13.迷子と右腕
「お…おおう……」
腕だ。
生首と迷子 13
腕だ、しかも肩からばきっとへし折ったみたいなやつ。
冷たくて硬くてすべすべしてて、でも動かすと力なくぐねっと肘や手首、指が動く。
しかも結構重い。
重さを自覚するとなおさら片手で掴み辛く落としそうになった。
王さまが察知して髪でキャッチしなければ地面に真っ逆さまだっただろう。
王さまは腕を持ち上げてじっくり見た後、根元に髪をぐるぐる巻きつけ始めた。
無くさないようにストラップ的なことをしてるのかと思って見ていると、目の前で腕がぐるんと動いた。
「おわっ!?」
肘がジタバタ暴れるように、次に手首が壊れた機械みたいに動いた。
肘と手首でもう目が追いつかないぐらいなのに、とうとう最後に指までばらばらに動き出して、軽くホラーちっく。
「うわわ…王さま…王さまコレ!コレ!」
気が狂ったような暴れっぷりは見てるのも辛い。
というより、恐怖だ。
しばらく腕が荒ぶるのを王さまを庇いつつ見るだけの状態が続いて、ようやく、唐突にぴたりと腕の動きが止まった。
『ーーーーー』
「王さま…腕、壊れた?電池切れ的なやつなの?」
『ーーーーー』
王さまが何か呟いた。
まるでそれが合図のように、指が、なめらかな動きでやわく閉じられた。
小指から順に、荒ぶることもなく。
さっきとは全く違う。
また手が開かれた。
今度は腕全体がぐるりと動いて、私に向かって握手を求めるように伸ばされた。
髪が絡みついて指一本一本を直接操っているんじゃない。
むしろ…断面から髪が神経や筋繊維に直接働きかけているような動き方。
「……握手、でいいのかな?」
手を伸ばして握手した。
王さまの右手は力加減が分からないのか遠慮がちにやんわりと手を握ってきたけれど、まるで初めて意思疎通ができた時のように嬉しさが溢れた。
「よろしく、王さまの右手」
『ーーーーー』
「てか左手は?そこにもうないの?」
もう何もなさそうだった。
王さまがもう興味ないと言いたげに髪ごと反転した。
王さまの右手は私の肩に後ろからでろんと引っかかって休憩してる。
前方からは心霊写真バリな光景になっているのだろう。
実際、冷たいし重いし、王さまの右手と理解していなければオバケだと悲鳴をあげていただろう。
イケメンに肩を抱き寄せられて胸キュン!なんて憧れとは次元が違いすぎる。
だって王さま、生首と片腕…生腕?だし。
『ーーーーー』
「王さま、次はどこにいくの?」
王さまの髪がぎゅるんと巻きついてきて私の腕も胴体も固定してきた。
直立不動ちょっと後傾体勢のまま王さまの髪でずるずる移動する。
「こんな感じじゃ、左腕も足もバラバラになってるかもねぇ。でもやっぱり胴体から集めていく?近い順?」
『ーーーーー』
「体も足も手もなくたって、王さまは動けるし王さまのままなんだけどなぁ」
『ーーーーー』
王さまを見下ろしたら目を半分ぐらい閉じて眠そうにしていた。
もしも私が王さまだったら。
視界の端で髪に引っかかる王さまの冠がちらっと見えた。
王さまは、五体揃った状態の王さまでありたいんだろうか。
花の化精さんが言ってたような、動物なんかにも囲まれてるような。
「私、王さまがこのまま頭だけでも、王さまのこと好きだよ」
あ、もう右腕もあるけど。
王さまは私に分からない言葉でさえ、返事をしてくれなかった。
代わりにとうとう完全に目を閉じてしまった。