17.迷子と海
王さまは巻き付いていた骨を変えるらしい。
今は私の体に巻き付いて海の浅瀬を移動中。
王さまの髪を纏った巨人バージョンだ。
ほら、よくアニメとかに出てくる、人間を核にした怪物的なやつ。
そんなわけで相変わらず私は直立不動ちょっと後ろに傾斜気味の体勢で、お腹に王さまの生首を抱っこしてる状態。
前と違うのは王さまのニューパーツ、冷やっこい右腕ちゃんが私の頭に引っかかっていることだろうか。
前は背後霊よろしく私の肩に引っかかっていたからね。
時々思い出したように頭を撫でてくるのはなんでだろう。
さっき泣いたからまだ慰めようとしてるのかも?
生首と迷子 17
それにしても、王さまってば大丈夫なんだろうか。
匂いからしてここは海水なのに、髪が傷むんじゃないだろうか。
綺麗なキューティクルが台無しになってしまう。
「王さま、後で髪の毛洗おうね。トリートメントとかないけど、海水より真水の方が絶対マシだろうし」
『ーーーーー』
「あっ、下手すると傷んで脱色しちゃう?やだなぁ、王さまが茶髪とか……それはそれでイケメンだろうけどさぁ」
傷んだ毛先だけ切れば、なんて思ったけど、王さまの髪って毛先で繋がっててループしてるんだった。
そもそもハサミないから切れないわ。
それに切ったりしたら王さまのことが好きな化精さんが怒りそう。
王さまは髪切られてもノーリアクションかな。
もしかしたら拗ねて隠れてまたあの髪の毛玉になっちゃいそうだけど。
それにしても海を突っ切ってどこまで行くんだろう。
髪で作った足が足りなくて溺れたりしない?
私、王さまの頭と腕を抱っこしたまま泳ぐ自信ないよ?
だって王さま、パーツだけでも結構重いんだもの。
「っおわ!?」
がくん、と体が下に引かれて変な声が出た。
深いところに王さまが足を突っ込んだんだろう。
私の足まで海水に浸からなかったのか、すぐに体を持ち上げられたから全然何ともなかったけど。
『ーーーーー』
王さまが口を動かして何か言おうとしてる。
私の足を気遣ってくれているらしく、巻き付いている髪がするすると足を撫でてきてくすぐったい。
「ふふっ。王さま、濡れてないよ、大丈夫」
『ーーーーー』
王さまの生首が動いて、こっちをじっと見ていた。
上目遣いが様になっててとんでもなく美人だ。
こうやって見ると王さまってイケメンなんだけど美人で可愛いなぁ。
こういうのをなんて言うか私知ってる、あざと可愛いとかズルいっていうんだ。
「へっへへー!王さまってば可愛いんだからー」
生首を持ち上げて頬擦りするけど、王さまは全然嫌がらないし、頭は撫でられっぱなしだし。
かなり甘やかされている感満載だ。
最初は近付くのも拒否されてたのになぁ。
そもそも顔すら見せてもらえなかったし。
進歩だ。
進歩といえば、王さまもだいぶアクティブになった。
原因はあの球体に閉じ込められてたからみたいだけど。
もともとこんな風に色んなところを動き回るのが好きだったのかな。
胴体がなくても動物の骨とかに巻き付いて動いたりできてるぐらいだからなぁ。
「ねえ王さま、次はどこに行くの?」
『ーーーーー』
「向こう側ってのは分かるんだけどさー、沈んだりしちゃ嫌だからね?」
『ーーーーー』
「むぐうっ!」
当然でしょ、と言いたいのか、ぺらぺら喋ってる私がめんどくさくなったのか、髪が伸びてきて私の顔を覆ってきた。
鼻と耳以外に髪がぐるっと巻き付けられて、何も見えないし喋れなくなった。
まあ頭はもともと固定されてるから大して変わらないか。
空を見てるのも飽きたし、王さまの髪がアイマスクしてきたなら素直に従って寝てしまおう。
「ほはふみ、ふぉーはま」
『ーーーーー』
手の感覚で王さまが応えるように口を動かしたのが分かった。
王さまの右腕に頭を撫でてもらって、小さい頃のようにぐっすりと眠りについた。