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生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
12/36

12.迷子と片腕

しばらく移動して、だんだん周りの匂いが変わっていった。

森の匂いから水の匂い、それから湿った土の匂いに。

温度もぐんぐん下がっているようで、王さまの髪を通してひやりと鳥肌が立った。


「王さま、寒いよー。ここどこー?」


『ーーーーー』


「ねー、王さまってばー」


『ーーーーー』


しばらく王さまを呼び続けていたら、仕方のないやつめ、と言わんばかりに顔だけ解放された。

うーん、言いたいのはそういうことじゃないんだけどなぁ。




生首と迷子 12




淡い光に慣れない目をしぱしぱ瞬いて、周りに光る苔と蔦だらけの古い遺跡を見た。

天井から水が滴っていて、地面が雨上がりのように濡れている。


「なんか…ファンタジーだねぇ」


ゲームに出てきそうな雰囲気。

けどそこの壁を這ってるムカデは無理。

あれはファンタジーじゃない、普通にグロい。

こんなに冷えてて寒いのに虫は動いてるのか。

王さまの顔がありそうな場所に手を伸ばせば、意を汲んで王さまが頭を動かしてきた。

案の定、王さまの頬も冷蔵庫の中に入れた豆腐のように冷たい。

肌色が良くないのは元からだからいいか。


「王さま、冷たいよ」


『ーーーーー』


少しでも温まるようにと撫でさすっていると割とされるがままでいてくれるから、王さまの首を引っつかんで懐に突っ込んだ。

ここの方が王さまの髪でぐるぐる巻きにされていた分、少しでも寒さがましだろう。

ちょうどバレーボールみたいな感じで抱き込めた。

王さまは嫌がらなかったけど、落とされると嫌なのか髪で腕と背中に絡んできた。

信用ないなぁ。

王さまは横目でだけど前方を見つめている。

私を固定しながら髪で足を作って、より寒々しい前方へと進んでいる。

だんだん吐く息まで白くなってきた。


「王さま、どこまで行くの?」


『ーーーーー』


このままじゃ地の底まで行ってしまいそうだ。

いくら王さまの髪で覆われてたって寒さは感じるんだから。

でもなぜか息がしやすい。

酸素密度、高いのかな。

普通は地下には二酸化炭素の方が溜まるって聞くけど。


『ーーーーー』


「え?」


王さまの口がもごもご動いた。

相変わらず言葉は分からないけど、私の言葉に対する反応じゃなく何か意図して言い出した。


「王さま?」


王さまの髪がずるりと前方に伸びていく。

暗闇の中でピカピカ光る蔦を引きちぎって、何かを探っている。

もしかして、腕がある?


「王さま、私、取ろうか?」


『ーーーーー』


「でもムカデとかいたら追い払ってね」


『ーーーーー』


王さまの髪の中から暗闇の方に腕を伸ばして見せた。

意図が伝わったのか、王さまが私を前に押し出してくれた。

胸から下は髪で固定されたままだけど、なんとか何かある所には手が届く。

蔦が引きちぎられて光源がないから、本当に手探りだ。


「んー…何もない………いい"っ!な、何かあった!何かあった!」


何もないと思っていたら、何かが手に一瞬触れた。

冷たくてさらさらした何かをムカデかと思って飛び跳ねて怯えたけど、王さまの反応からするとどうも違うらしい。

むしろ積極的に、私の腕に髪を絡めて触れと押し出している。

まるで、王さまの首に触っていた時のように。


「うぅ……触らないとダメ…?……くそーっ!でやっ!」


思い切って手を伸ばした。

石の壁とは明らかに違う質感の、何かに触れた。

そう、例えるなら、片手で抱きしめているこの王さまの皮膚と同じ。

思い切って何かを掴み、引き寄せた。

ばきん、と何かが割れた音が聞こえた気がした。

間近に引き寄せた何かが、周りのわずかな光源に照らされて目視できた。

私が掴んでいたもの。

それはまるで作り物のような、冷たい腕だった。

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