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VOL.81 人生を振り返る
歳を取ると、昔のことが思い出されるという。
僕もそうだ。
六十路に近づいた頃から、やたら昔のことが思い出されて、懐かしさが込み上げてきたものだ。
定年退職後は、それがもっと酷くなった。ともすれば、日がら一日中、昔のことばかりを思っている。
不思議と、嫌なことは思い出さない。
いや、ちょっと違うな。
その当時は嫌だったことが、振り返ってみれば、いい想い出となっているというべきか。
嫌なことを忘れるならともかく、それがいい想い出として蘇ってくるなんて、人間なんて勝手なものだと、つくづくと思う。
僕を目の敵のように、事あるごとに叱っていた上司。
こっぴどく僕を振った恋人。
そんな奴らさえ、今は懐かしく思える。
定年後、することもなく暇を持て余してした僕は、想い出をノートに綴るようになった。
脈絡もなく、思い出すままに、昔のことを綴っていった。
その作業は楽しかった。
没頭した俺は、一週間も経たぬ間に、自分の人生のほぼすえbてを、十冊のノートにまとめていた。
自分でも、何を書いたか覚えていないほど集中していたので、最初から読み返してみた。
よい事なんて、ひとつも書かれていない。
僕は愕然とした。
一体、僕の人生ってなんだったんだ?




