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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
9/36

9.迷子の思考

王さまの背に寝かされて道を行く。

ポイントは寝かされて、というところ。

髪で体をぐるぐる巻きにされて物理的にくっつけられているのだ。

王さまが音もなく歩く振動なんかは、髪で作られている割には動き方が本物の動物の背中らしい生々しさがあったけれど、しばらくすれば慣れていいゆりかごだなぐらいの感想になった。

人間は慣れる生き物なのだと身をもって学んだ。




生首と迷子 9




仰向けにされているので必然的に直射日光を全身に浴び続けることになるのだが、なぜか紫外線というか日の光が柔らかいようでちっとも肌が熱くも痛くもならない。

これも王さまの影響なのだろうか。

王さまは朝も夜も休むことなく一定のペースで歩き続けるから、正直乗せられているだけの身としては暇で暇で仕方がない。

退屈まぎれにと王さまの体を引っ張ると、長い髪が引っ張られるままにずるりと伸びてきた。


「わぁお…」


もちろん両端は体に繋がったままだから、中途半端にほつれた糸みたいになっているけれど。

悪いことしちゃったな、とごまかすようにほつれた髪を周りの髪に混ぜ込む。

意外と綺麗にごまかせたのでこのほつれ髪ハプニングはなかったことにする。

ノーカンだ、ノーカン。

それにしても暇だ。

時間を持て余すなんて球体の中にいる時からそうだったけど、今は自由に動くこともままならないからかなおさら暇に感じる。


「王さまー、暇なんだけどー」


胴体が固定されているけれどせめてちょこっと両手両足を伸ばそうと動いたが、脇腹の痛みのせいでそれもままならない。

なんて不自由な!

不満を募らせて王さまに呼びかけ続けると、王さまの首がずるりと伸びてきた。

思いもしなかった動きに驚いて思わずビクッと体が飛び跳ねてしまった。


「王さま、キリンみたいになってるよ!?……まあ、王さまだもんねえ。なんでもできるよねぇ」


だって王さまだもの。

巨大な鹿のような体は変わらず歩み続けるままで、首だけがこちらに伸びてきている。

目が道ではなく私を見つめているが大丈夫なのだろうか。

でも王さまだもの、大丈夫なのだろう。

王さまが超絶美形の能面顔を寄せてて、私の頬に王さまの頬を擦り付けてきた。

甘える動物みたいだ。


「ふふ。王さまくすぐったいー」


『ーーーーー』


そしてすべすべサラサラでとても気持ちいい。

王さまは体がどんなものであれ生首だった時と変わらない王さまのままだった。

たとえ私の扱いが雑すぎたとしても、私を拾ってくれたままの王さまだ。


「でもこんなバーバモジャみたいじゃなくてもいいと思うなぁ…」


能面顔とはいえ超絶美形の下には人間の体があったかもしれない、漫画みたいな八頭身で、外国のモデルみたいな感じの体で、などなど。

年頃の女の子としては夢見がちになるのも当然だろう。

だって顔がこんなにも超絶美形なんだから。

たとえ髪の毛をウネウネさせるバケモノだとしても。

その髪の毛で自分用に動物の形の体を作っちゃうほどの変なバケモノだったとしても。


「王さまは王さまだもんね…」


間近で能面顔の王さまがゆっくり瞬いた。

何のことだと疑問に思っているのかもしれない。

でも言葉でも表情でも、王さまは私に意図を伝えることができない。

もしかしたら私の言いたいことの方が王さまによく伝わっているのかもしれない。

一方通行だ。

それはなんだか悲しいことで、とてももったいないことのように思えてならないのだ。

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