表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20行ショート  作者: 冬月やまと
4/440

VOL.4 たいせつな忘れ物

 ここ最近、哲夫は人生に倦んでいた。

 哲夫は、吊革を持って、滅多に乗ることのない電車に揺られていた。

 終電に近いので、灯りも少なくなった流れる景色を、見るともなくぼんやりと眺めていると、

「うっせぇんだよ」

 哲夫の斜め後ろから、だみ声が聞こえてきた。

 振り返ると、よれよれのスーツを着た中年のオヤジが、青年に顔を近づけて、息巻いている。

 酔いと怒りのせいか、顔が赤黒い。

「おまえ、何様だ? あ~ん 若造のくせに、年上に指図するんじゃねえよ」

 若者とオヤジの横には、杖を持った老婆がおろおろしている。

察するに、足腰の弱ったお年寄りを前にして、堂々と座っていたオヤジを、青年が注意したとみえる。

「年上なんて、そんなの、関係ないでしょ。僕は、当たり前のことを言った…」

 青年にみなまで言わさず、オヤジが青年の襟首を掴み、拳を振り上げた。

 その手首を哲夫が掴み、「おっさん、その辺にしときな」とドスの利いた声で制した。

 オヤジは哲夫の顔を見るなり、怯えた顔をして、何も言わずそそくさと車両を移っていった。

「ありがとうございました」

 青年は、哲夫を見ても怯えることなく、素直に頭を下げた。

「いいよ、礼なんて。礼を言いたいのはこっちなんだから」

 哲夫は青年を見ていて、何か、忘れていた大切なものを取り戻したような気分になって、思わず行動に出てしまったのだ。

 ヤクザから足を洗って、カタギの人生を送ってみるのもいいかなと、哲夫は思い始めていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ