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20行ショート  作者: 冬月やまと
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32/440

VOL.32 趣味

 寺坂信幸は、若い頃から会社を転々としている。

 今の会社は幾つ目のことか。

 彼は非情におとなしく、誰になにを言われても怒ることがなかった。

 そのせいか、上司や先輩によく雑用を押し付けられた。

 彼は、どんな雑用であっても、嫌な顔ひとつせず引き受けた。

 大抵の人間は、そんな彼を庇うより、苛めるか傍観者の立場に回る。

 これまでいくつも会社を変わってきたが、彼を庇ったり守ったりしてくれる人間は、一人もいなかった。

 ある時、些細な事で、信幸が上司に対してキレた。

 そのキレ方は尋常ではなく、その場に居合わせた者全員が凍りついた。

 日頃、彼を小馬鹿にしていた者も、例外ではなかった。

 信幸は言いたい放題言って、挙句に辞表を叩きつけ、その場で会社を去った。

「また、やったのか?」

 小学生以来の友人が、信幸と酒を酌み交わしながら、呆れたように言った。

「ああ、面白かったぞ」

 会社でのおどおどした雰囲気とはがらっと変わって、信幸は破顔しながら酒を呷った。おとなしい振りを演じておいて、ある時に豹変し、心底人を驚嘆せしめるのが、信幸の趣味であった。

「おまえの趣味にも困ったもんだな。そんなことじゃいつまで経っても、嫁さんもらえないぞ」

「別に、いいよ。俺は、これが楽しみで生きてるんだから」

 友人は処置なしというように、静かに首を横に振った。



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