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VOL.92 優しさ
どうして、こんなことになったのか?
自分のどこがいけなかったのか?
三年間付き合っていた恋人の幸雄に、突然別れを告げられて、あっさりと捨てられてしまった。
理由を訊いてもなにも答えてくれず、ただ、別れようの一点張りだった。
幸雄は、優しすぎるくらい優しくて、佐和子がどんなに我儘を言おうが、怒ることもなく、嫌な顔ひとつみせず、言うことをきいてくれた。
私は、幸雄の優しさに甘え過ぎていたのか?
幸雄は、無理をしていたのか?
いくら考えてもわかるはずはないし、考えれば考えるほど、自己嫌悪に陥っていくだけだった。
幸雄が自分を捨てた理由がわかったのは、幸雄に去られた半年後だった。
それは、共通の知人からもたらされた。
幸雄は、癌に侵されていた。
発見したときは、かなり進行しており、既に手遅れだったと聞いた。
最後まで、佐和子の名を呼んでいたとも聞いた。
幸雄は、自分が佐和子を幸せにできないとわかったとき、佐和子が幸せになれるよう、引き摺らない形で、手を打ってくれたのだ。
最後まで優しかった幸雄を知って、佐和子は号泣した。
号泣の理由は、幸雄の優しさにほだされたからではなく、幸雄の自己満足の優しさに恨みを抱いたからだ。
お蔭で佐和子は、幸雄のことを引き摺らないで済んだ。




