VOL.94 七夕
どこからでも天の川が綺麗に見えたのは、いつの時代だったろう?
今は昔と違い空が汚され、天の川どころか、大きな星も満足に見えないのに、七夕って意味があるのだろうか?
笹に願いを書いた短冊を付けても、星まで届かなければ意味はないだろうに。
七夕、七夕と浮かれているけど、七夕のなんたるかを知っている人が、今の時代、いったいどれくらいいるのだろう?
意味も知らずに、願いが叶うはずはないのではないか?
7月6日の夜、梅雨の合間に訪れた晴れの夜空をスカイツリーの展望台から拝みながら、孫の手を取っていた留吉は、そんなことを思っていた。
留吉が孫くらいの歳には、東京の夜空にも、輝くばかりの満天の星を見ることができた。
それだけ、空が澄んでいたのだ。
わずか70年足らずの間に、これほど変わってしまうとは。
「悠久の時」という言葉は、もう過去の遺物だ。
今の人間は、常になにかに追い立てられている。
科学の進歩と共に、自然も破壊されてゆき、太古の面影を残している地域が、今地球上にどれだけ残っているのか。
「おじいちゃん、あすはたなばただね」
言葉を覚えたばかりの孫が、拙い口調で留吉に話し掛ける。
「ああ、そうだよ。おじいちゃんとなおちゃんのように、滅多に会えない人が合える日なんだよ」
たとえ星が見えなくても、明日も晴れるといいなと、留吉は心から願った。




