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VOL>76 戻れない
ある日、貧しいながらも、人々は幸せに暮らしていた村から、温泉が湧き出た。
ボーリング調査をしたわけでもなく、掘削をしたわけでもない。
それは、本当に突然ともおいうべき出来事だった。
岩と岩の隙間から、いきなり熱い液体が吹いて出たのだ。
調べてみると、良質の温泉だということがわかった。
村人は、諸手を上げて喜んだ。
過去から、延々と続く貧しい農村。
それが、一瞬にして金の卵を掴んだのだ。
有頂天にならないわけがない。
村人達は、あちこちからお金を借りて、巨大な温泉旅館を建てた。
旅館が出来て一年は満室が続き、村は潤った。
村が潤うと、村人はだんだんと贅沢になってきた。
贅沢に慣れた村人達は、昔の貧乏だった頃を忘れて、もっと贅沢がしたという欲に駆られて、傲慢になってきた。
宿泊費を吊り上げてゆき、最初は良かったサービスも、宿泊費の値上がりと共に、緩慢になってゆき、今では、劣悪とも呼べるものに成り下がっていた。
そうなると、必然的に客は離れてゆく。
運の悪いことに、その頃に温泉も枯渇したのか、湧き出なくなった。
村は、元の貧乏な村に戻った。
しかし、村人の心は元には戻れず、貧乏が嫌で、みんな村を離れていった。




