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VOL.45 知らぬは亭主ばかりなり
直樹は、今日で定年を迎えた。
長年勤めた会社を去るのは寂しかったが、妻の朋美と明日からずっと一緒におれるのが、楽しみでならない。
朋美は出来た嫁で、直樹が仕事に明け暮れ家にほとんどいなくても、子供を育てあげ、家庭のことをきちんとしてくれていた。
直樹は、明日から、これまでの償いをする気でいた。
朋美も、それを楽しみにしているだろうと、勝手に想像していた。
「ただいま」
元気よく帰った直樹に、朋美が一枚の紙を差し出してきた。
それは、離婚届けだった。
「私の分は、記入捺印しているから、後はあなたの分をお願い」
直樹の目の前が真っ暗になった。
直樹は、信じられない面持ちで朋美を見た。
そして、どうやら冗談ではなさそうだと悟った。
「なんで?」
「私はね、これまであなたがほとんど家にいないで、お金だけを運んできてくれるから我慢してたの。それが、お金も稼がないで、毎日顔を突き合わすことになるなんて、考えるだけでもぞっとするわ」
これまでの朋美とは違い、氷のように冷たい声だった。
直樹の目の前が真っ暗になった。
気が付くと、朋美の首を、渾身の力で絞めていた。




