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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
3/36

3.迷子と接近

王さまが顔を出している時間が増えた。

たまに私が眠る時以外はだいたい出してくれているようになった。

私をじっと見ている時もあるし、空を見上げている時もある。

ただし断面はやっぱり髪で隠してて見えないし、あんまり見たいとも思わないけど。

王さまは能面顔だけど超絶美形だ。

彫りの深い外国人顔だし、肌も白いし(血の気がないともいう)、王さまって日本の妖怪じゃないんだろうなぁ。

じゃあここって海外?

私、家のリビングでうとうとしてたはずなんだけど、まさか誘拐された?

いや、どこの世界に女子高生誘拐する生首がいるっての。

そもそも王さまもここから出られないみたいだし。




生首と迷子 3




うーん、分からない。

じーっと見てると王さまが髪を伸ばしてきた。

軽く握りしめると感じる、サラサラツヤツヤな髪の毛。

日本人の私の髪と同じ黒色のはずなのに、王さまの髪は色が全部なくなったような真っ黒だ。

光も跳ね返さないほどの真っ黒だけど、傷んでいるってわけでもない。

むしろ手触り最高。

美容師さんに整えてもらったばかりの髪だってここまでじゃない。

枝毛知らずの美髪だ。

量も多いし長いし。

……ん?


「そういえば王さまの髪の毛先ってどこ?」


いっつもその辺をウネウネしてるばかりで毛先なんて探せなかった。

どうせ暇なんだし探してみるか。

根元から辿ろうと飛んで王さまの側に行くと逃げられた。


「えー?王さま、王さま。何もしないから!こっち来てよー!」


『ーーーーー』


もしかしなくても、髪はオッケーでも顔が近付くのは無理?

いやいや、髪も顔も似たようなもんだって。

王さまに両手を広げて安全宣言するも、そもそも言葉が通じないんだった。

もう一回近寄ろうとしたら、今度は髪を私の胴体に巻きつけて引き止めてきた。

王さま、そこまで嫌がらなくてもいいじゃないか!


「もう……分かった。近寄らないから」


降参して巻きついた髪を軽く叩くと、意図が通じたのかするりと髪が離れていった。

便利だなぁ、王さまの髪の毛。


『ーーーーー』


「分かってる。もう近寄らない!」


小言のように何かを言ってる王さまに、両手を上げて降参だとアピールした。

そして王さまが口を閉ざしたのを確認して、近くにあった髪を掴んで先をたどった。

髪の感覚からして多分こっちが毛先だ。

宙を漂いながら髪の先端を辿るなんて不思議すぎる。

根元はダメでも毛先はオッケーなのか、王さまも嫌がりはしないし。

長いとはいえ髪なんだからすぐ毛先に着くだろうと辿るも、なかなか毛先に辿り着けない。


「……めちゃくちゃ長くない?おかしくない?」


この巨大な球体を一周したってまだ続いてる。

束を掴んで辿っているのだが、髪の一本たりとも毛先が見えない。

王さまを振り返るといつもの能面顔のまま。


「…もしかして、王さまって髪の流さとかを自由に変えられるとか?」


あり得る。

だって王さま、生首のバケモノだもの。

髪の毛オバケなのかもだし、それぐらいできそうだ。

それでも、どうしても、気になる毛先。

髪を手繰り寄せながら再びぐるぐると球体の壁を浮かんで行くけれど、辿れど辿れど毛先が見えない。

むしろこのまま進むと王さまの頭部に到着だ。

まさか、と掴んでいる髪の手触りを確かめるとなんと、さっきまでと手触りが逆。

けれど私は一方向にしか進んでいない。

ということは、だ。


「もしかして………髪の毛、輪っか状になってる?」


確認も兼ねて最後まで辿ろうと髪を手繰ると、当然のように王さまの頭部も近付く。

あとちょっと手を伸ばせば王さまの顔に届く、という所で、やっぱり王さまの髪が私に巻きついて固定してきた。


「おうさまー…」


手に掴んだ髪を軽く引っ張りながら王さまを呼ぶ。

意思疎通ができないと謎の解明もできないや、なんて単純にそんなことぐらいしか考えていなかったのに。

驚くことに、王さまが顔を寄せてきたのだ。

そして驚きに硬直する私の指に、その頬を寄せてきた……のだと思う。

ちょうど王さまの髪やら自分の腕やらの死角になって見えにくかったのだ。

けれど、王さまが顔を横に向けて頬の辺りを近付けるのは見えたから、たぶん、私の指にそっと触れてきたものは王さまの頬だったんだと思う。


「…王さま、えっ待ってちょっえっお、お、王さまが王さまが!王さまが!!!」


腕までぎっちり固定されてたおかげで、驚きのあまりに王さまに平手打ちなんてことにはならなかったけれど。

王さま、お肌までサラッサラ!

なんだろうこの幸せな気持ち……そう、今まで見向きもしてこなかった野良猫が擦り寄ってきた時のような!

相手生首だけども!

驚きの度が過ぎて笑えてきた私に王さまは能面顔を向けるだけ。

これでちょっとでも笑ってくれたら生首でも惚れるのに、なんて考えてしまう私も大概この異様な現状にマヒしちゃってる。


「ところで王さまの髪ってやっぱり端と端で繋がって輪っかになってる系っぽいよね」


手触りが逆方向に変わる一点を握って上下するけれど、王さまの方にまで髪がうねる波が届かないぐらい長い。

ひたすらに長い髪はまるで大縄跳びの縄みたいだ。


「王さまって不思議」


髪がうねって私に絡みつく。

王さまってばどんどん遠慮なく髪で触るようになってきた。

おかげで自分か球体の膜しか触るものがなかった状態から脱したし、他者を感じられるというのは思いの外精神の安定に必要なのだと理解したけれど。


『ーーーーー』


「あーあ。これで言葉が通じたらなぁ」


今日も今日とて私の独り言は続く。


『ーーーーー』


何て言ってるか分かんないよ、王さま。

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