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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
21/36

21.迷子と岩の化精

そんなこんなで王さまの腕が左右揃った。

つまりは私に構ってくれるパーツが3つになったわけで、むしろここまでくると私の体が足りないぐらいだった。


「うぉお…ぐおぁ…」


私は現在、日本語が消え去るぐらい構い倒されて飽和状態にあった。

片手で頭を撫でられ、片手で顔を揉まれ、腹部に頭が擦り寄ってくる。

男女的なエロさは皆無で、飼い犬を撫で回すような触り方だ。

つまり、良くも悪くも遠慮がない。


『ーーーーー』


もちろん足は動いて移動中である。

海を渡り、再び森の中に入った王さまが私に巻き付いて移動を始めたのだ。

でも明らかに移動速度が落ちたし、また巨大な骨が見つかりしだいそっちに巻き付いて移動するのだとは思う。

その前に王さまの髪の毛を洗いたいんだけどなぁ。


「王さんぶっ…お、おーさま!ちょ、顔揉むのちょっとストップ!」


『ーーーーー』


顔を鷲掴みするように撫でてた手を掴んで止めた。

頭はもういいや…ぐちゃぐちゃになってても誰が見てるわけでもないし。

顔から離してもワキワキ動く手は…王さまの手と分かっていてもちょっとキモい…。

CMに出てる手タレ並みの造形美だけど…なんかキモい。


「王さま、川とかで髪の毛をーーー」


「髪の王、髪の王よ」


私の声を遮って、森の奥から人間サイズの白い発光体が出てきた。

えっ、都市伝説のくねくね…!?




生首と迷子 21




くねくねかと思ったら化精さんだった。

前にあった花の化精とは別の人で、岩の化精さんらしい。

顔立ちどころか全体の輪郭すら発光してて見えないんだけど、声は渋かった。

いや、もしかしたら子どもの声かもしれない。

なんにせよ、花の化精と同じで性別も年齢もハッキリさせない、なんだかぼんやりした声だった。

王さまから私をパスされた岩の化精が地面に寝かせてくれた。


「王さま…?」


『ーーーーー』


いい子にしてなさい、と言う代わりのように頭を撫でられて、王さまが森の奥へと離れて行った。


「髪の王は座に向かったのだ。じきに戻られる」


「くら?…そっか。一緒に行きたかったなぁ」


王さまと離れるのは2回目だ。

でもやっぱり寂しい。


「お前のことは風の便りで聞き及んでいる。人の身で王をお守りするとは良き娘である」


「ううん、私が守られてるんだよ。でも力になりたいなぁ」


「ふむ、意図せずか。して娘よ。お前何か妙なモノを持っているな?」


「みょうなもの?持ってるのはハンカチとかあと…あっ、コレのこと?」


ポケットから出てきたのはハンカチに包んだペンサイズの針だ。

陽の下で見ると、やっぱり五寸釘にしか見えない。

銀色でツヤツヤギラギラと光っている。


「…ほう、聖針か。なつかしい物を見た」


「せいばり?っていうの?」


「聖針とはその存在のことだ。銘は確か『黎明の賢者』といったな。まァどちらでもよい。しかしどこで拾った?」


「拾ったっていうか、王さまの左手に刺さってたの。抜いた後捨てようかと思ったんだけど、王さまが持っていけって」


「なに?お前、人間がかけた封印を解いたのか。いや大したものだ。たかが小娘と侮ってすまんな」


「…なんかもやっとするなぁ。でもこれって何か使い道あるのかなぁ?ただの大きい縫い針にしか見えないけど」


「まあ、道具だからな。使ってナンボだろうよ。縫い針にするでも良し、武器にするでも良し、封印に使うでも良し。まァただ言うならば、私利私欲と王のために使うのだな」


王さまのためってのはいいとして、私利私欲のために使えとか変なこと言うなぁ。

さすが化精さん、言うことが違う。


「そりゃまあそうなると思うけど…うーん…じゃあやっぱり持っとこうかな。いつか使うかもだし」


「そうしろ。しかしそのままでは刺さるぞ。容れ物でも作れ」


「どうやって?」


「自分で考えよ。何のための頭と手だ。しかし…ふむ。王をお守りするのだ、褒美は必要だろうよ」


褒美って何だ、褒美って。

ブツブツ言いながら周りに手を広げた化精さんの手に、ぽとりと何かが落ちたのが横目で見えた。

木の実が降ってきた?

でも開けた場所で梢なんてない。

…え、空から降ってきた?鳥のフン?

鳥のフンを片手に平気な顔をしてるって化精さんってスゲー。

なんて考えていたら、化精が手をこっちに差し出してきた。


「これをやろう。草木の妖精たちが今しがた編んだものだ。やつらも我ら化精も精霊も、命あるものは王を解き放つお前の功績を讃えている。ゆえの祝福だ。受け取れ」


「なんかすごいファンタジーな言葉ばっかりなんだけど…あ、可愛い!普通に可愛い!」


細い枝で編んだ工芸品みたいなペンケースだ。

ところどころ小さな白い花が茶色のケースに編み込まれていて、すごく可愛い。

さっそく針を入れてみるとちょうどいいサイズだった。


「あとはこれを…良し。首から下げておけ」


化精がペンケースに長い蔓を手早く結びつけてくれた。

首からぶら下げるとちょうど胸元にケースがぶら下がる。


「ありがとう、化精さん。あと妖精さんたち?」


「どちらでも良い。…さあ、王の帰還だ。丁重に持て成せ」


化精さんが顔を向ける方を見上げれば、イノシシのような姿を髪で作った王さまが現れた。

ずるりと頭を伸ばして近付いてきた王さまを、両手を広げて迎え入れた。


「おかえりなさい、王さま」

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