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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
16/36

16.迷子を甘やかし

「っ、ひ…!」


びくっと体が飛び上がって目が覚めた。

目を開けると空は真っ暗で、星一つなかった。

もう覚えてすらいないけど、とても、嫌な夢を見た気がする。


「……お、おうさま…おうさま、どこ…?」


知らない場所、慣れない土の匂い、ひとりぼっち。

とても長く眠っていたみたいで時間の感覚がなくなってて、寝すぎで頭もキンキン痛い。

真っ暗すぎて、目が開いているのか、それとも閉じたままなのかすら分からない。

怖くてたまらなくなって、寂しさが感情の天井を突き抜けちゃって、体が震えるし涙まで滲んできた。

上か下かも分からない空間に手を彷徨わせて王さまを呼んだ。

すると柔らかな糸がするりと首や太もも、制服から出ている肌を撫でてきた。

ああ、王さまの髪だ、そうすぐに分かった。

お腹に凹凸のあるボーリングの球みたいなものがぎゅっと押し付けられて、背中に腕のような物が抱きしめるように寄り添ってきたから。


「おうさま……王さま…」


『ーーーーー』


お腹の王さまの頭を両手でしっかり抱きしめた。

顔をすり寄せると、王さまがいつもくれる甘酸っぱいベリーの香りがした。

胸の動悸がだんだんと収まってきた。

知らない場所じゃない、知らない匂いじゃない、ひとりぼっちじゃない。

王さまがいてくれることが、どれだけ心強いことか。

慰めるように背中を撫でる王さまの右腕も、温度のない作り物のような生首も、瞬きするたびに頬を掠める長い睫毛も。

全部、王さまだから安心する、落ち着く。

王さまのことが大好き。


「王さま、どこにもいかないで。ずっと一緒にいてよ」


『ーーーーー』


「お話、できなくてもいいよ。私、王さまがいないと寂しいよ…」


知らず知らず、涙が溢れていたらしい。

頬をぬるい液体が伝った。


『ーーーーー』


王さまの右腕が背中から離れた。

そして子どもがするように、手のひら全体でべたっと頬を拭ってきた。

映画とかじゃイケメンは涙を指で掬うように拭うんだよ、って、いつか教えてあげなくちゃ。


「王さま、ずっとそばにいて」


子どもがお気に入りのぬいぐるみを抱きしめるように、王さまの生首を両手でぎゅっと抱きしめた。

額の髪の生え際に口付けをして、顔をすり寄せてぴったりとくっついた。

王さまの右腕に抱きしめるように背中を包んでもらった。

周りで王さまの髪がしゃらしゃらと動く気配がして、たまらなく安心する。

私がどれだけ王さまに依存しているのか、思い知らされたような気分だ。

だけどそれを悪いことだなんて思えない。

私はそれでも王さまと一緒にいたいんだ。




生首と迷子 16




王さまにべたべたと甘えていて、しばらくしたら周りから光が溢れてきた。

しっかりと意識して目を開けていると、みるみる周囲の暗闇が減っていった。

全方位に、以前王さまが警戒して作った繭のように、王さまの髪がまた私を包み込んでいたようだと分かった。

髪が解けていって、外の空間から入ってきた光は優しくて、上を見上げると星が散りばめられた夜空が広がっていた。

閉鎖空間の外から暖かい風がゆるりと吹いてきて、その風の匂いからここが海の近くなんだと分かった。

王さまの手のひらが私の前髪を上げて額をさらけ出した。

何をしたいんだろう、と黙って待つ体勢でいると、王さまの生首が腕から抜け出た。

腕の中からいなくなったことが寂しくて、王さまの髪を両手の指に絡めてみると、王さまが動くたびにサラサラと指の間がくすぐったかった。


『ーーーーー』


王さまが何かを言って、ひたり、と私の額へ静かに唇を押し当ててきた。

そのまるで人間のような行動に、目を丸くしてしまった。


「……王さま…?」


今まではずっと動物のような仕草ばかりだったのに、髪を上げてそこに柔らかく口付けをするなんて、王さまにできるとは考えたこともなかった。

たぶん、イケメンの面を被った犬ぐらいに私は考えていたからだと思う。

それがまさか本当に見た目のままの生き物たったなんて。

驚きすぎてぽかんと口を開けていたら、王さまの生首がちょっと下がってきて、今度は額と額をくっつけてぐりぐりとすり寄ってきた。

かと思ったら頬と頬をくっつけてぐりぐりと。

やっぱり動作は動物…犬みたいだ。


「もしかして…慰めてくれてるの?」


『ーーーーー』


影ができるほど明るいとはいえ夜空の下で、王さまの美貌を真近にしても、私は動揺しない…はずだったのに。


「……?」


生首で、無表情で、意思疎通ができなくて、髪の毛おばけなのに。

どうして私はドキドキするんだろう。

やっぱり王さまが美人だからなんだろうなぁ、と納得した。

生首相手に、それ以外に理由が思いつかなかった。

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