特別な人になる
月曜日、僕は朝から浮き足立っていた。今日、桜先輩に告白する、それだけを考えて家を出た。お弁当は買い忘れたし、携帯電話も忘れてきてしまい、連絡することも出来ず、タイミング悪く桜先輩が捕まらずやきもきしていた。
仕方なく終業後に追いかけようと、自分の仕事は終わったのに桜先輩をじっと待っていると、桜先輩は上司に呼ばれてしまった。あのだっせえスーツの1人だ。そしてさっきからずっと怒鳴り声が聞こえている。
桜先輩大丈夫かな?と思っていたら、顔を真っ青にした桜先輩が上司の部屋から出てきた。会社は人がまばらで残っている人でこちらを見ている人はいない。そして桜先輩の顔に色が戻った途端、走って部屋から出て行ってしまった。僕は慌てて追いかけちょうど屋上で追いついた時、腕を掴んでしまいこけそうになった先輩を抱き寄せた。桜先輩はびっくりして顔をあげた、泣き顔の先輩を守ってあげたいと心からそう思った。
「先輩。お願い一人で泣かないでください。僕が一緒にいますから。」
「やめて。勘違いさせないで。離して。」
「勘違い?」
僕の良いように思っていいのだろうか。僕は先輩にとって特別なんだと。
「成田君が好きなの、今優しくされたらあなたも私を好きだと勘違いしてしまう。」
先輩は今どんな顔をしているんだろう。僕のことを好きだと言ってくれる先輩はどんな顔で僕を見てくれるんだろう。
「先輩?」
顔を見たくて声をかけると、先輩は強く僕を押して離れようとするのでそれ以上に強く抱きしめた。
そして板谷さんに言われたことを伝えた。僕の気持ちも。そしてネックレスを渡した。ネックレスを渡した時の表情はぱあっと花が咲いたように笑っていたのに、僕が続ける言葉に、桜先輩はどんどん顔をふせてしまって僕はキスをねだった。
先輩の頬を両手で挟んで無理矢理、顔をあげると先輩は目をとじているその顔を少しだけ鑑賞し唇を重ねた。もう少し長く楽しみたかったけど、がっついていると思われたくなくてすぐに離した。
その後、先輩が仕事に戻ると言うので手伝って一緒に帰ることにした。インテリアを作り写真を撮った。そこで桜先輩が今日は終わり、ありがとう。と僕に言ったので帰ることになった。僕ら2人とも知らなかったけど、最寄り駅も一緒で僕の家から歩いて5分程のマンションに桜先輩は住んでいた。というか前を通ったことがあって知っている場所だった。
「部屋に呼んでくれないんですか?」
「調子のらないで、だめです。」
「えー残念だなぁ。」
「だめです。」
「じゃあ今週の土曜日、水族館行きません?」
「水族館?」
「ええ、僕、ペンギンが見たいです。」
「いいですよ。」
「というか先輩なんで敬語なんですか?」
「だってなんかいつもと感じが違うんだもん。」
「そうですか?僕はいつもこんな感じですよ。」
「えーもっと控えめじゃない!」
「会社は会社。恋人にはこんな感じです。」
「恋人…。」
「可愛いですね。」
僕は許しをもらう前にキスをした。ゆっくり離すと先輩が
「今日は眠れないかも。」
と少し赤ら顔で言ったので僕はなんとか自分を抑えて桜先輩を家に帰した。