VOL.9 猫になりたい
義明は、ビルの屋上のヘリに立ち、暗い目をして、彼方に沈む夕日を見つめていた。
ここに立つのは、これで三日目だ。
この三日というもの、義明にとって、辛い日々だった。
発端は、付き合っていた彼女が、猫を飼い始めたことだ。
猫を飼ってからの彼女は、日が経つにつれ、外で会うのを嫌がるようになり、義明が遊びに行っても、猫とばかり戯れるようになった。
それに苛立ちを覚えた義明は、ある日とうとうキレてしまい、「俺と猫とどっちが大事なんだ」と、彼女に怒鳴った。
「猫よ」との返答に激怒した義明は、猫をおもいきり蹴飛ばして、彼女の部屋を出た。
それが、四日前だ。
「あ~あ、俺も猫になりたい」
義明は、羨望のあまり強く思って、義明は眠りについた。
次の朝起きてみると、なんと、自分が猫になっていた。それも、野良に。
それから三日、義明は、野良猫の苦労をさんざん味わった。
「俺は、彼女のような女性に可愛がられる猫になりたかったんだよ~」
夕日に向かって、義明は怒鳴った。
これも、三日目になる。
「いやね。また、あの野良猫が鳴いてるわ」
ビルの屋上から聞こえてくる、ニャーゴという声を聞きながら、寄り合っていた近所の奥さん連中が、眉をひそめた。