VOL.5 魂
秋彦は、超ポジティブで、いけいけの営業マンだが、勘違いが激しいのが、唯一の欠点だ。
今日は、珍しく落ち込んだ顔で、会社に帰ってきた。
「どうした?」課長が、問いかける。
「今、商談を進めてる外資系の会社が、思う通りにいかなくて。きっと、僕の英語力が足りないせいだと思うんですが」
「おまえにしちゃ、珍しいな。そんなことで落ち込むなんて」
「さすがに、何回も無駄足を踏めば、いくら僕でも落ち込みますよ」
「語学力なんて、大した問題じゃないよ。全力でぶつかればいいんだ。だからといって、本当に体当たりをしろと言ってるんじゃないぞ」
秋彦の性格を熟知している課長は、念を押すことを忘れなかった。
「そんなことは、わかってますよ」秋彦が苦笑する。
「要は、ここだ」課長が、自分の胸を叩いてみせた。
「魂をぶつけろ。全力でぶつかれば、道は開けるさ」
「わかりました」
秋彦が元気よく答えた途端、ばったりと倒れた。
ぽかりと開けた口から、おたまじゃくしのような形をした、霧状の塊が飛び出した。
その塊は、窓のところまでゆらゆらと漂うように進んでいたが、スっと窓をすり抜けると、ある方向を 目指して、凄い勢いで空中を飛び去っていった。
魂が飛び去った方角を憮然とした顔で見つめながら、呆れた口調で、課長が呟いた。
「あいつ、本当に、魂をぶつけに行きやがった」