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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
8/36

8.迷子と旅の始まり

痛い脇腹を何かでぐるぐる固定されて、王さまの所に連れて行かれた。

連れて行かれたというか、おんぶされて行ったっていうか。

お姫様抱っことかにちょっと憧れたりしてたんだけど、なかなかそういうタイミングってないのねー。

しかしおんぶのおかげで脇腹への振動が少ないのはありがたい。

そして連れて行かれた王さまの姿を見てドン引きした。




生首と迷子 8




「王さま…………シシガミさまみたいね…?」


『ーーーーー』


王さまの超絶美形生首が、真っ黒で巨大な四つ脚の何かにくっついていた。

鹿か何かの体をふたまわりぐらい巨大化させたようなシルエット。

馬よりも大きく、大きさだけなら下手をするとキリン並み。

私が今の王さまの側で背伸びしても、頭が王さまの胴の真ん中ぐらいまでしかいかないだろう。

脚も速そうだ。

鹿の小さな尻尾やツノがないのは残念だけど。

首を伸ばさなくても木の葉っぱが食べられていいことずくめだね、王さま…。


『ーーーーー』


王さまの片腕…腕?前脚?がこちらに伸びてきた。

蹄まで黒いもので覆われてる。

あ、この黒いのって王さまの髪か。

踏まれる、蹴り上げられるといった不安が瞬時に霧散する。

王さまがそんなことするはずない、数ヶ月の共生は生首への信頼を築くには十分足りた。

伸ばされた前脚がぬるりと形を変えて人の手のひらになる。

その黒い髪でできた手が、頬を包み込んで慈しむように撫でてきた。

久しく忘れていた優しい感覚に心が落ち着く。


『ーーーーー』


やっぱり、王さまが何を言っているのかは分からないけど。


「ふふ。ちょっとくすぐったい…」


腕が頭も撫でてくる。

王さまのスキンシップ好きは相変わらずのようだ。

けれど王さまに体ができ、脚ができたということは、王さまはどこかに行ってしまうのだろうか。

私はどうなってしまうんだろうか。


「あの、花の化精さん。王さまはどこかに行くの?」


王さまのことを知っているならこの生首の意図を教えてもらおうと声をかけた。

すると喋ってもいないのに会話をしているようなわずかな間が空いて、彼は答えた。


「ーーそうだ。髪の王は胴を求めている。胴の所へ行くのだ」


「どうって胴体のこと?でもこれは……そっか、王さまの髪だもんね。じゃあ、私はどうすればいい?」


「ーー髪の王はお前を連れて行く。そう言っている」


その言葉に驚いて王さまに顔を向けた。

てっきり、ここに置いていかれるのだと思っていたから。


「王さま、いいの?」


『ーーーーー』


腕がずるりと形を変え、体に巻き付いてきた。

けれどあの球体の中で王さまが死ぬと感じた恐怖感とはまるで違う感覚だった。

一緒にいられる。

普通に考えればこの場所でなんとか人間とのコンタクトを取って家に帰ろうとするはずなのだが、そういった発想自体が浮かばなかった。

逃れようもない異様な状況に数ヶ月もの間、共に閉じ込められていた生首に愛着に似たものを感じてしまっていたのだ。

どうしようもなかったし、どうにもしようとしなかった。

それでもよかった。

なんとも奇妙なことに、それなりに幸せだったのだから。

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