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竜呼ぶ|音色《おと》に乗って  作者: 中二の羽ペンと黒歴史のインク
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空白の17年

  『星暦』 

 西暦から『星暦』に変わったのは57年前、太平洋沖に巨大な隕石が落下して十数年が経過してからだった。

 直径1kmを越える巨大な隕石は運よく海のど真ん中に落ちたことによって、地球滅亡は何とか免れた。ように思えた。

 隕石の直撃による衝撃はあまりにすさまじく、世界全土で大規模な地震が起きた。そして太平洋に面した国に巨大な津波が押し寄せた。太平洋上にある島国は壊滅的な被害を受けた。そして日本列島も例外ではなく多くの被害が出たが、その十数年前に起きていた、東日本大震災のおかげで津波に対する意識が根付いていたおかげで、比較的被害は少なく済んだ。

 そして異変はそれだけではなく、あまりの衝撃に地球の傾きが変わったのだ。もともと23.4度だった傾きが30度近くにまで増えたことによって起きた気候の変化。さらに熱く長い夏。さらに寒い短い冬。この変化に対応できない種は多く、地球上の生物の最低1割が絶滅したといわれている。

 そして被せるように起きた氷河期、といってもこの氷河期が起きたのは幸運だったと言える。この氷河期のおかげで暑すぎる夏が比較的涼しくなったおかげで1割程度の種が絶滅しただけで済んだ。

 元々氷河期が来ると言うことは予測されていたため、問題なく1年、また1年と時間が過ぎていった。


 そんなある日ハワイ諸島が消滅した。

 ハワイ諸島に米軍が付いた頃にはすでに遅く、見るも無残な光景が広がっていたという。その情報は瞬く間に広まり、原因についての論議が白熱した。そしてその原因は1月もしないうちに判明することとなった。


 日本にとある生物が飛来した。一言でわかりやすく言うなら巨大な竜、ドラゴンだ。ただし姿かたちはいびつで、どちらかというとドラゴンみたいな生き物、というのが正しい。

 そのドラゴンは常駐していた米軍と自衛隊の活躍によってハワイ諸島の二の舞は何とか避けることが出来た。それでも一般人の死者は2万人にも及び、負傷者7万人、行方不明者347人になった。そしてこの行方不明者はドラゴン討伐後、ドラゴンを解体したことによって発見されることとなる。

 この時、解体を主動していた米軍(・・)の幹部はこの死体が自国民の者でないことをいいことにぞんざいに扱い、弔おうとする自衛隊にドラゴンの解体を優先するように強要した。

 それはまだ我慢出来た。解体作業によって減らされた睡眠時間をさらに減らし、遺族に通知と火葬を行いちゃんと弔いを行った自衛隊に米軍はなぜ燃やしたのだと攻め立てた。あれ(・・)は貴重なサンプル(・・・・)だったのにと、これに対し自衛隊は許容できなかったようで、米軍、米国に正式な謝罪を求めた。これに対しての返答は誰から送られたともわからない謝罪文明を記載した書類1枚のみ。米軍に至ってはそれすらなかった。これに対しても何とか、何とか耐えることが出来た。

 だが日本は自衛隊が聞いたある米軍の幹部の一言によって自衛隊の堪忍袋の緒が切れることになる。


「いやぁしかし日本って国は本当に従順で使いやすい国だよな。あのドラゴンだって実際に倒したのは自衛隊なのに、米軍が加勢(・・)して倒したっていう嘘の功績までくれて、さらにドラゴンの解体費用全持ちしてくれたにもかかわらず情報は無償提供だもんな、本当に使いやすい自衛隊(コマ)国民(にくかべ)だよなぁ、あっはっは」


 この言葉に家族全員をドラゴンによって殺された日本人自衛隊員と、その友人家族と親しい中にあり、友人の妹と恋人関係にあった在日米国人(米軍人)がキレ、その幹部と周りにいた数人の米軍人をタコ殴りにするという事件が起きた。

 これに対し米国は自国民に不当な暴力を与えたとして激しく被弾したが、日本が出したある証拠によって勢いを徐々に失うことになる。

 日本は度々問題を起こしていた米軍の基地に監視カメラを仕掛けていた。この監視カメラは同時進行で起こっていた日本国民による米軍人に対する暴行事件などから米軍人を守るためのものだと主張し設置した物だったがそれにしっかりと映りこんでいたのだ。もちろん音声も証拠となるために音声収録もされており、その時の発言もしっかりと録音されていた。ただしこの証拠は監視映像を共有しているはずの米軍には存在せず、代わりに意図的に削除されたと思われる証拠だけが転がっていた。

 これを日本側が指摘すると、米国は材の不調だ、設置した日本側に原因があるのではないか、と主張し泥沼化し始めていた。

 そんな時ある動画が話題になる。

 それは監視カメラ以上の画質と音質にとって録画された件の暴行事件の一部始終の動画だった

 これは自衛隊員と一緒に米軍人をタコ殴りにした米国人のスマートフォンにその時の音声が鮮明に録音されており、それを彼が某大手動画サイトに投稿した物だった。

 これによって米国は窮地に立たされることになる。まさかの自国民による裏切りは世界中に一気に広まり某大手動画サイトの動画は早急に削除されたものの、そのコピーが大量に出回ってしまったため日本からだけではなく他国からも激しい批判を浴びることになる。

 この事件が皮切りとなり日本から一部米軍人に対する粛清が始まる。

 米軍基地にある銃器や刃物等の武器になるものをすべて押収し、軍事情報の入った電子端末なども回収するか破壊され、元米軍基地という名の監獄が出来上がった。

 これに対し米国は日本側に自国民を即座に解放しろ、従わなければ即座に軍事的攻撃を始めると通達を行った。しかし日本と自衛隊、それに日本人と親しい関係を築けていた大半の米軍人は猛反対した。


 そのため米国と日本による争いが始まろうとしていた。

 世界最大規模を誇る米軍と、少数ながらも高い練度と優れた統率力、大義名分は明らかにこちらにあるとわかり高い士気を持つ少数精鋭の日本自衛隊。

 この2者間の争い、いや戦争は世界中が注目し始めていた。

 まさに一触即発、そんな状況に水を差す事件がまたも起こる。2度目のドラゴン襲来だ。

 そして今回は1体のみの襲来ではなく複数による襲来だった。前回とは違いいびつな形ではなくおとぎ話に出てくるドラゴンそのままの姿の大型バスほどの大きさの物たちが7体。子犬ほどの大きさの小さなドラゴンが200体以上。

 これらの存在を衛星映像で知った海上自衛隊、航空自衛隊は海上でこれらと衝突、前回のドラゴン襲撃時の経験と、解体による情報を持っていたためわずか半日で壊滅に追い込んだ。

 そして何とか生き残ったドラゴンたちは来た方向に逃げるのではなく東南東(・・・)に逃げ出した。

 そして自国海域を出たことを確認した自衛隊は華々しく帰国した。この時の死者0名負傷者80名というもので、負傷者の大半が擦り傷程度の軽傷だった。


 そして東南東に逃げたドラゴンたちはもともとその方向に進んでいたドラゴンたちと合流し米国に攻め入ることになる。

 そして殲滅に1か月近くかかった米国の死者は28万人、負傷者140万人、行方不明者1万4千人、後日ドラゴンの体内から発見された身元不明者数173人。

 甚大な被害を被ることになった。

 

 この被害を日本が自国に襲来したドラゴンを殲滅せず、逃がしたせいだと米国は主張したが、日本は軍を持たず、自衛隊という自国を守るための組織しか持たない、攻撃する軍ではなく守るためにいるため日本の所有する海域を出た時点で、その責務は終わったと主張。そして何より、日本に軍を持たせまいとしたのは米国ではないかと

 そしてこの主張は(くだん)の暴行事件の時と相まって日本に賛同する国が多く、米国の立場をさらに悪くするものとなった。

 そのため復興のための支援をアメリカは全く他国から受けることが出来ず、米国大統領自ら日本に赴き、正式な場で頭を深く下げ謝罪するという異例の事態を起こした。

 米国が正式に謝罪と、最初のドラゴン襲来事件の時に多大な被害が日本に出たのは米国軍が自衛隊に全く協力しなかったせいと言う建前で、その遺族などに多額の賠償金をさらに支払うという形で前回の件と今回の件はひとまず終息した。



 それから半年、復興がある程度終わった米国は二度とこのような事件を起こすまいと、ドラゴンの来た方向に探索隊を送ることとなった、この時1度目と2度目のドラゴン両方(・・)の情報を持っている日本に援助を要請。この時日本は2度あることは3度あるということわざ通りドラゴンがまた現れると予想し、ドラゴン対策の兵器を作っていたため、資金的にも人員的にも余裕がなく、断ろうとしていたのだが、ちょうどその兵器が試作段階を通過したため、試射もかねてこれに同意した。

 ただし、この兵器の運用が行われ、その実用性が証明された場合はその兵器の情報、運用時のデータなどを開示する。だから運用にかかる費用を援助してくれ、という実質的には米国側が7割の資金を負担してほしいと日本側は提案した。その時米国側はどの程度の規模の兵器か調べたいといい、十数名の研究員を派遣した。この時の研究員が目にしたのは長さ50メートルにも及ぶ巨大な砲台で、これの製作にかかった費用は日本側が提示した探索隊にかかる費用7割の6倍以上、下手したら10倍近くかかっていると予想した。


 そのためそんな安い費用でこの兵器の情報が得られるなら、と米国側は快諾。そして他国も米国があっさり快諾したということはそんなにすごい兵器なのか、と探索隊の援助を希望した。そのため結局は米国側が4割あとの6割を援助を希望した国で当分した額を支援してもらうことになった。

 そして日本と米国の2国だけではなく20にも及ぶ国々の探索隊が加わったことにより、規模が拡大した探索隊に持たせる兵器がないということで探索隊出発は3か月延長となった。


 そして3か月後、総勢8万にも及ぶ探索隊の約半数3万5千に日本開発の対ドラゴン用小型兵器が支給された。

 これには参加した全国が驚いた。大型兵器だけだと思ったらひと1人で運用できる銃器型兵器もあるのだから。


 そして探索隊は太平洋中央に向けて出発した。

 その軍行は巨大兵器を積んでいるため遅く、1月かけて目的地に到着した。その目的地には何もなく、唯一存在していたのは海から突きあがる本の黒く輝く巨大な塔。雲を突き抜けて存在するそれはなぜか2km以内に近づかないとその姿をとらえることが出来なかった。

 そしてさらに近づいて1km以内に入った時怒号のような音が周囲に響き渡る。

 それと同時に見え始める上空の黒い点。それらは望遠鏡無しでもすぐに形がわかる距離まで迫ってきた。

 

 ドラゴンだ。


 ぱっと見2度の襲来どちらにもいなかった種が3種最初の襲来にいたいびつな物が2体、2度目の襲来にいたドラゴンが数百、数千体。それらはとめどなく溢れ、探索隊を襲った。


 そして時計の針が12回回り終えたころようやく戦闘は落ち着いた。

 波状攻撃のように襲ってくるドラゴンによって探索隊側は激しく疲労していた。

 そのため往復2か月調査2か月の計4か月を想定していた探索はわずか144時間で終わることとなった。


 そして塔が見えない距離まで離れた後状況報告と帰還すると報告をしたところ戦闘が始まる前日に報告した日から3日しか経っていないというのだ。半日程度で侵入脱出それぞれ出来たことを考えると2日しか戦闘を行っていないことになる。だが乗っている戦艦にある時計は4日進んだ日付を示している。

 そして何より12回時計が回っていることを確認した兵は数えきれないほどおり、負傷兵の傷も食料や治療道具も6日分以上消費している。

 何とか司令部を説得し帰還したとき、捜索隊隊員たちは現実を見る。本当に往復にかかった日数+3日しか経っていないのだから。

 日本が提供してくれた兵器を握りしめて死に物狂いで応戦した6日のうち4日は夢だったのかと。じゃあこの傷はなんだ?そう精神異常をきたす人が続出した。

 この中で精神異常にならなかった者たちは実戦経験者の米軍、露軍、そして自衛隊の一部だけだった。

 そして録画されていた戦闘時の映像と彼らの証言によって日本製の対ドラゴン兵器が有効だということがわかり、さらに塔周辺とそのほかでは時間的な歪みがあるという説が浮上した、その場合探索隊と司令部などとの時間的なずれは頷ける。だがそれだけでは説明がつかないことが2つある。1つ目があの黒い塔が衛星や、離れた場所から目視を含むどんな方法でも観測することが出来ないこと、それと内側と外側では通信を行うことが出来ないということ。

 この2つは無関係ではないだろう。ただこの世界と塔周辺に物理的は壁があるわけではない。なのにどうしてこんなことが起こるのか。空間的な歪み、そう言い切るのは簡単だが実証するのは途方もなく難しい。

 長年空想上の存在だった異世界の存在が!と話題になりそちらに民衆の関心が移り始めていたころさらに事件が起きる。地殻、プレートの移動だ。プレートの移動自体は別に珍しいことではない。現に1年に数センチずつ移動している。ではどうしたのか、1日で1メートル近く移動していたのだ。

 衛星からの情報をもとに正確な位置、方向を調べると北半球側に集まっていることが分かった。

 これは単純な移動ですかはいそうですかでは済まない事態だ。何せ南半球の生物はいきなり冬と夏が真逆になるのだから。

 このことが分かった時点で生物保護に大きく動き出したのはオーストラリアだ。世界最大の有袋類のカンガルーやコアラといった観光名物を失うわけにはいかないと保護のために動いている。


 それから15年。ついにプレート移動が終わった。衛星映像から分かる地球の地形は北半球に大陸が集まっており、北極の氷の大地の周りを囲むドーナッツような形になっていた。


 そしてこの15年間何の問題もなく済んだわけではなく散発的なドラゴンの襲撃で人類の1割ほどが死亡したことが分かっている。

 そのほとんどが少し文明的に遅れているアフリカ周辺諸国の犠牲者ということだ。

 逆に最も犠牲者が少なかったのは露国と中国に挟まれるようにあるモンゴルだった。


 そして最も最初にドラゴンの襲撃を撃退した日本は対ドラゴン兵器によって確固たる地位を築くに至った。


 そして難局に位置するところにオーストラリア大陸の2倍以上の大きさの大陸が出現した。


 これが西暦が『星暦(せいれき)』に変わった空白の17年と呼ばれる時代の全容になる。


 地球に直径1kmの隕石が落ちても地軸の傾きが変わることはありません。

 直径1kmの隕石で人類が絶滅することならあるかもしれませんが。

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