表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生首と迷子  作者: 木枯雪
第1章
1/36

1.迷子の現在

私は今、長い髪の『王さま』に養われている。

どうやらどこかに落ちた私を王さまが見つけて拾ってくれたのだとか。

言葉が通じないながらもなんとか養ってくれるらしいと理解するまでに数日はかかった。

そして王さまの顔を見るまでさらに数日。

私と王さまの二人しかいない空間で、何故王さまの顔を見るのに時間がかかったのか。

それは、王さまが頭部しかない、しかも長い髪を手足のように操る、超絶美形のバケモノ(恥ずかしがり屋)だったからだ。




生首と迷子 1




私がいるこの空間は不思議空間だ。

巨大な半透明の球体の中なのだが、無重力なのか体が常にふわふわ浮いている。

居心地は良いとは言えないが、まあ悪くもないというか。

曇りガラスのような硬い膜の外には空や地面、海や山のようなものもぼんやり見えて、眩い太陽の光が空を突っ切るのを見ながら1日1日を数えた。


「今日で2週間だよ…。もうどうすればいいのよー」


暗くなった空間を、足元から薄っすらした光が照らす。

おっと、そっちが上空だったか。

ぐるっと腹筋で体の向きを変えるのにもすっかり慣れてしまった。


『ーーーーー』


「王さま?わぁ、何それイチゴ?美味しそう!」


音もなく(生首だし)近寄ってきた王さまが、どこからか取り出してきた何か。

微かな光を頼りに目を凝らすと、赤黒く瑞々しい果実だと分かった。

甘酸っぱい匂いがたまらない。

食べなさいと言うように髪で(ここ重要)差し出される物を食べるのにも抵抗がなくなった。

だって王さま、首から下がないもの。

ついでに喉がカットされているからか声も出ない。

……気遣いなのか、断面は髪でいつも隠してて見たことがないけど。

というより髪で頭部全部を覆っていることが多いから、顔を見ることもあんまりないけど。


「いただきまーす。……んーっ!おいしーい!」


イチゴとはまた少し違うし、酸味も強いけれど、甘みとベリー系の香りが嬉しい。

何故か空腹感も便意も温度も睡眠欲すら感じないこの夢のような場所でも、口寂しいというか楽しめる物があるというのはありがたい。

養ってもらっている身ではあるが王さまには感謝だ。


「王さま。王さまも、はい!」


『ーーーーー』


髪で口を覆い隠して逃げられた。

遠慮せず食べろということなのか。

でも王さまが何かを食べる姿なんて見たことがない。

ちょっと見てみたい。


「王さま!」


一粒だけでもいいから、一緒に食べよう。

王さまの側まで移動して突き出すと、折れてその一粒を受け取ってくれた。

それでもなかなか食べようとしない王さまをじっと見つめると、ようやく小さな一粒を口に含んだ。

今までずっと表情の変わらなかった王さまが、酸っぱそうにキュッと顔をしかめた。

能面みたいな超絶美形が崩れて人間らしい可愛さが見えた。


「王さま、ベリー系ダメなんだ!あははははは!」


生首のバケモノが意外と可愛い生き物だと分かって、2週間ぶりにお腹から笑うことができた。

ああ、お腹が痛い。

王さまはまた能面顔に戻って、しかもちょっと不機嫌そうに眉間にシワを寄せていた。

さすがに悪い気がして謝ったけど。


「ありがとう、王さま」


残りのベリーを大切に食べていくと、王さまの眉間からシワがなくなっていった。


『ーーーーー』


王さまは口パクで何かを言って、髪の中に埋もれていった。

多分アレはちゃんと食べろよとか、おやすみとか、そういう言葉だったんだろう。

日本の我が家に帰る手立ては未だに無い。

けど、いい人に拾ってもらえたなぁ、生首だけど。

長い髪が周囲をずるりと蔓延る空間で、ぎらりと鈍く輝く王冠を見ながら思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ