生日会の準備をしている時に、隙をついて俺は、黙って家を抜け出した。前以上に、動かない体。
少し、歩いただけで疲れてしまう。まだ、体力が回復をしていない。なんとか着いた。
まだ、あの時間より早い。空は、青い。空の色が違う。俺は、あの場所に、立っている。
ふと、行かないと思って、別の場所に向かう。体を引きずる。タクシーで行こうと思ったが、ポケットを探るが財布を持ってくるのを忘れた。
そうして、体を引きづりながらたどり着いたのは、噴水のある公園。時計を見ると十時前だった。
噴水の近くにベンチがあったのでそこに座る。そうすると、一人の男性が俺の方にきて話しかけた。
「おはよう!いい天気だね」
「お、おはようございます。そうですね」
「すまないね」
「えっ?」
「ほぼ初対面なのに、話しかけて驚いたやろ?」
「はい」
「簡単に自己紹介するとな。僕は、通りすがりの君の彼女の兄ちゃんだ」
「えっ?」
「だから、大丈夫や。君のことは、分かっているからな。それにしても、今日一人でこんなところにいるんや?」
「それは…」
「それは?」
「ふと、行かないとって、思って気が付いたらここに自然と足が向いたんです」
「そうなんか」
「はい」
「他には、なんか感じたことあるん?」
俺は、あの場所についてはなした。
「…なるほど。それやったら、大丈夫やわ」
お兄さんは、そういいながら嬉しそうな顔をした。
「君が、ここにいるんは、誰か知っとるんか?」
「知らないと、思います。黙って来たので」
「みんな、心配しとると思うで?早く連絡しないといけんで」
そう言われて、スマホを探すが、手ぶらで出てきていることを思い出した。
「すみません。スマホを家に忘れてしまって…」
「分かった。貸してやるわ」
そういって、お兄さんは、呼び出し画面の表示されたスマホを俺に渡した。
「もしもし?お兄ちゃんどうしたの?」
「もしもし?みやか?」
「えっ?何で隼がお兄ちゃんのスマホから?」
「それは…」
説明をしようとして、お兄さんの方を見ると誰もいなかった。ベンチには、『みやにスマホを渡してくれたらいいから』と書き置き手紙があった。
「隼?」
「何だ?」
「何だ?じゃないよ!今さっき、さなえちゃんから隼兄がいなくなったって、泣きながら連絡してくれたんだよ!」
「えっ?」
「今、どこにいるの?」
「噴水のある公園で、噴水の近くのベンチに座っている」
「えっ?分かった。今から行くから、そこから離れないで!」
「あぁ」
そこで、通話が終了した。それから、数分後にみやが走ってきた。
バチン!
そのままみやが、俺の頬をしばいた。
「っく」
「…心配したんだからね。みんな、また事故にあったらどうしよう。どこかで、倒れてるんじゃないかって、心配したんだからね」
「…みや。ご…」
「謝らないで!なぜこんなことをしたのか、説明してくれるまで謝らないで!」
「俺は、誕生日を祝って欲しくなかったんだ」
「えっ?」
「だって、みやのことを全て思い出してないから」
「…」
みやは、泣いた。
「だから、ボイコットをしようとしたの?何で?うちなんかのために」
「なんかじゃないよ。俺は、みやのことを愛してる。自分のことをなんかって、言うのはいけないぞ」
「えっ?今なんて言ったの?」
「自分のことをなんかって、言うのはいけないぞ?」
「その前」
「俺は、みやのことを愛してる」
その言葉を言った後、頭が痛くなった。
「隼、大丈夫!?」
「そうだ。俺は、あのときみやに会いに行こうと…」
そこで、俺の視界は真っ暗になった。最後に、視界に写ったのは泣いた顔のみやと公園の十時半を指した時計だった。




