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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
2/36

2.迷子と空間

半透明の膜に張り付いて外を見る。

くっきりとした形は捉えられないが、なんとなく色合いで外が見える。

何日も観察し続けて分かった。

どうやら私と王さまが閉じ込められているこの球体は移動しているらしい。




生首と迷子 2




いつも紺色の点が空らしい方向の真反対にある。

つまり、この紺色の点が真下だ。

山や地面といった色合いはその中間にあたる部分にちらほら見える。

だが日によっては何も見えない時もある。

そして山や地面が、時々上下する。

紺色の点に座り込んで観察して気付いたのだが、景色がブレるように上下するのだ。

しかもこのブレる感じは……。


「ここって…海?」


海でなくても湖や川といった、水の上なのは確かだろう。

この球体は流されている…らしい。


「ええええ…なんで?なんで流されちゃうわけ?まあ浮かんでたら船酔いとかないけどさぁ、でもなんで?」


答えを聞こうにも肝心の王さまは首ちょんぱで喋れないし。

喋れたとしても言葉が通じるか不明だし。


『ーーーーー』


周囲の髪がずるっと動いて王さまが近寄ってきた。

王冠の下の髪の玉が割れて超絶美形生首が出てくる。

うーん、美人。


「ねえ王さま。ここって海?なんで海?てか外に出られないの?」


『ーーーーー』


王さま無反応。

ま、しょうがないけどさぁ。


「ほら、ちゃぷーん、ゆらーん、って」


手で水面を表現してみたら、意外や意外、分かってもらえたのか王さまも髪をうねらせて真似してきた。


『ーーーーー』


「そう!水!ここ、水!」


必死のボディーランゲージは伝わったらしい。

王さまが分かっていると言いたげに頷いたからだ。

以上である。

ここが水の上だと分かったところで、出られなければ意味はないのだ。

幸いにも浸水して死んでしまうということもないようだし。

一気にテンションが下がった。


「はぁ…。何もできないんだよなぁ…」


初めから、ここから出たくて王さまに散々喚き散らし出たいと身振りで伝えるも、無理だと首を横に振られるだけだったからだ。

せめて外に出られたら。


「王さま…退屈じゃないの?」


『ーーーーー』


王さまは能面のままだ。

そうだよなぁ、こんなにも何もないと能面顔になっちゃうよなぁ。


「頑張って脱出しようね、王さま」


出るまでには王さまももうちょっと表情豊かになれてるといいけど。

でないと見た目も相まって本当にバケモノだよ。

その夜、久々に眠った私は悪夢を見た。

閉じ込められて絶望感に苛まれるような夢。

多分、閉鎖空間に何日もいたせいだと思う。

けれどその夢が途中でぴたりと止まって、その後は何も夢を見なかったからか、朝にはスッキリと目覚めることができた。

不思議に思いながらもなんとなく手を見ると、手のひらにしっかりと王さまの髪が握り締められていた。

球体のあちこちにずるずる伸びまくってる髪だけど、王さまは一度だって私に触らせてはくれなかった。

偶然だろうかと王さまを探すと、いつも髪で隠れてる顔が出ていて、じっと私を見つめていた。


「王さま」


王さまの髪が私の手のひらから滑り出た。

寝ている間に無意識に掴んでしまったんだろうか。

髪の毛なんだし引っ張られて痛かっただろうなぁ。


「ごめんね、王さま」


王さまの髪が、するりと私の頬を撫でた。

それがなんだか慰めのようで、驚いた。

同時に、王さまがバケモノではない、知性のある生き物なのだと理解した。


「ありがとう」


『ーーーーー』


それ以降、眠る時は王さまが髪を握らせてくれるようになった。

悪夢は、見ない。

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