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VOL.82 大驚愕
「まかせとけ」
俺は、周囲に勇ましく言ってから、建物の中へと入っていった。
中には、幼い子に包丁を突き付けている、けちな強盗がいる。
俺は交渉人。
いわゆる、ネゴシエーターというやつだ。
主に、凶悪犯罪者と渡り合う。
そりゃそうだよな。大人しく捕まる奴なら、交渉なんてする必要がないものな。
俺の戦歴は中々のもので、これまでどんな凶悪犯であろうと、落とせない奴はいなかった。
俺にとっちゃ、ただの強盗なんざ朝飯前っていうやつよ。
「おい、犯人さん」
これが、俺の殺し文句。
居丈高になるのでも、媚びたりへつらったりするのも、この手の犯罪者にとっては禁物というもので、友達に接するように、ごく自然に、親しみを込めて呼びかけるのさ。
ただし、自分はあくまでも犯罪を犯しているということを自覚させるためと、慣れすぎないようにする ため、「犯人さん」と呼ぶ。
この出だしが、すごく重要なんだ。
出だしで、成否が決まるといっても、過言ではないのさ。
しかし、この日の俺は、いつもと勝手が違った。
犯人の顔を見た途端、俺は心臓が止まるかと思うほど驚愕し、頭の中が真っ白になっちまった。
犯人は、俺の弟だった。




